第二十五話 海渡の願い
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「このキングレッドってこれからどうするつもりなの?」
「え、いや、一応レンタルですから、終わったら返却する必要があるのですが」
「ならそれ無しで。それが願い」
「えええええぇええええぇえええ!?」
田中が素っ頓狂な声を上げてから首をブンブンっと振った。
「無理です無理です! それレンタルと言ってもただのレンタルじゃないし、私殺されてしまいますよ!」
「お前、何でも叶えるといったわりにさっきから無理ばっかりじゃねぇか」
虎島が呆れた声で言った。実質願いが叶ったのはなにかの情報を聞いた杉崎ぐらいである。
「でもキングレッドを返したらまたデスゲームに利用されるだけだからね」
「ガウ?」
話を聞いていた紅蓮の獅子が小首をかしげて鳴いた。正直ここまで威厳を無くし、おとなしくなったキングレッドに今更何が出来るのかと言ったところだが素直に戻すのが海渡には嫌だった。
「自業自得だと思って諦めるんだな」
「うぅ、そんなぁ」
「ま、命の心配なら大丈夫だよ。暫く警察のご厄介になるだろうし」
「いや、その程度で何とかなるとも……」
「大丈夫。先ず死なないから。それは保証するよ」
「は、はぁ……」
田中は諦めに似た細い声を上げ俯いた。しかし海渡の言ったことは本当だった。結局誰一人犠牲者が出なかったとは言えやったことがやったことだけにただで終わらす気は海渡にはなく、毛根も死滅させた上、田中の運を最低値にまで下げておいた。
これで今後田中は悔い改めてよっぽど頑張らない限りいいことなどない。しかし、同時に海渡は田中の生命運だけはかなり上げておいた。これにより全くいいことはない人生になるかも知れないがそうそう死ぬことはなくなったのである。
「ところで返さないとしてその獅子はどうするつもりで?」
「ま、こっちでなんとかするよ」
「はぁ……」
田中が気のない返事を返した直後だった。
「あれ? 何かサイレンの音が聞こえてこない?」
鈴木が耳に手を当てて皆に問いかけた。海渡はとっくに気がついていたが何台ものパトカーがここまで近づいてきている。
「流石に逃げた客の誰かが通報していたのかもな」
「おいおい、このおっさんが捕まるのはいいが、この赤いライオンはまずくないか?」
「ガウ?」
虎島がキングレッドを撫でながら心配そうに言った。確かにこんなライオンが見つかったら大騒ぎである。
「お前は一旦この茂みに隠れてて」
「ガウ!」
海渡に言われるがまま、キングレッドは茂みの中に入っていった。しかし虎島は眉を垂らし。
「こんなところに隠れてもすぐにバレないか?」
「大丈夫だよ。大体こんなところにライオンがいるなんて誰も思わないだろうし」
「う~ん、確かにまさかのまさかだよね」
鈴木も言われてみればと納得した。もっとも海渡が何もしていないわけがなく、実際はキングレッドが見つからないよう存在感を消し去る結界を張っている。
「お前、あいつのことをバラすなよ?」
「言いません言いません! 寧ろ黙っててくれるなら好都合ですし!」
首をブンブンっと振って田中が答えた。確かにこの上あんなライオンまで見つかっては罪は重くなる一方だろう。
「通報を受けた警察だ! 何やら怪しいゲームをやっている人物がいて、学生が巻き込まれていると聞いたが」
「あ、はい。それは私です」
「え? お、お前が、か?」
「ただの禿げたおっさんじゃないか」
「はい、すみません」
「え~と、それで君たちが……?」
「巻き込まれた学生です」
「……すごく元気そうだな……」
「とにかく事情を聞きたいから署まで同行してもらっていいかな?」
警察にそう言われたので海渡達も素直に応じることとした。そのままパトカーで警察署まで連れていってもらう。
海渡はパトカーに乗るのはわりと初めてなのでわくわくした。
「カツ丼って出ますか?」
「あれはドラマだけだよ」
「あの犯人が奢ってくれると思うんで」
「そうか、なら頼もう」
警察署について事情徴収を受けながらちゃっかり田中の奢りにしてカツ丼を食べてご満悦の一行である。
その後は、田中も素直に取り調べに応じたことから、特に問題なく海渡達との話は終わった。
解放された後は、やはり田中の支払いにしてもらい、別な安全なホテルに一泊した一行である。
「何か色々あったけど、海渡のおかげで楽しめたな」
「本当、デスゲームをやらされたとは思えない感想だけどな」
帰りの電車の中で苦笑交じりに杉崎と虎島が言った。花咲や佐藤と鈴木も似たような感想だっただろう。
そして海渡は、寝ていた。
「本当よく寝るよなこいつ……」
「全くこの調子で電車の中でまで妙なことに巻き込まれるのはゴメンだぜ」
「杉ちゃん、そういうのは駄目だよ」
「あぁわりぃわりぃ」
花咲に咎められ頭を擦る杉崎。しかし、特に何かアクシデントに見舞われることもなく帰りの電車は進んでいく。
「何もなく帰れそうで良かったね」
佐藤がホッと一安心といった顔を見せる。だが、佐藤の隣の席に座っている鈴木が神妙な顔を見せていた。
「どうした鈴木?」
鈴木の様子に気がついた杉崎が問う。まさか、何か厄介事か? と少し不安そうであるが。
「何か、大事なことを忘れているような?」
「大事なこと? う~ん、あれ?」
「そういえば確かにすごく大事なことな気がしてきたかも……」
佐藤と花咲も首を傾げて悩んだ。何かを見落としている気がしてならないようであり。
「……あ、あぁ! キングレッド!」
「「「「あ……」」」」
虎島が叫び、残りの4人が声を揃えてしまったという顔を見せた。
「ど、どうしよう流石にまずいよね?」
「戻るか?」
「ふぁ~、そういえば……」
鈴木と虎島が不安そうにしていると、海渡が呑気に欠伸をしながら目を覚まし。
「確かに忘れてたね」
「いやいや、そんなちょっと忘れ物しちゃったみたいなノリで言ってる場合か?」
「あぁ、ま、大丈夫だよ。こっちで何とかするから」
「何とか? え~と何か手はあるの?」
「うん。それに、迎えにいったところで電車で連れて帰るわけにもいかないもんね」
「そういえば、確かにそうだね」
「おっきいもんね……」
「つまり、海渡にはあの巨体を連れ帰る手があるってことか」
「ま、海渡なら何とかするんだろうさ」
こうして結局海渡に任せるという形で話は纏まり、引き返すことなく各自の家に戻った一行であった。
◇◆◇
「……我、いつまでここにいればいいのか、てか腹が減ったんだけど――」
そしてキングレッドはキングレッドで海渡の言いつけを守り、大人しく藪の中で待ち続けていたという――
なお、この後キングレッドはしっかり海渡が魔法で回収しました。
これにてデスホテル編の本編は終了!
ちなみにデッドチャンネルに関してはこの先で何かしら!
そしてあとはちょっとしたその後の回を挟んで第三章に進みます。
さてその第三章ですが『皇帝の遊戯編』となります。
あらすじ的には、海渡含めたクラスメート全員のスマフォに突如皇帝を名乗る何ものかからメッセージが
皇帝の権限は絶対な為、命令に従わなければ刑が執行されてしまう!果たして海渡は!
といった感じですよろしければ今後ともよろしくお願い致します!




