番外編⑧ その一 戻ってきたら終わってた男
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とある日曜日――杉崎は自宅のパソコンで配信を見たり、ゲームをしたり、ついでにデスゲームの情報を漁ったりして、のんびり過ごしていた。
「ふぁ~、そろそろ昼かぁ」
時刻を確認しながら欠伸を漏らす杉崎。昼飯はどうしようかと考えていると、部屋のチャイムが鳴った。
「なんだ? 楽ゾンの配達かな?」
楽ゾンは世界的にも有名なネット通販サイトだ。ここに頼めばゲーム、食べ物、パソコン、初心者用デスゲームセット、猿でも始められるデスゲームなどの関連書籍、委員長のデスカレー(コラボ企画)など、大概の物は手に入るので重宝している。
『いやいや後半におかしなの一杯混じってるから! 特に最後は世界を破滅しかねない代物だよ! 誰だよこんなコラボ申し込んだの!』
妙なツッコミがポップアップで表示されたが、杉崎は華麗にスルーして玄関のドアを開けた。すると、そこには中学生ぐらいの男子が笑顔で立っていた。
「……えっと、誰?」
配達員が来たと思い込んでいた杉崎は、突然の来訪者に面食らう。一方の少年は「ヨッ」と軽く右手を上げて――。
「いやぁ、お前は変わらないなぁ。元気な姿を見られてパパは嬉しいぞ」
「……あ、そういうの間に合ってるんで」
真顔でドアを閉める杉崎。だが次の瞬間、鬼のような連打でチャイムが鳴り響いた。
「おい! いいかげんにしろよ。子どもの悪戯でもやっていいことと悪いことがあるんだからな」
「本当なんだ息子よ! 私はお前のパパなんだよ。名前は杉崎 泰斗! 妻は病気で他界、俺はジャーナリストをやっていた頃、デスゲームを調査中に組織に気づかれて殺された。だけどそのあと異世界転生したんだ!」
「……おい! お前なんで親父のことを知ってるんだ!」
「だから本人なんだって!」
必死に訴える少年に杉崎は眉を顰めた。
「……お前、それを証明できるのか?」
「初恋は幼稚園の頃。クラスメートのゆいちゃんだったな。おねしょ連続記録保持者で十日連続で――」
「待て待て待て待て!」
杉崎は慌てて少年の口を塞ぎ、周囲を確認してから部屋へ引きずり込む。
「自分の父親を部屋に連れ込むなんて、お前も頼もしくなったものだな」
「誤解を招くようなこと言うなよ! てか本当に親父なのかよ……」
ため息混じりに呟く杉崎。改めて見ても、中学生にしか見えない。だが冷静に考えれば、海渡も異世界帰りだし、虎島は異世界の幼馴染を連れ戻し、その星彩 景も転生者だ。
「いや、今さら信じないほうが不自然か」
「うん? どうした息子よ」
「いや、まぁ……信じるよ」
「おお! これが親子の絆ってやつか!」
どちらかというと“周囲の影響力”が大きい、と苦笑する杉崎である。
「それで、異世界で親父は何をしてたんだ?」
「うむ。信じてもらえないかもしれんが――世界を救うため、魔王討伐にな」
「へぇ、すごいじゃん」
「……お前、信じてないだろう?」
「いや、ぜんぜん信じてるよ。マジで、ありえるし」
杉崎が真顔で答えると、泰斗は拍子抜けした表情を浮かべた。
「それで、異世界転生していた親父がどうして戻ってこられたんだ?」
「魔王を倒したら、神様に『もう帰っていいよ』って言われてな」
「あっさりだなおい!」
適当すぎる神もいたもんだ、と呆れつつ、何故かサマヨの顔が浮かび上がり妙に納得してしまう杉崎だった。
「息子よ――お前には苦労をかけたな」
「何だよ、急に真顔になって」
「本気でそう思っているんだ。お前一人を残して逝ったことを後悔していた。だが――俺はまだ諦めきれていない」
神妙な面持ちで語る泰斗に、杉崎は胸騒ぎを覚える。
「諦めてないって、何を?」
「デスゲームのことだ。俺はあと一歩というところまで黒幕に迫っていた。追っていたのはデッド博士というマッドサイエンティスト――運営の中でもトップクラスにヤバい奴だ。異世界で得た力で、今度こそ追い詰めようと思う!」
「あー……ごめん。その組織、もうとっくに潰れてるわ」
「そうか、潰れてるか。だが分かって――って、え? 今なんて?」
「だから、とっくに壊滅してる。俺の親友達がな」
「は? はぁああぁああああぁああッ!?」
こうして無事(?)帰還を果たした“父”の絶叫が、平和な日曜の昼下がりにこだましたのであった――。
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