番外編⑥ その二 舞子の悩み
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「私、悩みがあるの」
舞子が重たい口調で語りだした。とても真剣な顔だった。しかし――
「このファミレスというレストランのカルボナーラは中々に美味しいですわね。ロイヤルな味ですわ」
「それが庶民の味なんだよ~玲香~」
「このハンバーグステーキに今度チャレンジしてみようかな」
「え! こ、これをですか。レシピわかります?」
「勿論レシピはいつもしっかりチェックしてるもの」
「レシピ見てたの!?」
「委員長の料理は全部タイガーに任せよう」
「それがいいな。あいつならどうなってもいいし」
「あははは、タイガー先輩も散々だねぇ」
「え? ドリングが飲み放題なのか! それで採算とれるのか!」
「嫌だ美狩ちゃん可愛い」
「うんうん。可愛いよねぇ~」
「委員長の料理はわ、私が本当に食べてみせるから!」
舞子の蟀谷がピクピクと波打っていた。それはそうだろう。悩みがあるといっているのにほぼ全員好き勝手に食べたり喋ったりしているのだから。
「わ・た・し、悩んでいるのよ! 聞いてる!?」
『あ、はいごめんなさい。ちゃんと聞きます』
怒り心頭と言った様子を見せる舞子の気迫に気圧され、いよいよ全員が話を聞く姿勢になった。やれやれと舞子が額を押さえる。
「それで悩みとはなんですの?」
「あ! もしかして杉崎との関係で悩んでるとか?」
「何! あの男が浮気をしたのか!」
「やっぱり男ってクズね!」
「消し炭にしてあげるわ!」
「落ち着いて浮気とは誰も言ってないから、ね?」
勝手に勘違いして憤る異世界三人娘を宥める景であった。とは言え舞子の悩みというと杉崎関係しか思いつかないのも事実であり――
「それも一つあるわ。でもね、何より問題なのは――」
疑問に答えるように口にした舞子。テーブルの上で両手を組み、悩ましげな瞳で口を開く。
「最近の私って、影、薄くない?」
そうみんなに向けて問いかけた。そう舞子の悩みとは自分の存在感がなくなってきていることについてだったのだ。
『いやそこまで言ってないよね! 影が薄いことを気にしていても存在感までは』
「シンキチ黙れ!」
『あ、はい。ごめんなさい……』
悩みの真剣さ故か、ツッコミテラーのシンキチにまで当たりちらす舞子である。
『いやツッコミテラーってなに! ストーリテラー的に言われてもわけわからないからね!』
「くッ! これよ! この違いよ! 私なんてなんなら回によっては全く出ないときだってあるのに、こいつはツッコミが出来るってだけでどこでも出番がもらえる! それに比べて私の出番の無さと言ったら!」
苦虫を噛み潰すような顔で舞子が言った。確かにシンキチは大凡どこでも出しゃばって来る。それを考えると舞子の出番が少ない気もしないでもない。
「そんなごまかしいらないのよ! 皆だってそう思ってるでしょう!」
「えっとぉ……」
そう問われ言葉に詰まる一同であった。しかしそれはある意味答えていると一緒である。
「いや、でも気にしすぎじゃない? ほら出番なんてある時もあればない時もあるわけだし」
笑顔で語る鈴木を舞子がギロリと睨んだ。
「貴方はいいわよね。委員長の友人というポジションにいるおかげで出番がもらえるんだから」
「ちょ、それは卑屈が過ぎない? 大体舞子だって杉崎の幼馴染という有利なポジションにいるじゃない」
「どこがよ! 確かに私は杉崎の幼馴染ではあるけど、それが活かされる状況なんて殆どなかったわよ! 精々最初のデスゲームで杉咲のモノローグ的なのにちょこっと出てきたぐらいだし、なんなら世界線によってはそれすらなくなっていることだってあるんだからね!」
「よ、呼び捨て……」
委員長が目を丸くさせた。舞子はいつもなら杉崎くんと呼ぶことが多いのにここにきて呼び捨てである。その変化にも驚いているのだろう。
「その世界線とやらは何なのかしら?」
テーブルを強く叩き嘆く舞子だが聞いていた一同からすると一部わからないこともあるのである。
「気持ちはわかりますわ。私も黒瀬 帝とキャラ被りをしていて個性が出ていないようで悩む日々ですもの」
「あんたぶっ飛ばすわよ!」
「えぇえええ! 急になんですの!」
舞子の逆鱗に触れた金剛寺だがその理由が本人にはわかってないようであり、ヨヨヨと椅子から崩れ落ちた。
「お客様、他のお客様の迷惑になりますのでそういったオーバーリアクションはご遠慮ください」
「あ、はいごめんなさいですの……」
そこへすかさずやってきたキャストに注意されてしまう金剛寺であり、シュンっとなっていた。
『何このファミレス凄くちゃんとしてる~~~~!』
「あんたもぶっ飛ばされたいの!」
『ひぃいぃ、ごめんなさいごめんなさい』
「や、やさぐれてる――」
金剛寺だけではなくツッコミテラーにも噛みつく舞子に戦慄を覚える一同なのであった――
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