番外編⑤ その二十四 壊してはいけない物を壊したようだ
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大宮の問いかけ――皇帝の遊戯には確かに海渡には覚えがあった。なにせわりと最近の記憶だ。海渡に限らず杉崎にとっても記憶に新しい。
「何だその皇帝の遊戯って?」
「あぁそっか。そういえばその時虎島はいなかったな」
そして杉崎が虎島に皇帝の遊戯について教えていた。
「俺がいない間にそんなことがあったんだな。しかしそんな強烈な呪いを跳ね除けるとは流石海渡だな」
「いや俺の親戚の弟のクラスメートがSNSで知り合った人が祓い屋――」
「いやいや! もうその設定はいいから!」
ツラツラと言葉を並べる海渡に杉崎が突っ込んだ。当時ならともかく既に海渡が異世界帰りだとわかってる今となっては海渡もごまかす必要もない。もっともその話も嘘でもなかったわけだが。
「でも、あれがそのセカイを終わらせる存在がつくったなんてたち悪すぎない?」
怪訝な顔で鈴木が言った。確かに海渡がいなければクラスメートは無事では済まなかったことだろう。
「それはあくまで私たちの感覚ね。その存在からすれば些細なことなのよ。定期的にバグを除去するぐらいの感覚で生物を殺す呪いを量産してばら撒いている」
「そ、そんな酷いこと……」
「でもね。それがあるからこそその存在はセカイをすぐには終わらせないのよ。呪いが働いて生物が駆除され存在にとっての安定が齎されてる限りはね。だけど、それが崩れた――皇帝の遊戯が消え去ったことでね」
大宮が淡々と説明した。聞いていた全員が固唾をのんで耳を傾けていたが、そこで黒瀬が口を挟む。
「つまり海渡が皇帝の遊戯を終わらせたことでソレがセカイを終わらせるということか? だがそいつからすれば呪いの一つが消え去った程度の事だろう。しかも俺たちとは時間の感覚も異なるはずだ。セカイを終わらせるにしてもそんな急に動き出すものなのか?」
「驚きましたわ! 黒瀬がこんなに長文を喋る人だったなんて!」
金剛寺が驚愕の表情を見せていた。その視線の先にはいつもの無表情に戻った黒瀬がいる。
「そうね。確かにそれだけならその存在もすぐには動かなかったと思う。だけどそれが同時期にほぼ同時におこったらどうなると思う?」
「ちょっと待て、それってまさか……」
虎島が何かに気づいたようにハッとした顔となった。それに大宮が頷く。
「そう――これはその存在にとっても想定外のこと。同じ時期に別々のセカイに海渡のような異世界帰りがあらわれ、そしてその呪いを尽く破壊していった――恐らく海渡が皇帝の遊戯を終わらせただけならここまでのことは起きなかったでしょうが、同じようなことが同時多発的に起きたわけだからそりゃ気づくわよねって話よ」
「なるほどって、いやいや! それならもう海渡の責任だけじゃないよね! 異世界帰りの面々全員の責任だよね! なのに何しれっと海渡の責任にしているのさ!」
大宮の説明にシンキチが突っ込んだ。確かに言われてみればそのとおりであり、海渡一人が責任を負うのはどこか違うというものだ。
「細かいことはいいのよ。それになんとなく一番刺激したのは海渡な気がするからそういうことなのよ!」
「急にやけっぱちな口調になったな」
大宮の話に虎島が顔を引き攣らせた。
「とにかく、もう既にセカイの終わりの始まりは始まってしまったのよ」
「何だかややこしい話だけどさ。それで結局今後どうするんだよ?」
「はは、とりあえず彼はつれていくよ」
「は?」
狩人がいつのまにか小平によって拘束されていた。本人も驚いている。
「おい! 勝手に決めるなよ! 大体海渡との決着がついてないんだぞ!」
「ムリムリ。何度も言うけど今の君じゃ海渡には勝てないよ。だけど僕たちが鍛えてあげれば多少は可能性があがると思うんだ」
「ふざけんな! 俺は負けねぇ!」
「いいから黙ってついてこいよ」
「なッ!?」
小平の口調が変わり威圧されたことで狩人の顔色が変化した。明らかに動揺しておりこれまでの強気な態度も一変した。
「ちょっとは今の立場がわかったかい? 言っておくけど恐らく僕でもあの海渡には勝てない。それなのに僕がちょっと威圧しただけで萎縮してしまう君が勝てるわけ無いよね? だけどそれじゃあ困るんだ。君にはセカイを終わらせる存在を終わらせてもらわないといけないんだからね」
「グッ、話が大きすぎなんだよ! 大体俺にそんな力が本当にあるっていうのか?」
「正直わからないよ。だけど、可能性はあると思う」
小平の話を聞き狩人も一旦口を噤んだ。だがすぐに決心したように口を開く。
「……チッ、そうかわかったよ。だったら今はお前たちの言う通りにしておいてやる。だけど海渡! 次に会う時は必ず決着をつけるからな!」
「う~ん。この話の流れだと決着をつけるのはセカイを終わらせる存在にだと思うんだけどなぁ」
海渡が小首をかしげた。だが狩人のモチベーションは海渡を倒すという目標があってこそだ。
「とりあえず狩人も納得したようだし目的も達成できたから私たちはここを離れるわ。だから――海渡も私達のグループに入りなさい!」
そう言って大宮がスマホを取り出した。どうやらネット上で繋がりは持っていたいようである。
「う~んあまり気乗りしないんだけどなぁ」
「お互い情報共有は必要だよね?」
「仕方ないなぁ。えっとどれを使うの?」
「今はこのデスコードが主流だよ♪」
「て、それ名前物騒すぎない!」
「略称はデスコだな」
「ちょっと可愛くなった!?」
中々ツッコミの細かいシンキチであった。なにはともあれこうして狩人も一旦異世界帰りの面々に引き取られていったわけだが――
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