第十七話 恐怖!人食いプール?
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「くそ、いったいなんなんだあいつらは!」
ホテルの死配人であるDeathは画面を見ながら一人憤り歯牙を噛み締めていた。
そして改めてDeathは別の画面に映される視聴者の反応を見ていた。彼が見ていたのは裏の動画配信サービスとしては有名なデッドチャンネルであった。
ここにはあらゆる非合法な動画が溢れている。そしてその中で今一番熱いのがデスゲームの実況だ。実況と言っても配信するのはデスゲームを行う側である。
このデッドチャンネルは人気によって多額の報酬を得ることが出来るのが特徴だ。表の動画配信とは比べ物にならないほどの金が常に動いている。
だが、勿論どこの誰でもここで配信が出来るというわけではない。そのためには厳しい審査があるし、一度登録したら定期的に動画を配信しなければペナルティーも科される。
だが、だからこそ当たったときの利益も大きい。何より自分の考えたデスゲームに視聴者が熱狂してくれると思うとそれだけでゾクゾクしてたまらなくなるということで登録する人間も多い。
しかし、こうしてDeathが苦労して始めたデスホテルだというのに思いがけないことになってしまった。まさか開始早々誰も死ぬことなく殆どの人間がここから出ていってしまうとは。
「く、くそ! 登録料だってかなりの金額を支払ったというのに、このまま何もせず終わらせてたまるか!」
Deathが独りごちる。視聴者の実況からも呆れの籠もったメッセージが送られてきていた。あと、海渡すげーとかいう物も。
Deathは思わず、ふ、ふざけるな! と憤る。
あんなもの何が凄いものか、と改めて監視カメラの映像を見た。
しかし、結果的に海渡を含めた一行は、口車に乗せられてまんまとゲームを続けてくれることになった、そうDeathは考えていた。
「はは、馬鹿め、実際にはこの先、更に過酷なゲームが待っているのだ! 今度こそお前らは終わりだ! ハハッ!」
そして海渡達が次の部屋に入ったのを確認した後、Deathは高らかに笑い、扉をロックするスイッチに指を伸ばすのだった。
◇◆◇
海渡を含めた全員が部屋を移動すると、入ってきたドアからカチャッという鍵の締まる音が聞こえてきた。
「あれ? 開かないぞ?」
「鍵が掛かったってこと?」
杉崎がすぐにドアノブに手をかけるが押しても引いても開くことはなかった。鈴木が怪訝そうに眉を顰める。
『ハッハッハー! そのとおりだ諸君。その扉を閉めたら、後は死への一方通行なのさ!』
「そ、そんな話が違います!」
するとまたあの死配人であるDeathの声が聞こえてくる。佐藤は思わず抗議した。杉崎の隣では花咲が不安そうにしている。
『話? さて何のことかな? 言っておくがゲームはここからが本番だぞ! さっきのゲームなどほんの小手調べだ』
「小手調べも何も、何もなかっただろう」
『誰のせいだ誰の! 本当なら1人は死んでいたはずなのに!』
海渡が淡々とした口調で返すと、Deathが怒鳴り返してきた。そうは言っても誰も好き好んで死にたいなんて思うわけもない。
「ま、そんなこったろうとは思ったけどな」
虎島がやれやれと肩を竦める。
「それで、今度は何をする気なんだ?」
『ハッハー! 良くぞ聞いてくれた! 先ずは正面を見たまえ!』
「正面って、プール?」
「う、うん確かにこれはプールだね」
「プールで道が塞がれてるね」
Deathの話を聞いて正面に目を向けると確かに大きなプールがあった。女子3人が不思議そうにそれを見ている。
「幅は400メートルってところか」
「深さもそれなりにはありそうだな」
『そのとおり! そのプールは当ホテル自慢のデスプールさ』
「デスプール?」
Deathの言葉に海渡が首を傾げた。
『見ての通り、出入り口はロックされ次のステージに進むためには、そのプールを泳いで渡るしかない。だがしかーし! なんとそのプールには大量の殺人ピラニアが放たれている!』
「さ、殺人ピラニアだって!」
『そのとおり! しかも品種改良された獰猛なピラニアさ! その歯は鋼鉄並みに固く鋭利で人間が大好物! さぁショータイム! 殺人ピラニアがうようよいるプールをどう乗り越えるか! 一番の手は君たちの中から1人なり2人なりを囮にして――』
――バリバリバリバリバリ! プカー…………。
Deathが延々と説明を続けている途中、突如電撃の迸る音が轟き、かと思えば大量のピラニアが腹を向けてプールに浮かび上がってきた。
プールには海渡が手を突っ込んでいた。そう海渡の雷魔法で手からプールで高圧電流を流し込みピラニアを全滅させたのだ。
『は? は? はァアアァアアァアアアアッ!?』
またどこかのスピーカーからDeathの絶叫が聞こえてきた。
『待て待て待て待て! 何だそれ! いったい何をしたお前!』
「確かに、いったいどうしたらこうなるんだ?」
「感電、してるっぽいが……」
杉崎と虎島がぷかぷかと浮かぶピラニアを見つつ首をかしげる。海渡はここでもうまくごまかせそうな言い訳を考えた。
「俺、スタンガン持ってるんだ」
「あ、それで感電させられたんだね」
『それでじゃねーーーー!』
死配人がまたもや激しくツッコんだ。
『スタンガンごときでこれだけのピラニアが死ぬわけないだろう! ふざけるな! 大体そんなスタンガンどこに隠し持ってたんだよ! そもそもそんな威力のスタンガン普通に武器だから! 法律的にアウトだから!』
遂にDeathは法律まで持ち出してきた。自分のやってることを棚に上げてだ。
「へ~ピラニアって結構いけるんだな」
「小腹がすいてたから丁度良かった」
「刺身でも大丈夫なの?」
「このホテルで稚魚の時から飼われてたようだから寄生虫の心配はいらないよ」
「ある意味希少な経験が出来たわね」
「私は天ぷらが好きかもしれません」
『人の話を聞けお前ら! てか、何食ってんだ!』
「ピラニア」
Deathが長々と海渡の行動にツッコミを入れている間に、海渡は調理用具を取り出し、自ら料理して皆に振る舞った。
異世界で長く暮らした海渡は料理のスキルも完璧なのである。更に言えば回復魔法の応用で、死にはしてもピラニアの身は新鮮な状態に保たれていた。
『いやいやいやいや! それ喰うために放したもんじゃないから! 寧ろお前らが喰われるために用意したものだから!』
海渡が即答すると更に激しい返しが来た。虎島がため息をつき。
「お前、それで上手いこと言ったつもりなのか?」
「ピラニアは旨いが支配人は全く上手くないな。センスが悪い」
『黙れよ! てか、調理器具いつ用意した!』
虎島と杉崎の辛辣な言葉にDeathの語気が強まる。そして料理が出来たことにまで言及してきた。
そう言えばと一同の視線がまたもや海渡に集まる。海渡はこういった便利道具を一通り異空間に収納しているためあっさり出せるのだが、それを説明してもややこしいだろうなと思い。
「その辺に転がってたのを利用した」
「そういうことか」
「ま、ホテルならそんなこともあるだろう」
『ねぇ、君たち本気でそんな話、信じてるの?』
死配人の疲れた声が聞こえてきたが、それは無視をした。
「おいDeathデス」
『Deathですと言ってるだろう!』
食事の途中虎島が死配人に問いかけた。彼らの中では既にその名はDeathデスである。
「あのさ、醤油ある?」
『あるかんなもん!』
「これでいい?」
「お、サンキュー」
『あるのかよ!』
「刺身にはやっぱり醤油だな」
Deathが声を荒らげる中、海渡から受け取った醤油で皆がピラニアの刺身を堪能していた。
「腹ごしらえも終わったしそろそろ行こうか」
「と言ってもプールは入らないといけないのか」
「面倒だな。おいDeathデス、水着とかないのかよ?」
『ふざけんな!』
半ばやけっぱちな声が返ってきた。どうやらプールはあっても水着のレンタルはないようである。サービスのなってないホテルだなと海渡は思った。
「え~服が濡れるのはちょっと嫌だなぁ」
「それに服だと泳ぎにくいですよね」
「下着も濡れちゃうし……」
『ねぇ君たちわかってる? これ本来なら生きるか死ぬかの真剣なデスゲームなんですよ?』
Deathはそう言うが今の彼らにとって大事なのは生きるか死ぬかではなく濡れるか濡れないかだ。
「それなら――」
すると海渡がプールの前まで進み、かと思えばドゴッ! という重低音が聞こえ、途端にプールの水がみるみると減ってきた。
「おお、いったい何したんだ?」
「プールに穴を開けたんだ。空手で」
「凄いな空手」
『ふ・ざ・け・る・な! 大体穴って修理代でいくら掛かってると思ってるんだ!』
プールの支配人が怒り出す。ここにきて修理代を気にするとは小さい男である。
「こんなゲーム始めたんだからプールが壊される可能性ぐらい考えておきなよ」
『こんな滅茶苦茶な想定してたまるか! 完全に想定外だ想定外!』
そしてDeathはグチグチと文句を言い続けるが、当然だが何を言われても海渡には弁償するつもりはない。
そして水の抜けたプールを利用して一行は特に何事もなくピラニアだけを味わい次の部屋に向かうのだった。




