番外編⑤ その十五 そんなシリアスいらないよね
いつも感想や誤字脱字報告を頂きありがとうございます!
「いやいやホログラムってこのマグマ熱すぎだしどうみてもCGに見えないし! なんだか煮えたぎってるしちょっと臭うしこれが偽物ってありえないよね! てかなんでこんなところにマグマ湧いてるの! ここ学校の敷地だよね!」
『…………』
「いやダマルクそこは『突っ込むなぁ』と返すところでしょう! 何黙ってるの!?」
開幕早々ツッコミの激しいシンキチであった。一方で確かにダマルクがおとなしい。
「いやはやよく突っ込むねぇ」
「対戦相手に気を使われた!?」
ダマルクが何も言わない代わりにゴヘイが指摘してくれた。それに驚くシンキチであり――
『――やっぱりそうか。ゴヘイだったか。お前一体どういうつもりだ?』
「え? ダマルク? どうしたんだよ突然」
ダマルクが突如真面目な空気でゴヘイに語りかけた。その様子にシンキチも怪訝そうにしている。
「はて? どういうつもりとは?」
『……このマグマ。やったのお前だろう?』
とぼけるゴヘイにダマルクが強い口調で言い放った。その言葉にシンキチが驚く。
「え? マジでこのマグマ本物だったの!?」
『あぁ。実際俺がいなかったらシンキチなんてとっくに燃え尽きてる』
「こわ! そして密かに僕ディスられてる!?」
ダマルクの説明にシンキチが驚愕した。そして当のゴヘイはと言うと――
「うへぇ! マジですか! これが本物って危険が危なすぎぃいい!」
大げさなリアクションでわざとらしく驚いて見せていた。しかしそのあからさまな態度で逆に疑わしさが増している。
『そうやって道化を演じ続けるつもりかい?』
「う~ん。どっちにしてもダマルクなあんたとまともに話すつもりはないといったところかな」
仮面に指を添えながらゴヘイが答えた。どこか飄々としていて掴みどころがない。
「てなにこれ!? こんな突然のシリアス誰も求めてないよね!」
『タイトル回収おつかれシンキチ。だが油断するなよ』
ダマルクが注意を促す。何せ溶岩は本物だ。とても笑って見ていられる状況ではない。
「だ、大丈夫さ! ゴヘイ。お前がどういうつもりか知らないけど相手が僕だったのが不運だったね! この鳳凰院とう――」
『シンキチ来るぞ!』
「て! 最後までいわせ、うわ!」
突っ込みを入れようとしたシンキチだったが、ゴヘイの右腕が突然伸びシンキチに殴りかかってきた。しかもどうみても人には見えない触手状の腕である。
シンキチは悲鳴を上げつつも既の事で飛び退き攻撃を避けたが、伸びた腕がリングを撫でたことであっさりと裂かれた。頑丈なリングがまるで豆腐のようである。
「ちょ、これ本気で殺しに来てる!?」
「あはは。まさか~今のもほら。最新のCGって奴だから攻撃を受けたところで大したことないって」
「いやどうみてもCGじゃないよねこれ!?」
手を振りながら笑って見せるゴヘイだったが全く言動が噛み合っていない。そこがまた不気味なのだが……。
「ま、折角出し少しは楽しもうじゃないか」
今度はゴヘイの両袖から大量の触手が伸びシンキチに迫る。しかも触手の先端には鋭い牙の生えた口が備わっていた。あれに噛まれたら只では済まないだろう。
「うひ! 何この触手気持ち悪い!」
『シンキチ避けろ!』
「いや無理! ぐわぁああああ!」
流石にこれは躱しきれず、数本の触手がシンキチを捉えその体をガッチリと拘束した。そのまま吊り上げられてゆくシンキチ。このまま捕食する気なのかと不安になる中――
「おいおい男の触手プレイなんて誰も臨んじゃいねぇぞ!」
「せめてTSしろTS!」
「呑気か! いやいやどうみてもそんな状況じゃないから! 普通にピンチだからこれ!」
やんややんやと囃し立てる観客たちにシンキチがツッコミを入れた。だが見ている観客にはシリアス感が伝わっておらず、なんなら触手という存在について熱く語りだす兵も現れる始末である。
「そんな情報いらないよ! 大体何その兵ってぇ、ぐわぁあぁああぁああ!」
シンキチが悲鳴を上げた。触手がぎりぎりとその身を締め付けてきたのが原因だった。
「おやおや随分と演技派ですねぇ。こんなCGにそんな苦しそうな顔を見せて」
「くっ、こ、このぉ! 鳳極天氷!」
シンキチが右腕を振り上げ技名を叫んだ。途端にゴヘイが上空に投げ出されあっという間に周囲が凍てついた。
触手も氷に包まれマグマさえもカチンコチンに凍てついていた。
「お~っとこれはシンキチの唯一無二の必殺技の鳳極天氷が炸裂です! というよりもシンキチにはこれしか技がないのです!」
「あぁ! 私のマイクぅうぅう!」
突如乱入した真弓に向かってサマヨが叫んだ。どうやら真弓も実況がしてみたかったらしい。
「て! 余計なお世話だよ! 確かにこれまでこれ一本でやってきたけど、今回もたまたまこの状況にあっていただけだからね! 見ての通りマグマも凍ったし! でも本当は他にも技の千や二千ぐらいは」
『油断するなといっただろうシンキチ!』
「本当よく突っ込むねぇ」
「へ?」
シンキチの背後から声がした。それはゴヘイの声だった。シンキチの背中が凍りつく。なぜならシンキチは理解したからだ。こういう状況で背中を取られるということは碌なことにならないと――
「ぐはぁああ!」
予想があたり今度はシンキチがうめき声を上げ空中に吹き飛ばされた。しかも凍てついていたはずのマグマはすっかり元の姿に戻りシンキチはマグマの海にそのままダイブする形になるのだった――
本日発売の月刊コミックREX12月号にて本作のコミカライズ版20話が掲載されております。
更にコミック最新の第4巻が12月26日発売予定!どうぞよろしくお願い致します!




