番外編⑤ その十四 シンキチはシンキチ
その後救護班によって田中は治療された。尚、治療費は請求された模様だ。
海渡たちはその後も順調に勝ち進んでいた。
「それじゃあ次の試合と行きますね。先ずはシンキチ選手!」
「いやそこは訂正を要求するよ。僕の真名は鳳凰院 とう――」
「シンキチ選手。早くリングへ上がってきてくださ~い」
「いやだから僕の真名は!」
「早く出ろよシンキチ~」
「もうそういうのはいいから、は・や・く。シンキチ~」
必死にもう一つの名前を出そうとするが女神サマヨは勿論、矢田 郁代と夢魅 教子――通称教育コンビからも阻まれていた。
「女神様も容赦ないな……てかあいつも試合出るんだな」
「てか女教師のあの二人もうすっかり出来上がってるな」
「てか教師が昼間から呑んだくれるなんて日本の将来が心配だぜ」
「てか多すぎない!?」
最後に口にしたのは鮫牙であった。参考書片手にこんなことまで言い出すとは人間変われば変わるものである。一方で細かいツッコミも忘れないシンキチである。
「いやいやそこまで真面目キャラ言い張るならそもそもこんなところで感染してないよね!?」
『突っ込むなぁ』
「うるせぇ! 息抜きも必要なんだよ!」
シンキチのさらなるツッコミに鮫牙が反応した。やはり時折素が出てしまうようである。
「え~とではでは気を取り直して! シンキチ選手の対戦相手はナナシのゴヘイ選手です!」
「ギャハハ! 名無しの権兵衛のパクリかよ!」
「もう飲みすぎよ。シンキチ頑張ってねぇ」
女教師二人もシンキチを応援していた。一方でナナシのゴヘイという選手に直接掛かる声はなかったが――
「何か不気味ねあの人」
「中二病ってやつじゃね?」
「なるほどシンキチにピッタリの相手だな」
そんなヒソヒソ声が聞こえてきた。理由はその格好にあるだろう。全身が黒ローブに包まれており顔には仮面とまさにシンキチに近しい空気の滲み出た相手だった。
「では次のルールは!」
そしてサマヨが意気揚々と声を上げたその時だった――突如リングの周囲が崩れあっという間に真っ赤な溶岩に囲まれてしまった。
「これはこれは次は溶岩ステージ、といったところですかねぇ」
ここでようやくゴヘイが口を開いた。声からして男のようである。
「えっと溶岩ステージ? ……そ、そうそう溶岩です! これは落ちたら大変ですよ海渡様なら余裕ですけどね!」
サマヨが海渡のアピールを織り交ぜつつ溶岩ステージについて語った。確かに溶岩は落ちたら洒落にならないだろう。
「あんなの落ちたら普通に死ねるな」
「ま、とはいえどうせあれもホログラムとかなんだろう?」
「え? えっと、そ、そうですわ! 勿論金剛寺グループに掛かればこの程度余裕ですわ! お~ほっほっっほ!」
杉崎に問われ高笑いで返す金剛寺。しかし、直後その表情が曇っていたのを海渡は見逃さなかった。
「……あれって、う~ん」
「うん? 海渡どうかしたのか?」
「……フン。このままにしておいていいのか海渡? あいつ、死ぬぞ」
海渡の表情に虎島が疑問を持ったようだ。一方で黒瀬からも不穏な発言が繰り出されたわけだが――




