外伝の二 黒瀬大魔王のお仕事
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黒瀬にとって現代日本での育ての親であり爺やでもあり更に転生前の大魔王の側近でもあったメフィストに呼ばれ、黒瀬はメフィストの部屋に向かった。
「ご足労いただき感謝ですぞ」
「構わない……それで何をすればいい?」
恭しく頭を下げるメフィストをみて頷き要件を聞く黒瀬。どことなく大魔王らしいオーラが漂っているが念の為に後日必要な買い物をチェックするマメなところも併せ持つまさに完璧な魔王であった。
「ハッハッハッハ――」
そんな黒瀬に愛犬のキングがじゃれ付いていた。黒瀬が屈み自然と手が頭に伸びていた。
「……よ~しよしよしよし」
表情の変化が少ない黒瀬だがキングを愛でている時には若干の笑みをこぼす。
後の世界征服を目指す大魔王だが同時に動物も愛する心の広さを併せ持つまさに完璧な大魔王だ。
流石世界征服の第一歩として先ずはしっかり立候補して議員になり地盤固めするところから始めるべきか等と普段から考えているだけある。
大魔王たるもの力だけの支配が全てではない。内側から支配するやりかたも存在する。黒瀬は大魔王として日々そんなことを考えながら海渡の命を狙ったりしているのだ。
「さて早速の本題ですがそろそろ大魔王様の支配エリアを広げるべきと思うのです」
「ほう――」
キングを抱きかかえながら話を聞く。ぺろぺろと舐められ黒瀬の顔はヨダレにまみれていたが、この程度で怒ったりしない度量の大きさも黒瀬の武器だ。
「しかし今はまだ私は普通の高校生だ。支配というのは少々早計ではないか?」
「勿論地球での支配活動は私もじっくり進めるべきと考えております。そこで大魔王様には先ず手頃な異世界から支配を進めていただこうと思っております」
「ほう――つまりすでに目星はついているのだな?」
「はい。世界としては地球よりは小さく文化レベルも地球の中世程度。魔法はありますがそこまで強力な使い手はいない手頃な異世界となっております。ここであれば大魔王様であればきっと三日もあれば攻略可能かと。正直言ってあの会社が出している超大作RPGよりも簡単かと思われます」
「……最近お前がハマっていたあれか」
「はっはっは。いやはやついつい徹夜続きであれは1000時間やってもあきないでしょうな」
何故か嬉しそうにプレイしているゲームについて語りだすメフィストだが黒瀬は特に指摘したりしない。
趣味を持つことの大事さを理解しているからだ。
「しかし休みは今日だけだぞ」
「おまかせを! このメフィストに掛かれば世界間の時間調整などお手の物。異世界での三日と地球での一日のバランスを取っておきましたぞ。これで向こうで三日過ごしても問題ありません」
「――三日は決まってるんだな……それでいつ出ればいい?」
「勿論今ですぞ」
「ん?」
メフィストが答えたその瞬間だった黒瀬の足元が輝き始め魔法陣が浮かび上がった。
「さぁ黒瀬様手頃な異世界を征服して来てくだされ! 制服を着こなすが如く華麗に!」
どうやら制服と征服を掛けたようだがあまり上手くないなと黒瀬は思った。同時に――
「……あ、キング」
「キャン?」
そう。黒瀬はキングを抱きしめていた。こうしてキングと共に魔法陣の中に消えていき異世界へと旅立った黒瀬大魔王である。
「おっとうっかりキングまで。ま、言うてもあやつも魔犬の端くれ。それに手頃な世界であるからな」
「あれメフィストさん大魔王様は?」
一人納得しメフィストが頷いていると可愛らしいメイドがやってきて黒瀬について聞いた。
「ふむ。いま丁度異世界に送ったところだ。わしのこの魔方陣でな!」
「え! この魔方陣でですか? でも、ここ記述間違ってますよね?」
「……何?」
メイドに指摘され眼鏡を取り出しメフィストが確認した。
「――あ、本当だ」
「ほら~やっぱり~だからゲームにハマりすぎないようにメイド長も注意してたじゃないですか~」
呆れたように指摘するメイドと頭を抱えるメフィスト。そうメフィストはハマったゲームで寝不足気味な上、最近ちょっと視力が落ちてきたのもありうっかり魔法陣の記述をミスってしまったのである。
「し、しまった一体どの世界に行かれたのか早急にチェックしなければ……ま、とはいえ大魔王様ならきっとどんな世界でも問題ないでしょうな――
こうしてメフィストのうっかりミスで予定とは違った世界へと送られてしまった黒瀬。
愛犬のキングを抱えたまま鬱蒼と茂る森に彼は立っていた。
「……これがターゲットとなる世界か」
「ワフッ!」
黒瀬の腕の中でキングが鳴いた。とても愛らしく黒瀬もわずかに微笑む。
とは言えすぐに表情を引き締めた。メフィスト曰く手頃な世界らしいが見知らぬ土地でもある。
ならばここはある程度慎重に進めるべきだろう。そう考え黒瀬が新たな世界での第一歩を踏み出した。
「ウェ~イ」
「ん?」
その瞬間よもや大爆発が起きるとは黒瀬は考えてもいなかったのである――
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