外伝の一 黒瀬の軌跡
黒瀬の物語です。サバイバルロストが終わった頃ぐらいからの話となります。
黒瀬 帝は天才だった。スポーツから勉強まで全てを完璧にこなし身体能力にしても常人を遥かに凌駕する。勿論ペットにはチワワのキングがおり毎日の散歩も欠かせない。
そう黒瀬には隙がなかった。
料理も完璧だ。調理実習でも隠し味を加えたカレーを作り女子から尊敬もされた。とにかく完璧であり辞書の完璧に黒瀬 帝と自ら書き込むほどの用意周到さを誇る黒瀬には誰にも言っていない秘密があった。
それは――
「大魔王様おはようございます」
「うむ――」
誰もが敬うような豪邸で暮らす黒瀬。そんな彼の家には使用人も多い。彼が普段爺やと呼んでいる彼も執事として常に黒瀬に寄り添っている。
だがしかし、それは仮初めの姿でありその正体は黒瀬を大魔王と崇める悪魔である。
そして黒瀬が食堂に向かうと沢山のメイドたちが「大魔王クロセ様おはようございます!」と挨拶してきた。そう黒瀬の秘密――彼の正体はかつて異世界で猛威を振るった大魔王なのである。
しかしその大魔王も志半ばに命が尽き果ててしまった。だがその魂は時空を超え世界を超え現代日本に転生を果たす。
しかも黒瀬の配下だった者たちが占星術により黒瀬の転生先を突き止め地球までやってきた。
しかし執事でありかつての大魔王の側近でもあったメフィストのうっかりミスによって黒瀬が転生する随分前の時代にやってきてしまい仕方ないからと事業を始めた結果巨大なグループが爆誕した。これが黒瀬財閥誕生の全貌である。
なお転生とは言っても黒瀬ほどの大魔王だ。勿論普通のやり方ではない。なんと黒瀬は巨大な果実的な何かに閉じ込められた状態で転生し川を流て来たところをメフィストに拾われたのだ。
ちなみにだからと言って○○太郎などという名前にされないのも黒瀬が完璧な故だ。実際はメフィストが黒瀬 ○○太郎と名付けようとしたが激しく泣かれた為やめたというのもある。
そして黒瀬は朝食を優雅に嗜む。流石黒瀬は完璧だ。なんならこのままバイオリンでも引いてしまいそうな雰囲気さえ感じられた。
「キャンキャン!」
「こらこらキング駄目だぞ大魔王様のお食事の邪魔をしては」
「キャンキャンキャンキャン!」
メフィストに注意されるもキングは黒瀬の足元を周り吠えまくった。ハッハッハッハとベロを出し円な瞳で黒瀬を見る。
「――爺や骨を」
「おお、流石黒瀬様お優しい!」
メフィストはメイドに頼み骨を持ってこさせた。黒瀬がキングに骨を差し出すと尻尾を振りながらわふわふと骨を噛みだした。
メイド達がキャーキャーやら可愛いやら騒ぎ出す。なんともアットホームな環境に思えるがここは大魔王黒瀬の屋敷であり城である。普段はもっと物々しい雰囲気が漂ってるよに違いあるまい。
「大魔王黒瀬様。実は洗剤が切れてしまった」
「クロセ大魔王様。じゃがいもが」
「ダッイマオウクッロセェ様ァ、トイレットペーパーガ、モウアッリマッセーン」
「――帰りに買ってくる」
メイド達の願いを聞き届け自ら動く。それも黒瀬が完璧な故である。密かに呼び方ぐらい統一して欲しいと思わなくもないが、そんなことを口にしてギスギスするのも嫌なので口にしない。流石大魔王は空気を読む力にも長けていた。
「しかしかつては地獄の番犬と称された魔犬がこの体たらく。全くよりにもよってこのような小型の犬に転生するとは」
「……私は気に入っている」
「いやぁたしかにそうですなぁ。かつての姿など頭が三つあったりしましたからね。食事代も三倍掛かりましたしこの姿こそ至高と言えるでしょうな!」
黒瀬も完璧なら彼の執事でもあり爺やでもあるメフィストの手のひら返しも完璧であった。
「ところで大魔王様。気になっていたのですがその格好は?」
メフィストが黒瀬の姿を見ながら質問した。黒瀬は?顔を見せ答える。
「学校へ行くのだから制服ぐらい着るのは当然だろう」
「本日は祝日ですが」
「…………」
何と黒瀬は今日が平日と勘違いしていたようである。こういったおっちょこちょいなところも一周回って完璧なのが黒瀬であった。
「買い物は学校のある時で大丈夫ですので」
「……わかった」
メイドに言われ黒瀬は予定表に『明日に変更:買い物』と書き変えた。このマメさも完璧な黒故たる所以だろう。
「ところでクロセ様。本日は予定はあいておりますか?」
「問題ない。何かあるのか?」
「はい。そろそろ大魔王クロセ様にも大魔王としての本文を果たす時が来たと考えておりまして」
「――なるほど。わかった」
こうして朝食後黒瀬はメフィストの部屋に向かうのだった――
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