番外編④ その四 ゾンビが溢れた元凶
「ということがあって今に至るわけです」
「なるほどね」
「なるほどじゃない!」
普通の高校生だといい切った海渡がこれまでの経緯を話して聞かせると叶は納得したようであり、一方でもうひとりの男、木崎は全く納得いってなさそうだった。
「なんだそりゃ! そんな馬鹿げたことあるわけないだろうが!」
「いやぁ君が私を助けてくれたのか。本当にありがとう」
「聞けよ!」
木崎が吠えるが、アンデッド状態から解放された男性は海渡に凄く感謝していた。
「確か今の話だと君、伊勢 海渡くんなんだよね?」
「はい。そうです。あと時折カイコです」
そう今さっきまで魔法少女カイコだった海渡である。
「え? 叶こいつの事知ってるのか?」
「知ってるけど……あの、いい加減その叶って呼び捨てにするのやめて欲しいのだけど……」
叶が迷惑そうに口にする。
「は? 彼女なんだから当然だろう!」
「違うし何なら連行中だし……」
「連行?」
「私、警官なんだ。あとね」
「あ! 叶お姉ちゃん!」
叶が言葉を続けようとすると何やら元気かつ聞き覚えのある声が耳に届く。海渡が見ると鈴木がダッシュでやってきた。
「びっくりした。こんなところで何してるのお姉ちゃん」
「お姉ちゃん?」
「あ、海渡こっちに来てたんだ。えっと、従姉妹なんだよね」
どうやら鈴木の従姉妹がこの叶という警官だったようである。
「連行ということはその人犯罪者なの?」
「えっと、何といっていいのか。最初は自転車の違反で声を掛けたんだけど、そこから私の住んでる部屋まで特定してきてしつこく言い寄られたって感じで」
「あぁ……」
つまり木崎はよりによって警官の叶にストーカー行為を働き連行される羽目になったようだ。
「でも私服だよね」
「本来なら休みだからね。それをどう思ったのかデートだとかいい出して、これはもうこのまま署まで連れて行った方がいいなって思って」
叶はどうやらストーカー行為を働かれても冷静に対処できるやり手の警官だったようだ。
「え! 俺とデートするつもりで一緒にいたんじゃないの!」
「違うわね」
「嫌だキモい……」
鈴木がめちゃめちゃ引いていた。
「馬鹿な! だったら何のためにこのゾンビ世界にしたんだ俺は!」
「は? え、何それ?」
「あ、いや」
「あぁ、やっぱりそうだったんだ」
叶が怪訝そうに問うと、木崎が慌てだした。一方で海渡は何か感づいていたようであり。
「海渡何か知ってるの?」
「色々たどって判ったんだけどさ。今回のゾンビは儀式が下で生まれたみたいだからね。それを行ったのがこいつみたいだ」
「な、何を証拠に!」
「部屋を調べれば色々出てくると思うよ」
「今すぐ手配するわね」
「ま、待て待て! 大体そんなもの見つけたからって何だって言うんだ1 ただの趣味だ! 趣味の範囲だぞ!」
「ストーキングまでしておいてしらばっくれるとか最低ねこいつ」
鈴木がゴキブリを見るような目で木崎を見ていた。
「でも確かにそれを言われると立件は難しいかも知れないわね……」
叶が眉を寄せる。確かにゾンビを儀式で呼び出したというのがそもそも突拍子のないことだ。
「はは。そうだろうそうだろう。ストーカーにしてもそうだ。俺はただデート出来ると勘違いしていただけだ! それなのにこんな罪を着せられて迷惑なのはこっちだ!」
更に木崎が開き直った。ゾンビの儀式どころかストーカー行為すら叶の気の所為で済ませるつもりなようである。
「ねぇ。こいつのお仕置き俺に任せてもらってもいい?」
そこで海渡が叶に提案した。
「え? いや流石に警官の私が一般人の暴力を認めるわけにはいかないんだけど」
「それなら大丈夫。暴力でもなんでも無いし法律違反でもないから」
「……鈴ちゃんから変わった力のクラスメートがいるとは聞いていたけど……わかったわ。だけどやり方によっては目を瞑れないわよ」
叶はやはり警官として法を犯すような真似は見過ごせないようだ。
「は、そんなガキに何が出来る」
「随分と強気だけどどうしてこんな真似を?」
「誰がそんなこと、一目惚れした叶を俺の者にするためにはゲームみたいにゾンビを溢れさせてから助け出し俺の格好いいところを見せてやればイチコロよと思ったなんて誰が――ハッ!?」
木崎がしまったといった顔を見せた。だが今更気がついてももう遅い。
「どうやってゾンビを生み出したの?」
「だから知らないと、ネットの裏通販サイトで闇の儀式のグッズが売ってたんだよ。最初は半信半疑だったけど頼んだら実際届いて、ハッ!?」
思ってもいないことをべらべら喋ってしまい木崎は随分と驚いているようだが、これも当然海渡の自白魔法【ホントノコトシャベール】の効果であった。
「魔法の名前適当すぎない!? なにそれまんまじゃーーーーん!」
そしていつの間にかやってきてたシンキチが盛大に突っ込んだ。
「まぁ話はわかったよ。あんたゾンビゲーム好きなんだね」
「はん。自慢じゃないがナイフ一本であの有名なゾンビゲームを全シリーズクリアーした男だぜ俺は」
木崎が得意がる。ちなみにこの発言は魔法の効果ではない上、この期に及んでまだ叶を意識して発言していた。
「そんなホラーなゲームどうして出来るのよ!」
「相変わらずそういうの苦手なのね鈴ちゃん」
ちなみに鈴木は話を聞いただけで叶の背中に隠れてガタガタと震えていた。
「ま、いいや。そんなに好きなら身を持って自分の力でクリアーしてみるといいよ」
「は?」
◇◆◇
「な、何だよここはーーーー!」
木崎が絶叫した。彼の周りには不気味で食欲旺盛なゾンビが近づいてきていた。
「ひ、ひぃい! やめろ食べるな。いてぇいてぇよぉぉぉおおお!」
木崎が叫ぶが容赦なくゾンビに食われ木崎は死んだ。だが――目が覚めた時木崎はまたスタート地点にいた。
「ちょ、ちょっと待て何だよこれ? 大体ナイフ一本でどうしろってんだ。他の武器ぐらい寄越せよ! くそ、な、何なんだよこれはーーーー!」
こうして木崎はゾンビやゾンビな犬や巨大な怪物が徘徊する町を彷徨い何度も何度も何度もゲームオーバーを繰り返すのだった……。




