番外編② その六 勇者の凱旋
更新再開です!
「アイリシア! 貴様どういうつもりだ! 勇者を誘惑しておけとそう言ったではないか!」
「――残念ですが勇者様の決意は固いのです。魔王を倒し元の世界に帰還する。それが勇者様の願いでありこれまでそれだけを糧にこの世界の為に戦ってくれていたのです」
凛とした様子でハッキリと告げるアイネリア。その顔に既に迷いはなかった。
「クッ! おい! お前がついてながら一体どういうつもりだ!」
王が妻に向かって責めるような態度を見せる。
「……貴方。もういいではありませんか」
しかし王妃はどこか達観した顔で王に答えた。
「何だと? もういいとはどういうことだ!」
「娘と話して私も悟ったのです。これまで私達はあまりに勇者様に頼りすぎてました。でもそれではいけない。私達も貴方もこれを機に変わらなければいけない」
「アホか貴様は! 全く情けない。この私の妻と娘がこんなにも頭の回らない馬鹿だったとは。貴様らの頭にはスライムでもつまってるのか!」
王が二人を罵倒した。あまりにひどい言いぐさである。もっともこの世界にはやたらと賢くて強い賢者スライム略して賢スラなどもいたりするので必ずしも悪口といえるかはわからないが。
「お父様その言い方はいくらなんでも酷すぎます」
「何が酷いもんか。全てはお前らの想像力の欠如が問題だ」
「貴方の言っている意味がわかりません」
「はぁあああぁあああああああ――」
国王がこれみよがしに大きなため息を吐いた。そして小馬鹿にしたような目で二人を見る。
「いいか? あの勇者は元の世界に帰ると言っている。考えても見ろあんな勇者がいるような世界だぞ? きっとその世界にはあんなのがそうでなくてもそれに近いのがきっとゴロゴロいるのだ! 例えばあの勇者が以前素手でグレートウルトラジャンボドラゴンタイガーを素手で倒した技を合気だと言っていたが」
『いやいや意味重複な上に竜なのか虎なのかはっきりしろよ!』
「きっと地球という世界にはあらゆる世界を投げ飛ばすような合気とかいう武術の使い手がいるかもしれない! それにあの勇者が読んでいた書物にはスポーツとかいう武芸で隕石を落としたりする恐ろしい物も載っていた! そんなのがきっとウジャウジャいるのだ!」
「私は勇者様みたいのがそう沢山いるとは思いませんが」
「だから想像力が足りんと言ってるのだ! いいか? そんな世界に戻してみろ? あんな勇者みたいな連中をゾロゾロ引き連れて逆にこの世界に侵略に来るぞ!」
両腕をブンブン振り回しながら力説する王をアイネリアは冷めた目で見ていた。
「お父様。流石にそれは妄想が過ぎます。大体勇者様がそんな真似するとは思いません」
「甘いぞ貴様は。佐藤より甘い!」
その頃地球では。
「へっくしっ!」
「委員長どうしたの風邪?」
「ううん。何か鼻がムズムズしちゃって」
「誰かが噂してたりして海渡くんとか?」
「や、やだもうどうしてそこで海渡くんが出てくるのよ~」
などという他愛もない会話をしているのだった。まさかその数日後にデスゲームに巻き込まれるとは露知らず――
『残念噂していたのは全く関係ない世界の王様でした~てか完全な『さとう』間違いだよねこれ!』
「とにかくこうなったら意地でも魔王討伐を邪魔して――」
「陛下朗報です! 何と勇者様が魔王を退治したそうです!」
「なんだとぉおおっっぉおぉぉおぉぉぉおおぉぉおおおおお!?」
こうして勇者が魔王討伐に出発して三時間後には無事魔王が討伐されたのだった――
「ゆ、勇者よ良くぞ魔王を討伐してくれた。この異形をきっと世界が恐れ、いや讃えてくれることだろう」
「そのいぎょうの言い方が気になるところだな」
魔王討伐後、勇者は城に戻り謁見室に通された。ちなみに何故か王が色々準備があるから三日後にまた来てください本物の――などといい出したがそんなに待てないと強く言って二時間後にまで短くしてもらったわけだが。
そして時間を合わせてやってきたカイトである。謁見室には王以外にも妙に物々しい格好をした騎士たちも勢揃いしていた。だが何故かアイリシアと王妃の姿はない。
「しかし出発から僅か三時間で討伐とは見下げ果てた男だ」
「それ褒めてるつもりか?」
色々と言葉のチョイスがおかしな王に眉を顰める勇者カイトである。
「いやいやしっかり感心しておるぞ。ちょっと驚いてしまってな。あまりに早くて」
「そうか? これでも折角だから魔王城をじっくり見て回ってしまってな。ミニゲームもあったしそれをプレイしてから倒したから結構時間は掛かった方だと思うがな」
つまりその気になればもっと早く魔王を討伐出来たということである。しかし魔王城にはカイトの言うようにミニゲームが色々豊富だった。カイトは地球でやっていたゲームでもついついミニゲームに夢中になってしまい本編の攻略が遅れることがよくあったのである。
『それよくある奴じゃん! なんなら本編よりミニゲームが面白くてミニゲームの方が本編化しちゃうとか、って何の話だよ!』
「勿論ミニゲームに夢中になりすぎて魔王を討伐出来ないなんてことがないようにしっかり全てパーフェクトを取ってから倒してきたわけだがな」
「そ、そうか」
「何なら魔王よりミニゲームの方が難しかったまであるか」
『魔王が不憫過ぎる!』
しかし勇者は知らない。とっくに勇者の実力がやべぇことに気がついていた魔王が、必死に夜なべして作ったトラップ、それこそがミニゲームだったことに。
『魔王様ーーーーーー!』
「とにかく勇者よ。真によくやってくれた。余から直に褒美を取らせようぞ」
「いや、別に褒美はいらないから元の世界に帰らせてくれ」
「まぁまぁそう急がずとも。それに褒美は既に準備は出来ている。ほれっこれじゃ!」
――スカッ
国王が立ち上がり指をパチンッとなら、そうとしたが上手く鳴らず力の抜けるような擦り音のみが虚しく響き渡る。
やはりやりなれないことはするものじゃない。国王もちょっぴり赤面しているが、しかしどうやら準備していた物はそれでも起動したようであり勇者カイトの足下に魔法陣が浮かび上がる。
「これは?」
「ヌハハハ! 掛かったな! それは貴様の動きを封じ込める魔法陣だ」
「……こんなものが俺に通じると?」
「確かに普通なら通じないでしょうなぁ」
すると王の横にどこからともなく黒ローブの男が姿を見せた。
「フフフッ。その魔法陣はこの国で大体八番目ぐらいに凄い魔術の使い手とされるこの私が作成したものだ」
『なんとも中途半端で微妙な立ち位置だな!』
「しかもそれは条件魔法。この意味がわかるか勇者よ?」
「……特定の条件を課すことで効果を上げる魔法か」
「そういうことだ勇者よ。その魔法は対勇者に特化した条件魔法! 貴様に逃げ場はない! さぁ
お前たち今なら勇者も抵抗出来ぬぞ! さっさと捕らえてしまうのだ!」
「……俺を捕まえるということか? 一体何の為にだ?」
「ふん。そんなのは決まってる。勇者カイトよ貴様は元の世界に戻るなどと称して戦力を揃えこの世界を侵略しようとしている! よって国家転覆をいや世界転覆を図った罪で公開処刑とする!」
こうしてカイトは大人しく騎士に捕まり処刑台送りとされることとなったのだった――
果たして勇者カイトの運命は!?
月刊コミックREXにてコミカライズ版連載中。
そしてコミック単行本1巻がいよいよ12月27日発売となります!
デスゲームのフラグを叩き折る元勇者の大活躍が漫画で楽しめます漫画版では何と委員長の名前が!?
よろしければコミカライズ版もどうぞ宜しくお願い致します!




