番外編② その四 王国の姫
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「とにかく。魔王を倒す。もう決めた」
四天王の四天王も既に倒した勇者からしてみればもうこんなところでぼやぼやしている理由がなかった。だから王に今更何を言われても気持ちは変わることがなかった。
「……決心は固いのだな?」
「あぁ」
王の問いに深く頷き海渡が答える。その様子に王は深い息を吐き出した。
「そうか……ならばもう何も言うまい。ならば! せめて勇者様の為に宴を開かせて欲しい」
「いや別に……」
必要ないと海渡は言おうとしたがそれを遮るように王が話をつなぐ。
「いよいよ魔王を討伐しに行くのだぞ! 英気を養う必要があるだろう。それに我々も勇者様の為になにかしたいのだだから――」
王に頼み込まれ勇者も仕方ないと一晩休んでいくことにした。王が善意で言ってることだ。無下には出来ない――
その後、勇者海渡を何とか今宵だけ引き止めた王は娘のアイリシアを呼んだ。
「アイリシア。いよいよ勇者が魔王を退治しに行くなどと言い出しおった」
「まぁ。遂にこの時が来たのですね。勇者様が世界を守るために降臨してからもうすぐ十年……長かったような短かったような――ですがいよいよ世界に平和が訪れることに」
「バカ言うな! お前は何を言っている!」
突然声を張り上げた父の剣幕にアイリシアの肩がビクッと震えた。
「いいか? あの勇者は魔王を倒したら元の世界に帰るなどと言っているのだ」
「え? そ、そうですかカイト様が……それも仕方ないのでしょうが」
「何を悠長な。いいかアイリシア。お前を呼んだのは別に勇者が魔王を倒して元の世界に帰るんだと聞かせるためじゃない。我々はなんとしてもこれを阻止しなければならないのだ」
「え! 何故ですか? 魔王は退治しなければいけない共通の敵では?」
「かつてはそうだったか今は事情が違う。魔王によって世界は滅び掛けたが勇者がやってきたことで見事復興を遂げた」
王がしみじみとした顔で語る。
「今となっては魔王が復活する前よりも暮らしがよくなったぐらいだ。それも勇者がいてくれたからこそ。だがしかし! それがいなくなったらどうする! 私の暮らしはどうなる!」
「いや、それは王であるお父様が何とかするべきでは……」
アイリシアの言ってることは最もだった。そもそも国の統治は王の役目であるし自分の生活よりももっと考えるべきことがあるだろう。
「とにかくだ。勇者様がいてくれたからこそ我が国は周辺国に対しても強気でいられた。また魔王という共通の敵がいてこそ世界はうわべだけでも協力しあっている。それがなくなればどうなると思う?」
「どうなるのですか?」
「大変なことになる!」
『随分とざっくりしてるなおい!』
「何かしら今の声は?」
「お前何か言ったか?」
「いや私は別に……」
(よかったやっと突っ込めた――)
何やらツッコミに飢えてイライラしたような声が聞こえてきた気もしたが構わず王は話を続けた。
「とにかくだ今宵、勇者の英気を養うためと称して宴を開いた。その場でアイリシアお前――勇者と寝ろ」
「は?」
アイリシアが仰け反り目がぐるぐる回りだした。
「な、ななななな、なにを言ってるのですか父様!」
「黙れ。大体お前にも責任があるのだぞ」
「え? わ、私にですか?」
「そうだ。全く妻に似て随分と立派な物をぶら下げ容姿も極上だと言うのにこれまで一体何をぼやぼやしていたのだ。勇者を誘惑するチャンスなどいくらでもあっただろうが!」
「そ、そんなの余計なお世話です!」
「ふざけるな! いいか? 今や貴様の存在意義など勇者をこの世界に引き止める道具としてしかないのだ!」
「あ、貴方流石にそれは言い過ぎでは?」
「黙れ黙れ! お前が甘やかすからこんなことになるのだろうが!」
「そんな……」
「うむ。おおそうだ。この際だからお前も一緒に勇者を誘惑しろ。お前もまだまだいけるだろう。大人の女妃の魅力と年下王女の魅力でそう極上の王家ボディで勇者を口説き落とし既成事実を作り上げ魔王討伐どころではなくしてやるのだ!」
「わ、私は貴方の妻ですよ?」
とても冗談には聞こえない王の言動に妻が正気か? といった目で王に確認した。
「構わん。勇者がそれでこの国の物となるなら妻の一人や娘の一人いくらでも差し出す! それぐらいの覚悟を私は持っているのだ!」
「そんなもの覚悟とはいいません!」
アイリシアが父である王に噛み付いた。しかし王はギロリとアイリシアを睨む。
「うるさい黙れ! とにかくこれは決定事項だ。今からメイドに勇者を誘惑できそうな危ないドレスを準備させる。おおそうだ、なんなら良さげなメイドがいたらそいつも使って構わないからな。とにかく勇者を堕とす為にどんなことでもしろ! わかったらさっさと準備せぬかグズが!」
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