番外編② その三 勇者海渡の憂鬱
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「勇者様。実はマドロッコシ山で落石が発生しましてな。取り払ってもらえませんかのう?」
「……俺が?」
「勇者様にしか出来ないことです!」
海渡はそう村長に強く言われてしまった。異世界に来てからもう半年もすれば十年になるのだが海渡は未だに、いや何故か今もこのような頼み事をされていた。
「そういうの冒険者の仕事じゃないか?」
「冒険者はダンジョン探索で忙しいらしくてのう。全く冷たいものじゃ。代金も高いし。その点勇者様ならむりょ、いや使命としてやってくれますから」
「俺の使命って魔王を倒すことな筈なんだがな」
「どうか! どうかお願いしますじゃ!」
「じゃなんて今までつけてたか?」
やれやれと思いながらも勇者は転移魔法で山に向かった。落石は起きていた。だが正直大の大人が数人もいれば十分な程度だ。勿論現代日本だったらそれなりの被害だろうがこちらの世界の住人は結構力強い。
「終わったけどあれぐらいなら次からは自分たちで何とかしてくれ。俺だってずっとこの世界にいるわけじゃない」
「はは。御冗談を。勇者様はもうこの世界の勇者様ではありませんか」
「…………」
そしてそれからも海渡は事あるごとに呼び出され便利屋のような仕事を頼まれた。
勇者はいい加減うんざりしてきたので王城に向かう。
「おお勇者様。これはこれは。いや話に聞いてますぞ。随分とご活躍なようではありませんか」
「最近は雑用みたいなことばかりやらされてるけどな」
「はは。それは勇者様があまりにお強いからそう思われるだけ。普通ならそこまで出来ません」
「……はぁ。そういうおべっかはいい。それよりもだ。王よそろそろ俺は魔王を倒しに行こうと思う」
「ゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲッ!」
海渡が今後の予定を伝えると国王が驚き仰け反りすぎて王座から転げ落ちた。
「ゆ、勇者様今なんと?」
「魔王を倒す」
「ゲゲッ!」
「何をそんなに驚いている? もともとそういう話だっただろうが」
海渡が眉を顰め問う。そう勇者の最終的な目的はこの世界の魔王を倒すことだ。
「いや、まだ早い! 勇者様にはまだやるべきことがある筈だ!」
「ない。断言してもいい。大体最近も俺があえてやるような仕事はなくなってる」
「いやいやそんな……」
「はぁ。王よ貴方にしてもそうだ。この世界にやってきた当初はあまりにも危険で世紀末かと思えるほどの世界であり、身なりを整える余裕すら無く寝る暇もなく常に各種問題の対処に追われてる日々だっただろう。だが今は見る影もない」
しみじみと思い出すように海渡が語る。この王も出会った当初はガリガリで骨と皮だけといった様相だった。何とか威厳を保とうとボロボロのマントや革製の王冠を被っていたがそれでもかなりみすぼらしかった。
だが今はすっかり肥え太り良質な皮で仕立てたマントや衣装を纏い頭には宝石を大量に散りばめた王冠が乗っている。手にした杖は純金製だ。
「勇者様。お気持ちはわかりますがまだまだ国には問題が残っております。それに魔王は手強く恐ろしく強い。簡単ではありません」
王の隣に座っていた王妃が言った。彼女もまた出会った当初は魂が抜けたような青ざめた顔であり頬も痩せこけていた。今は血色も良く化粧もバッチリ決めている。ドレスもそれはそれは綺羅びやかな代物だ。
「……かつてはこのあたりの水源も猛毒に冒され瘴気によって大地は汚れ数多の病魔が人々を襲い毛根すら一本も残らないような状態だった。だが今は治水も成功し、空気の清浄化も終え温暖化も対策し国民の毛根率も増加した。王だって今はふさふさだろう?」
「いや本当そのおかげで妻も惚れ直したぐらいで毎晩それはもう」
「いやですわ貴方ったら」
突然いちゃつき出した二人に海渡はただただげんなりするのだった。
「とにかく十年間で世界中を旅して周り各地の問題を自分なりに解決してきたつもりだ」
「だ、だが。そ、そうだ! 魔王には四天王がいる! それも倒してないのに!」
「そんなのとっくに倒した。伝えた筈だろう」
「え? そ、そうだったか? いやしかし! それは四天王最弱!」
「四天王全部倒した」
「勇者様それは大きな間違いです。いいですか? 魔王には四天王の四天王が存在するのです。つまり勇者様が倒したのは四天王の中でも正に最弱の四天王」
「だから四天王の四天王含めて十六人全てとっくに倒した」
「ゲゲゲゲゲゲゲゲゲッ!」
「ひぇ~~~~~~!」
王と王妃にやはり驚かれる海渡であった――
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