番外編 その十 ホッケーじゃなくてホッケです
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お化け屋敷でなんと女神サマヨがホッケのマスクを被った怪しい男に捕まってしまっていた。
「いやぁあ勇者様助けて生臭い~!」
「うるせぇだまりやがれ!」
「なんて奴だ。しかもホッケで顔を隠すとは卑怯だぞ!」
「しかもちょっと臭いよね」
海渡も鼻を押さえて顔をしかめていた。
「て、何でホッケーーーー! しかもマスクって言ってるけどホッケに紐つけて結んでるだけだよね! 雑すぎるだろう! しかも本当にホッケだから生臭いよ!」
「う、うるせぇ! いいか? これはラ○ス産のホッケなんだよ!」
目を剥いてシンキチがツッコむがどうやら相手にも言い分があるらしい。
「……いやだから何!? 産地言われても知らないよ! そういう問題じゃないからね!」
「ばかいえ大事なことだろう!」
「えっと、○モスさんのホッケ?」
「て! 何かサッカーが上手い人が食べそうなホッケになっちゃったよ! て今ボケたの花咲!? この中で唯一常識を保ってる人だと思ったのに!」
シンキチがツッコミ同時にちょっと残念みたいな顔を見せた。そして――鬼の形相をした杉崎がシンキチの頭を掴む。
「おい。先輩の舞に向かって呼び捨てとはいい度胸だな」
「ひぃいい! ごめんなさいごめんなさい! ツッコミの勢いでついぃ花咲さんですぅ!」
シンキチが涙目になって謝罪した。杉崎は何とか納得してくれたようだ。
「もうそれぐらい別にいいのに」
「いや、こういうのはなぁなぁで済ましたら駄目なんだよ」
「うぅ、本当に殺されるかと思った」
胸に手をあて青い顔を見せるシンキチである。
『それはそれとしてシンキチ。確かにラ○ス産のホッケなら大きいし顔を隠すには十分だ』
「なるほど。普通のホッケなら顔は隠れないけどラ○ス産ならバッチリ隠れるわけだ」
ダマルクの説明に海渡も納得の様子だ。
「――いや! だからそういう問題じゃないんだってば! 何でホッケなのさ! ホッケーマスク被った殺人鬼なら映画とかでもよくみるけどホッケって!」
「いや、ホッケを侮るのは危険だぞ。異世界には北海道を四つ並べてもまだ足りないぐらい大きなホッケがいて漁師を困らせたものだ」
「凄いけどなんで例えが北海道!? そもそもこのホッケと関係なくない!?」
「すげぇな。確かにそんなのがゴロゴロいたら大変だろ」
「ホッケのマスクが異世界のホッケに食い付いちゃったよ!」
「いや、確かに厄介だけどどんな世界にも天敵がいてね。巨大ホッケを捕食するトキザ・ワールドというトキがいたんだ」
「別方向から妙な捕食者出てきた!」
「お、おう。そのトキはどんなトキなんだ?」
「また食い付いた! どんだけ興味あるんだよこのホッケマスク!」
「うぅ生臭いぃ」
ぐいぐい聞いてくるホッケマスクの男。一方サマヨは臭いがきつそうだ。
「トキザ・ワールドは時を操作するトキでね。時間を止めてる間にホッケを捕食するホッケにとってまさに天敵なんだ」
「な、なるほど。時を止められちゃホッケも溜まったもんじゃねぇな!」
「いやいやいやいや! もう時を止めてる時点でホッケとか関係ないから! そんな巨大ホッケを時止めて捕食するトキとかあらゆる生物にとって恐怖でしか無いし!」
「いやそれは違うぞシンキチ。そのトキは人間には感謝されてたんだ」
「え! そうなのお兄ちゃん!」
「海渡様はとても博識なんですね」
「それでそのトキは何で感謝されてたんだよ!」
「皆どんだけこの話に食い付いてるの!?」
もはや入れ食い状態である。
「トキはその嘴で病気になった人なんかのひ、いやツボを突くんだ。すると病気がたちどころに治る」
「今何かいいかけたよね!」
「そりゃすげぇ! そんなトキがいたら、俺だってこんなところでホッケなんて被ってなかっただろうに」
「急にしんみりしちゃったよ! 過去に何があったのこの人!」
ホッケマスクの人にも色々あったのだろう。
「本当夢のようなトキだな」
「う~んでもたまに間違って病気が悪化することがあるのが玉に瑕だったんだけどね」
「玉に瑕どころじゃないよねそれ! てかそもそも北海道四つ分のホッケを捕食するトキの嘴に突かれたらその時点でヤバイよね! てか何この話! 最初はホッケの話だったのにいつの間にかトキになってるし!」」
「てめぇふざけんじゃねぇぞ!」
「ほら! ホッケマスクも遂に切れだしたよ! こんな話ばっかりしてるから!」
「ずっとトキだと思って聞いてたのに俺を騙しやがって! そいつはどう考えてもアm」
「意図しないところで切れてたよ! あぁもうめちゃくちゃだよ!」
「てかさっきから怖いって言ってるでしょ! 何なのあんた達バッカじゃないの!」
委員長の背中に隠れるようにして震えていた鈴木が涙目で叫んだ。いよいよ恐怖が限界に達したようだ。
「てまだ怖がってたの! この状況で怖くなる要素ある!?」
「いや頭にホッケ被ってる人が拳銃持って騒いでいたら普通に怖いと思うよ?」
「いや、まぁ、はい……」
海渡が冷静な意見を述べるとシンキチもそれ以上何もいえなくなった。
「クソが揃いも揃って俺を馬鹿にしやがって! こうなったらこの女の口にありったけのホッケを突っ込んでぶっ殺してやる!」
「キャァアアァア助けて勇者様ーー!」
「だから何そのホッケへのこだわり! その銃何のために持ってるの!?」
男はエモノをホッケに持ち替えて女神の口に近づけていく。シンキチがツッコむが女神サマヨの危機であり海渡の目つきも変わるが――
「邪魔だ!」
「ギャァアアアアアァアアアァア!」
だがその時、背後に立った男が叫びホッケマスクの男をふっ飛ばした。
「フンッ。そのまま死ね」
「きゃぁ~黒瀬きゅんかっこいいべ~」
「すっご~い黒瀬くんって強いんだねぇ」
「フッ」
そう。それは黒瀬だった。黒瀬が仲間 貴子や貞椰子と一緒にやってきて女神サマヨを助けたのである。
「おお。黒瀬ナイスタイミングだったな」
「フッ」
「黒瀬くんありがとう助かったわ!」
「フッ」
杉崎と助かった女神にお礼を言われまんざらでもなさそうな黒瀬である。
「でもどうしてここに?」
「う~ん出口を探してたら何か皆がいたんだよねぇ」
「黒瀬きゅんあっちこっちいったりきたりしていたずら。そういう姿もかっこいいべ~」
黒瀬が終始髪をかきあげる仕草をとってフッフッフッフッ言っているが海渡と杉崎は気がついた。さては迷ったなと。
「あれれ~もしかして黒瀬くんってば迷ったの~?」
「フッ、ま、迷ってない」
「あ~迷ったんだぷぷぅ」
つんつんっと黒瀬のほっぺを突っつく女神サマヨである。さっきまで泣いてた姿はどこへやら。
「……生臭い」
「えぇええぇえ!」
そして黒瀬が鼻をつまんだ。すっかりホッケの臭いが染み付いてしまったのだろう。
「勇者様~クリーンしてクリーン!」
「う~ん。面倒」
「えぇ!」
海渡はそう言って拒否した。女神サマヨはちょっと迂闊なので最近は姉のアテナからも厳しくしてと言われてるのだ。
「あ、いた! ちょっと虎島と景がいないんだけどどうなってるのよ!」
「主と一緒にお化けとやらを膾切りにしてやろうと思ったのに」
「お腹減りました」
するといつも景と一緒にいる三人もやってきて合流した。どうやら虎島や景とは会えていないようだ。
「海渡。これはもしかしたら今度こそ上手く行ってるかもな」
「う~んだといいんだけど」
杉崎が海渡に耳打ちする。確かにお化け屋敷で完全に景と二人きりならばいい感じになっていてもおかしくないと思うのだが――
『てめぇら俺に一体何の恨みがあるんだ!』
『わ、我々はデスゲームを通して命の尊さを教え』
『だったらてめぇらにこの俺が命の儚さを教えてやるよゴラァああぁあああ!』
そして悲鳴が聞こえてスピーカーからの音声が途切れた。
「……どんまい」
「虎島、お前は頑張ったよ……」
この後、虎島や景とも合流した一行だったが結果がどうだったかは聞くまでもなかった。
「はぁ……こんな筈じゃなかったのに……」
一通りのアトラクションを見終わり、虎島は落胆していた。景はお化け屋敷を巡ってからはあの三人が放そうとせずそれ以上虎島も何も出来なかったのである。
もうこれでチャンスはないか、とすっかり暗くなった空を見上げるが――
「虎ちゃん。もう、こんなところで何一人たそがれてるのよ」
「け、景――」
「キュ~♪」
そう、そこには景がいた。しかも肩にミラクが乗ってるだけであの三人の姿はない。
「お前、一人か?」
「うん。これから花火だし……何とか抜け出してきちゃった」
テヘッと舌を出す景に思わずドキッとなる虎島であり。
「あ、花火があがった! た~まや~」
打ち上げ花火を見ながら景がはしゃぐ。そうこのテーマパークでは夜になると花火が打ち上がる。
そしてこれは絶好のチャンスだった。今なら誰も邪魔はいない。なんならさっきからツッコミの声も聞こえない。それぐらい静かなのだ。
(これじゃあとても突っ込めないよ!)
そうツッコミすら空気を読んでツッコミをやめた。このチャンスを絶対に逃すわけがない。
そして次が最後の打ち上げ花火であることを示すアナウンスが流れ、虎島はここが絶好のタイミング! と確信した!
花火が上がる。これが爆発した瞬間にそう今夜! 決着をつける時!
「け、景」
「何……虎ちゃん?」
虎島が声をかけ景がジッと彼を見た。
(言うぞ! 今度こそ!)
そして――ヒュルルルル~と花火が天まで上がっていきまさに今弾けるその瞬間虎島が口を開く。
「景、俺は!」
『真弓~~~~~~~~! そして愛する我が、ギャァアアァアァアアア!』
その時だった花火が爆発すると同時にふんどし姿の田中も夜空を舞っていた。花火と一緒にどうやら田中も打ち上げられていたようなのだ。
「うわ、おいおい何だあれ? 汚い花火だな」
「えっと、ねぇ虎ちゃんあれって田中――?」
周囲がざわめき、景も呆気にとられていた。そして虎島は泪を流しその汚い花火を見届けることとなった。
(田中次あったら絶対殺す!)
こうして結局景への告白は叶わず田中への殺意だけが強まる虎島であった――
一方その後のDG党の面々は――
「ぎゃぁああ! 何で溶岩の中をジェットコースターが!」
「ひぃい! お化け屋敷に本物の悪霊がぁあ! ぎゃぁあやめろやめてくれぇえええ!」
「落ちる! こんなの観覧車じゃない! 剣の上に落ちる~~~~~~!」
そう。そんなに命の尊さを教えたいなら先ず自分たちが学べということで海渡によって本物の地獄のテーマパーク送りとなったのだった。
ここならきっと連中も命の尊さが学べることだろう。もっとも一度入場したが最後二度と出ることはかなわないだろうが――
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