第百二十七話 黒幕
「海渡、じょ、冗談だろう? 女神様が仕組んでいたなんて?」
「キュッ、キュ~……」
「そうだぜ海渡、いくらなんでもそれは……」
「杉ちゃん、うん、私も信じられない」
「わ、私も信じられません女神様がそんな……」
「キラが言うならそうよ! 信じられないわ!」
「主が言うのだから当然だな」
「なにかの間違いではありませんか勇者様?」
海渡のすべてを仕組んだのが女神サマヨ発言に虎島も杉崎も花咲もミラクもフォワードもマックスもキャラットもそして景も驚きを隠せない様子だった。
「そうです! 先生で女神のサマヨ先生がそんな……」
「うぃ~サマヨがなんだって? ザマァよだってぇ?」
「矢田先生、今はそんな冗談言ってる場合じゃないよ!」
「そうですわ! 説明を求めますわ! ね、赤王様?」
「え? あ、うん、そうだな……」
委員長も鈴木も金剛寺もアカオも気になるようだ。一方で矢田先生はただの酔っ払いである。
『それでよく担任やってられるな!』
「…………」
そしてサマヨの姉であるアテナに関しては、とても真剣な目つきでそのやり取りを見守っていた。
「あ、あはは。やだなぁ勇者様。本当冗談ばっかり。あ、私が普段から抜けているからからかってやろうとかそういうつもりなんですねぇ? 大体私にそんな策が練れるわけないじゃないですかぁ」
「うん。そうだね。少なくとも女神様がそんな真似出来ると思わない。本物の女神様だったらね」
「…………へぇ」
「え? ど、どういうことだ海渡!」
「……まさか、そいつは――」
海渡の追求に、虎島が驚き黒瀬が何かに気づいた様子を見せた。そして女神サマヨの様子にも変化が現れる。
「女神様、いや、お前女神様じゃないだろう? 正体を現したらどうだ?」
「はは、さすがだねぇ海渡くぅん。流石は世界を救う大勇者だ。この僕の正体に気がつくなんてね」
そして、女神様はなんと自分の顔に手をかけてベリベリべリと顔を剥ぎ取った。まるであの大泥棒のように!
『どの大泥棒! 一杯いすぎてわからないよ!』
即座にシンキチが突っ込んだ。確かに顔をベリベリする大泥棒は多いのだ。
「お、おいおい、まさか男かよ!」
「やっぱりね……私も怪しいと思っていたのよ」
杉崎が驚くも、アテナはどうやらその正体に感づいていたようだ。
「アテナ様、妹じゃないってわかっていたの?」
「えぇ、だって――妹から神フォに、寝坊して修学旅行のリニアに遅れたどうしようって泣き顔のメッセージがアイコン付きで届いていたもの!」
『早く言おう! ねぇそれもっと早く言おう!』
まさかの寝坊であり、それを利用した巧みな入れ替わりだったのである。
「なんてこった全く気が付かなかったぜ」
「リニアで男子トイレ入ってたときはちょっとおかしいかなと思ったけどな」
『何で気づかないんだよ揃いも揃って!』
変装はともかく行動は意外とザルだったようだ。
「それにしても、まさか貴方だったなんて。影神ストーンパディー」
「ふふふ、久しぶりだねアテナ。どのぐらいぶりだったかなぁ」
髪を掻き上げつつ影神とやらがアテナに語りかける。髪の毛から着ている物も含めて黒で統一された怪しい男だった。
「そして、勇者海渡。僕はね、君にはずっと、ず~~~~っと注目していたんだよ。うふふ」
海渡に視線を向け、ストーンバディーが楽しそうに語った。
「てか、お前って何か黒幕とかやってそうな声してるよな」
「ふふ、相変わらず面白いね君は」
『いや黒幕とかやってそうな声ってどんなさ!』
『突っ込むなぁ』
シンキチのツッコミも響き渡る中、虎島がアテナに問いかける。
「アテナ様。あの影神というのはどんな奴なんだ?」
「恐ろしい神よ……黒幕の異名を恣にしていて、あらゆる世界で大体黒幕をやっているのはこの影神だと言われているわ」
『異名どころかまんまだよね!』
「殆どの世界の黒幕、なんて恐ろしいんだ影神ストーンバディー……」
「そう思うと段々あの声も黒幕っぽく聞こえてきたわね」
全員も既にストーンバディーを黒幕と思い始めたようだ。
「それで、その黒幕の神様は一体何がしたくてこんな真似を?」
「それは君さ」
「俺?」
「ふふぅ、そうさ僕はね。君をひと目見た瞬間から興味を持った。もう僕は君に夢中さ。君に釘付けで君だけを見たかった。そしていつかこう思った。君という存在がこの世界の神を蹂躙する姿を見ることが出来たら一体どれだけ幸せだろうと。君の強さは僕の心を捉えて放さない。あぁ、本当になんて素晴らしいんだ!」
影神ストーンバディーが自らの肩を掻き抱き叫んだ。そしてトロンっとした目を海渡に向ける。
「ふぅ、ところで、その話だとお前自身もやられる立場になるって考えなかったのか?」
「フフッ」
海渡が問いかける。しかし、影神は不敵な笑みを零し、濡れた瞳で海渡を見る。
「そう簡単にいくかな? 僕は黒幕さ。黒幕というのはそう簡単にはやられないものだよ」
「なら試してみるか?」
「怖い怖い。でも、その威圧も恐ろしくそしてとても心地いい」
「な、なにか変わった神だな……」
若干げんなりした顔で虎島が言った。
「でもね、たとえ最強の勇者な君でも、僕の魔法を受けて無事でいられるかなぁ? 僕の魔法をその身で受けたら、流石の君でも耐えられないと思うけど」
「だったら試してみるか?」
挑発的な影神に海渡が答える。ふふっ、と影神は不敵に笑った。
「なら、受けてみるがいい。この僕のメモリアルイフを!」
影神ストーンバディーが両手を広げた。すると光の粒子が海渡の周りに大量に出現し、かと思えば海渡の首がガクンっと倒れた。
「な、何だ? お前海渡に一体何をした!」
「ふふ、大したことじゃないさ。僕が彼におこなったのは人生におけるイフ、もしもそうだったらの世界を体験してもらっているんだよ」
「もしもだって?」
杉崎が眉を顰めた。虎島も怪訝な顔をしている。
「ふふ、海渡の魂と精神は僕が生み出した何もなかった世界に送られたのさ。海渡は何の力も持たずそれでいて周囲の人間からの好感度は最低の世界にね」
「そ、そんなそれじゃあ海渡くんは、今は何の力も持たず」
「皆から嫌われている、そんな世界にいるってこと?」
「ふふ、そういうことになるね」
影神が答える。その目はどこか挑発的でもあった。
「はは、何だそんなことか」
だが、それを虎島が笑い飛ばす。
「だとしたら問題ない。海渡がそんな魔法をくらうわけがないからな」
「虎ちゃんの言う通り。今更勇者様にそんな魔法が通じるわけがない」
「ふふ、確かにまともに戦えばそうだろうねぇ」
虎島と景が自信を持って語る中、それでも影神には余裕があった。
「通じるわけ無いって、負けを認めているようなものだろう?」
「それは違うよぉ。確かにまともな戦いなら彼にはきっと僕の魔法は通じない。だから僕は彼を大勇者の海渡という彼を挑発したのさ。なぜなら彼は基本的に相手のフィールドに立って戦うことも多かった。やろうと思えばわざわざそんな真似しなくても叩きのめせそうなものなのに、敢えて相手のルールに乗ったりね。それを僕は利用させてもらったのさ。さっき僕は海渡にこう言った。僕の魔法を受けられるものなら受けてみろ、ってね。そして彼はこう答えたのさ、だったら試してみるか? とね。この時点で彼は、そう僕の愛しの海渡は僕が作ったイフの世界を受け入れると宣言してしまったのさ。だから確信していた海渡は絶対に僕の魔法を受けてくれるってねぇ」
うふふふ、と愉悦に浸り影神が言う。そうあのやり取りはただ海渡に自分の魔法を受けさせるためだけに行ったものだった。
「だとしても海渡なら破れるはずですわ!」
「そうだ。海渡は強い」
「ふふ、それはどうかな? 僕の作ったイフは彼の力が及ばずそして仲間もいない。好感度も最低な最悪な世界さ。そんな世界で本当に彼は、勇者は、海渡は、無事でいられると思うかい?」
影神の問いかけ。それにまともに答えられるものはいなかった――




