第百二十六話 マハニン
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「海渡ぉおぉおぉおおおお!」
「糞! 海渡が畜生!」
「嘘ですよね海渡様?」
「ゆ、勇者様!」
「そんな、海渡、くん?」
「嘘でしょ海渡!」
「赤王様! 海渡が大変ですわぁ!」
「むぅ、海渡様ーーーー!」
「え? 何?」
「「「「「「「「て、めっちゃピンピンしてたぁああぁあ!?」」」」」」」」
『やっぱりね! どうせそんなこったろうと思ったよ!』
『シンキチ鋭い』
全員の悲痛な叫びがこだました中、海渡は実に平気そうに返事していた。確かに海渡の立っていた星は消滅したが海渡そのもんは無傷であり、八壊神の武器も全く当たっていない。
「ば、馬鹿な!」
「われわれの攻撃が届かないだと!」
「三千世界だろうと軽く数億は消し飛ぶ一撃だぞ!」
「我々最強の破壊神八柱が全力で同時に繰り出したというのに!」
「なんなのだこいつは!」
「くっ、武器がこれ以上、動かぬ!」
「これは、なんて強力な障壁なのだ!」
「え? これただの呼吸だけど?」
「「「「「「「「は?」」」」」」」」
八壊神が目を丸くさせた。神達はどうやら海渡が障壁で守ってると思ったようだが、実際はただ息を吐いているだけである。それだけで一柱で何億という三千世界を余裕で破壊できてしまう八柱の一斉攻撃を防いでしまったのだ。
「じゃあ、ちょっと強めにやるね。フッ!」
「「「「「「「「ば、馬鹿な、地球の勇者は化け物かぁああぁああぁああ!?」」」」」」」」
そして最強の八壊神はあっさりとお星さまになってしまった。
「てか、八柱もいて最強も何もないよね」
『確かにね! 同格八柱って時点で最強と言ってもそれぞれが八分の一っぽいもんね!』
『中々言うようになったなシンキチ』
鋭いツッコミである。そう、いくら最強と宣おうが八柱いて最強などと名乗る程度の神が海渡に勝てるわけがないのである。
「さて、後はおっさんだけだな」
「お、おっさんだと? この全神皇をつかまえて、おっさんだとぉおおぉおおお!」
おっさんが怒った。
『そこはせめて神と呼んであげて!』
白いローブを来た見た目いかにもおっさんな全神皇が海渡を見下ろし、呼吸を荒ぶらせた。血管がピクピクと浮かび上がり、明らかに憤っている。
「貴方の負けです。全神皇」
するとそこへ耳に心地よい女神の響き。
「あ、お姉ちゃん!」
「うふ、サマヨ、久しぶりね」
そう、そこに立っていたのは女神アテナ、そしてその他大勢である!
「「「「「「「「「「「十二神議官だ!」」」」」」」」」」」
アテナ以外の十一柱が叫んだ。この突然現れた神キャラ達はアテナと同じ神議官である。
『絶対新キャラとかけたよね!』
『突っ込むなぁ』
さて、アテナを含めた総勢十二柱の神々が前に出て、全神皇に向けて言い放つ。
「「「「「「「「「「「「さぁ観念しなさい! 前全神皇殺しの殺神犯はお前だマハニン!」」」」」」」」」」」」
「ぬぐぅうぅうう!」
全神皇改め殺神犯マハニンがうめき声を上げた。
その様子にサマヨが目をパチクリさせる。
「えっと、お姉ちゃんこれって?」
「ごめんねサマヨ。それに勇者様。そこにいる者はここ最近になって全神皇になった神。だけど、前の全神皇の死に疑問をもった我々はずっとマハニンが真犯人ではないかと思って調べていたの。だけど、証拠集めに少し手間取ってね」
「そうなのか。ということはあいつはまだ神としては若いのか?」
「そうね。彼は地球で言うところの土曜日に全神皇になって、それからまだほんの1800那由多年しか経ってないの」
『いやいや十分経ってるよね! 那由多ってもうそれ1那由多でも大変なことだからね! その間証拠を見つけられないってどんだけ無能なのさ!』
「何かこのツッコミを聞くとちょっとホッとするな」
「そうだな」
虎島と杉崎がしみじみと言った。既にこのどこかから聞こえてくるツッコミにも秋の夜長に響く鈴虫の鳴き声のような心地よさを覚えるようになっていたのである。
『まさかの環境音!?』
そして十二神議官が証拠を突きつけると、マハニンががくりと膝を折った。
「しかしなぜだ。お前は前の全神皇の下で仕え随分と可愛がられていただろう? それなのになぜ?」
「ハガーだ……」
「え?」
「あの野郎、この俺にハガーをぶつけてきたんだよ!」
「いや、ハガーって何?」
「前の全神皇が可愛がってたペットです」
「そうなんだ……」
そう、つまりマハニンの動機は前の全神皇にハガーをぶつけられたからであった。
「ふざけたことを抜かすな!」
「バカモン!」
「バカモンが怒ったぞ!」
マハニンの態度に腹を立てて怒鳴ったのは十二神議官が一柱バカモンであった。
「そんなくだらないことで全神皇を殺したのか貴様は!」
「何がくだらんものか! この屈辱は貴様らにはわかるまい!」
「いーえ貴方は馬鹿よ。だってそれ、ただの勘違いだもの」
「かんちがい、だと?」
「そうよ。ハガーはもともと神懐っこいカバだったわ」
『神懐っこいって、しかもカバかよ!』
ツッコミが鳴り響く中、十二神議官が一人が更に続けた。
「だから全神皇はハガーなんてぶつけてなかったの。ただのあなたの思い過ごし。実際はただハガーがじゃれていただけよ!」
「な、なんだとぉおおお!」
「ねぇもう戻っていい?」
真犯人がどうだと続いている中、海渡は冷静だった。
「それなのに殺しちゃうなんて、あなたは本当に馬鹿よ! カバだけに!」
「最後で色々台無しだな」
虎島が目を細める。杉崎も疲れた表情をしていた。
「だ、ダマレダマレダマレ黙れーーーーーー! そんなことは関係ねぇんだよ! あの糞がいつまで経っても全神皇の座を明け渡そうとせず、俺を散々こき使いやがって! あげくの果てにこの俺には後継者の資格なしとかいいやがった! たとえハガーのことがなくてもいずれ俺がぶっ殺していたんだよ!」
全神皇がべらべらと言い放つ。どうやらそもそもからして神としての素行に問題があったようだ。
「もう十分でしょう? 観念しなさい!」
「黙れ! お前ら忘れたのか? 理由が何であれ、今の全神皇は俺なんだよ! 俺が全ての世界のルールを牛耳る最強の神なんだ! 犯人なんて知ったことか! だったらこの俺が判決を下してやる
! この俺を疑った罪で死刑だ! お前ら全員死刑! お・ま・え・ら。死・刑・だ!」
全神皇が吠える。その目は血走っており正気を感じなかった。
「ねぇ、それで、こいつもうぶっ飛ばしていいの?」
そんな中、海渡がマハニンを指差し尋ねる。その飄々とした態度に全神皇が目を剥いた。
「き、貴様この俺を誰だと――」
「あっはっはっは!」
怒りの形相で海渡を見るマハニン。そこへ黒瀬の笑い声が響き渡る。
「……全く大した奴だよお前は。全神皇を前にしても怯むことなくその態度。一瞬でもお前を倒そうなんて考えていた俺が馬鹿だった」
フッ、と微笑み、そして黒瀬が海渡に向けて言い放つ。
「……ぶっ飛ばしてしまえ海渡! お前がナンバーワンの勇者だ!」
「くっ、ふ、ふざけるな! 揃いも揃ってこの俺を馬鹿にしやがって! もういい、だったらこの世の全てを消し去ってくれよう! 無限世界の完全消滅!」
その瞬間世界が白く染まり――そして全てが焼滅。それが全神皇の究極の神業である。
それはあらゆる世界、そうあらゆる三千世界、時も空間も概念も想像世界も空想世界もその全てを消し去る力。
そうして全てを消し去った後、また一から作り直せばいい。そうマハニンは考えていた。
「ふぅ、終わった。煩わしいものは全て、この俺が消し去ってくれたぞ!」
「え? 何が?」
「は、はぁああぁああぁああああ!?」
しかし、立っていた。海渡がそこに平然と、まるでなんてこともないように立っていたのである。
「ま、まさか、この全神皇の業を受けても立っていられるとはな。だが、それでも貴様の負けだ。お前が無事でも、それ以外は全て消え去ったのだからな。どうだ、勇者よ。仲間も家族も全てを失い、どんな気持ちだ? はは、さぁ答えてみよ! 今どんな気持ちか!」
「いや、お前何いってんだよ?」
「は?」
しかし、勝ち誇るマハニンに降り注ぐ声。
「俺達は誰一人死んじゃいないぜ」
「はい、無事だよ海渡くん!」
「本当あんたって規格外よね」
そう、仲間は無事だった。全員、クラスメートも、世界も何一つ壊れてはいなかったのだ。
「ば、馬鹿な、どう、して?」
「全ての世界を壊せる力があるなら、全ての世界を守る力だってあるだろう?」
「は? な、何だそれは。ありえない。私は、神なのだぞ? お前たち虫けらのような人間などとは違う最強の神の中の神、全神皇なのだ!」
「あっそ、でも、それがどうかした?」
「な!?」
「じゃあ、歯を食いしばれ」
「ま、待て!」
「待つわけ無いだ、怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅ーーーーーーーーーーーー!」
「グボラァアアァアァアァアアアアアアァアアアアァアアァアアァアァアァァアァァアアアァアアア!」
海渡の怒羅怒羅ラッシュが炸裂。全神皇の体が宙を舞い、そしてボロ雑巾のようになってぐしゃっと落ちた。
「やりましたわ! 流石勇者様です!」
女神アテナが海渡を称え、そしてそれを見ていた仲間もクラスメートからも歓声が上がった。
「が、がぁああぁあ!」
だが、マハニンが立ち上がり、海渡を睨む。
「はは、貴様、情けでもかけたか? この俺はまだ生きているぞーーーーーー!」
そう生きていたのだ。マハニンは。とてもしぶといようにも思えるが。
「いや、お前は死んだよ」
「は? 何を言っている。俺はまだこの通り」
「いや、死んださ。神としてのお前は」
「……何? 一体どういう、ど、は!? そ、そんな、私から感じない! 神のパワーがまるで! いや、それどころか、何だこの貧弱な体はーーーーー!」
神が叫ぶ。そう、マハニンからは一切の神力が失われていた。しかもそれはもう戻ることはなく肉体的にも弱々しい、神が見下していた人間になっていたのだ。
「今のお前にはその姿がお似合いだよ。そしてお前に俺から言い渡してやる。出向だマハニン。最も過酷でもっとも辛い世界で人として生き続けろ」
「い、嫌だぁああぁあぁああぁあああ!」
しかし、その瞬間には彼はどこかから伸びてきた腕に掴まれそのまま別世界へと引きずり込まれていった――
「これで、終わったのか?」
「はい。全神皇の裁きも終わりました。神々のデスゲームもこれで終了となりますね」
「おお、良かったな海渡!」
「……フッ」
そしてすべてが終わり仲間たちが海渡を暖かく出迎えてくれる。その中には女神サマヨの姿もあり。
「流石勇者様です。私は信じてましたよ」
「うん、ありがとう。でも、そろそろいいんじゃないかな?」
「え?」
海渡がそう問いかける。すると女神サマヨが小首をかしげて反問したわけだが。
「……今回のことはあんたが全て仕組んだんだろう? 女神様」
「…………」
その海渡の問いかけに、周囲の皆も騒然となり言葉を失うのだった――
まさか女神様が?果たして女神様の正体は!そして海渡達は無事修学旅行に行けるのか!




