第百二十五話 本来の目的
「黒瀬、お前がこのデスゲームに出ると言うのか?」
虎島が驚き、そして杉崎が改めて黒瀬に問う。それに黒瀬はコクリとうなずき返した。
「馬鹿言うな黒瀬! 確かにお前は学校でも成績優秀でスポーツも万能。あらゆる物をひと目見ただけで再現できる洞察力といい、たしかにずば抜けた能力を持っているけど、それでも人の領域の中での話だ」
「そうだぜ黒瀬。今俺達が戦おうとしているのは文字通りばけも――」
だがしかし、そこで杉崎の言葉が閉ざされた。虎島の目も驚愕に見開かれる。
「お前、そのオーラ……」
「くっ、黒いオーラー? 背中に黒いオーラーが見える!」
そう、黒瀬の背後から、黒いオーラが、背中から黒いオーラが! 黒い背中のオーラーが!
『何回繰り返すんだよ! 黒い背中でくろせっていいたいんでしょわかったよ!』
相変わらずどこからともなくツッコミが繰り広げられる中、黒瀬が静かに口を開いた。
「……僕は魔王、大魔王なんだ」
「な!」
「大魔王、だって!」
「異世界ならとっくに倒されてるあの大魔王!?」
「そんな黒瀬くんって大魔王だったの!」
「おどろきですわ!」
「大魔王って何か中二っぽいわね!」
『そこの鈴木先輩そういうこと言わない!』
そして遂に語られる黒瀬の正体。それにクラスメートの面々が驚く。ツッコミも届く。
そして女神サマヨもまた、わなわなと震え驚きの様子を見せた。
「そんな、びっくりです。まさか、黒瀬 帝くんの本名が、大魔 王くんだったなんて!」
「ズコ-!」
「ズコ~!」
「ズコッ!」
「ズコズコー!」
「ズコー! ですわ!」
「ず、ズコッ(照)」
『揃いも揃って昭和なズッコケかたをしてるーーーー!』
女神サマヨの発言でついつい皆のギャグが退化してしまったのだった。
「でも、どうしてそんな偽名を?」
「いや女神様よ、そういうボケはいいから……」
虎島が頭を抱えた。そもそも大魔王なら女神の管轄だろうになぜわからないのか。
「……本当なら僕はこの世界を征服しようと思っていた」
「え? 征服?」
「それは穏やかじゃないな」
黒瀬の告白に皆の間に緊張感が生まれるが。
「……だけど、今の僕にはもうそんなつもりはない。いつの間にか感じていたんだ。僕の暮らしていた世界は、はかいしんの手で滅ぼされた。そしていつしかこの世界に転生していた。最初はこんな世界大嫌いだった。力が完全に覚醒すればいつ滅ぼしてもいいとさえ思っていた。だけどこの大魔王ともあろう僕が地球で暮らし、そして――仲間と出会えたことで悪くないと、そう思ってしまった。そんな居心地のいいこの世界が好きになってしまっていたんだ」
黒瀬が感慨じみた様子で語り始めた。それを仲間たちも真面目に聞いていた。黒瀬の言葉には嘘がないように思えた。
「……だから今なら言える。僕はこの世界を救う為に皆と戦いたいんだと」
「黒瀬――わかったぜ! だったら俺達と戦おう!」
「頼りにしてるぜ黒瀬!」
こうして全員の気持ちが一つになった。そして今この世界の最強の八人が決まったのだ。
「おっと、蒼い火がもうすぐ全て埋まるな。おい海渡こっちはメンバーが決まったぞ、て、あれ? 海渡は?」
「そういえばいないな?」
「海渡くん?」
「あいつが逃げるわけないよねぇ」
「元最強の勇者様が逃げるなんて思いませんが」
「例え海渡がいなくてもこちらには赤王様がいますですわ~!」
「い、いや、流石に海渡がいないと厳しい気も……」
「…………」
全員が海渡がどこにいったか探した。すると、あの、と女神サマヨが声を上げ。
「勇者様ならもうあそこに立ってますよ?」
「「「「「「「え?」」」」」」」
女神サマヨの指差す方向――大会の舞台になると言われていた星の真ん中に既に海渡は鎮座していた。
「おいおい、海渡の奴一体……」
虎島が眉を顰める中、海渡がその口を開く。
『なぁ、ようはこの戦いで勝てばいいんだろう? だったらお前ら纏めて掛かってきてくれない? 時間が勿体ないんだわ』
「は?」
「おいおい、あいつマジか?」
「地球とかいう辺境の惑星に暮らす地球人だったか?」
「そんな奴がたった一人で何が出来るっていうだよ」
『え? 寧ろ俺一人にビビって何も出来ないでいるお前らの方がダサくない? それで本当に最強の戦士のつもりなの?』
「「「「「「「「「「何だとこの野郎! だったらいますぐぶっ殺してやる!」」」」」」」」」」
海渡が挑発し、それに乗った他世界の最強達が一斉に海渡に襲いかかってきた。だが――威圧を込める。ただそれだけで向かってきた最強の戦士たちが軒並み倒れそして意識を失った。
「…………は?」
これに驚いたのは当然上から見下ろしてきていた、全神皇であった。
「はい、これで終わり。それでいいんだよな?」
「ば、馬鹿なぁあぁああぁああ!」
海渡が勝利を宣言すると全神皇が驚愕し、驚き、仰天した。
『どんだけ驚いてんだよ!』
一方海渡は余裕の表情であり、皆を振り返る。
「皆、終わったよ」
「ちょっと待てよ海渡ーーーーーーー!」
だがしかし、海渡に対して怒りの声を上げる男がいた。それは虎島だった。
「海渡よ。それはないぜ。何だよそれ。そりゃお前は強いよ。それは認めてやる。だからってこんな真似はないだろう? 俺達は、今まで海渡を仲間だと思ってやってきた。だけど、こんな大事な時に俺らをおいて一人で片付けるってよぉ」
「そうだぜ海渡……そんなに俺達のこと信用出来なかったのかよ?」
虎島と杉崎が悲しい表情で海渡を見る。
「何を言ってるんだよ。そっちこそ本来の目的を見失ってるんじゃないのか?」
「本来の、目的だって?」
だけど、海渡はそんな二人に言い返し、二人もまた訝しげに海渡を見た。すると海渡が一旦瞼を閉じ、顔を上げて言葉を続ける。
「今、俺達に一番大事なのは、修学旅行に行くことだろう?」
「え? しゅ、修学旅行?」
海渡の発言に、残った皆が顔を見合わせた。
「全く。皆どうかしてるよ。こんなのただデスゲームに巻き込まれただけだ。目的でもなんでもない。俺にとって大事なのは、修学旅行に行くことなんだ。皆だってそうだろう? 俺は仲間の皆と旅行に行って色々な名所を見て回って、美味しい料理を食べて、夜には枕投げでもして、そうやって皆と楽しみたいんだ。こんなデスゲームに巻き込まれている場合じゃないんだよ」
ビシッと指を突きつけ言い放つ。その言葉に――全員が相好を崩した。
「はは、違いねぇ。たしかにそうだ。どうかしてたぜ俺達も」
「全くだぜ何が神々のデスゲームだくだらない」
「うん。そうだよ杉ちゃん。私達にとって大事なのは修学旅行を楽しむことだもん」
「私も赤王様とお寺とか見て回りたいですわー」
「う、うが……」
「海渡くんの言うとおりだよ! 皆で思い出つくりたいもんね!」
「うん、委員長の言う通り。だけど、海渡ー枕投げは手加減しなさいよ!」
「…………ふっ」
そして全員が笑いあい海渡が戻ってくるのを待った。後はこんな馬鹿らしいデスゲームは終わらせて、修学旅行を再開させるだけだ。
「勇者様、早く一緒に旅行に参りましょう」
「うん、いまい――」
だが、その時だった。上空から飛来した八つの影が各々が手に持った武器を振り下ろし、海渡の立っていた星ごと破壊し、消滅させた。
「……な、あいつらは、は、八壊神!」
「くくっ、馬鹿が! 調子に乗ってるからそうなるのさ。そいつら我が誇る数多の世界の破壊神の中でも最強の八柱、八壊神だ! もう魂すらものこっておるまい!」
「そんな、嘘だろ、海渡おぉぉおぉおおおおおお!」
そして黒瀬が慄き、全神皇の得意となった声が落ち、虎島の絶叫が異空間にこだました――
果たして海渡の運命は!?
新作として
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