第百二十二話 番外編⑤
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「で、今度はどこに連れてこられたんだい?」
海渡がやれやれといった様子で肩を竦めた。周りには様々な年代の男女が困惑した様子で立ち尽くしていた。
「ようこそ皆さん。私はこの世界の神シキです」
するとこれまで何もなかった空間にシルクハットにタキシードといった出で立ちの男が姿を見せる。手にはステッキが握られ顔には奇妙なペイントが施されていた。
「神だって?」
「本当に神様なの?」
「いや、流石に冗談だろう?」
「いえいえ本当に神ですよ。私は神です(パチンッ)。そうですよね?」
「え? あ、あぁ確かに神だな」
「神様ね間違いないわ」
「本当に神様っていたんだなぁ」
シキが指を鳴らした途端、全員が彼を神だと受け入れた。神の力で精神的に干渉したのだろう。
「素直で宜しい。さて皆さんに朗報です。今回はなんと私が管理するオリオスという異世界に向かってもらいたい。そしてそこで暮らして欲しいのです」
「え? つまりラノベとかによくあるアレか?」
「異世界ってもしかして剣とか魔法があるの?」
「勿論♪」
「でも、危険じゃないのか?」
そんなやり取りがシキと召喚された人たちの間で行われた。海渡はとりあえず彼らのやり取りを眺めていた。
「心配には及ばない。異世界に行くなら一緒に特別な力、君たちにはチートと言った方がわかりやすいかな? それを特典として授けよう」
「ほ、本当かよ!」
「異世界の特典って奴ね」
「だったら行ってやってもいいかもな」
どうやら海渡以外の面々はチートが貰えると聞いて一気にテンションが上ったようだ。そして最終的には納得して既に行く気満々なようだ。
「さて、さっきから話に加わってない君も勿論行ってくれるよね?」
「うん? 行く気はないぞ。お前たちがいくというなら止める気はないけど、俺はいかない」
「……は?」
シキが笑顔を貼り付けて固まった。そしてゴホンッと咳きし、改めて問う。
「聞き間違いだったかな? この神の私が特典まで授けようと言うんだよ? チートな力が欲しいだろう?」
「いや、別にいらない。それに修学旅行も近いしね」
「修学旅行、だと?」
シキの蟀谷がピクピクと波打った。
「うん。わかったよ。とりあえず君たちは先に異世界にいってもらおう」
そしてシキは海渡以外の男女を異世界に送り込んだ。
「じゃ、俺は帰っていいかな?」
「は? 何いってんだこのゴミが。帰すわけねぇだろうボケが!」
だがしかし、シキの口調が突然変わり、ピクピク青筋を浮かばせ海渡を睨めつけた。
「テメェは、折角の私の提案を修学旅行なんて地球のくだらない行事如きで断ったんだ! 神の俺をさしおいて! ゴミみたいな理由で!」
「そんなのはお前が決めることじゃないだろう。神だからって自分の価値観を押し付けるもんじゃない」
「黙れ! たかが地球なんて言う辺境の田舎の惑星で育っただけの虫けらが神に口替えするだけで万死に値する。虫酸が走るんだよ! だからテメェには罰を与える!」
「罰?」
「そうだ。テメェには何の力も与えず煉獄に落としてやろう。絶対に生き延びることが不可能な悪鬼羅刹が跋扈する深淵の煉獄だ! この神にさからったことをたっぷり後悔させてやる。だが安心しろ簡単には殺さない。煉獄の奴らは獲物を簡単に殺したりしない。魂さえも蹂躙し、後悔しようが泣き叫ぼうがいたぶり続ける! 貴様に出来るのはそんな惨めな姿を我ら神に見せて愉しませるだけなのだ!」
そして海渡の足元に漆黒の穴が開き、海渡がそこから煉獄へと落とされた。
「グッバイ馬鹿な人間。全くこの私に逆らわなければ異世界で少しは愉しめたものを――」
「ただいま」
「そう。ただい、まぁあぁああぁああぁああぁあああ!?」
声の方を振り返るとシキは目玉が飛び出るほどに驚いた。口も顎が外れたように開ききっている。
「な、なな! 何だ、一体どうなってる! 煉獄に落としただろう!」
「ん? 煉獄なら物騒だから潰しておいたけど?」
「はぁああぁああぁあああぁあああああぁあああぁああああああ!?」
シキは更に驚いた。背骨が折れんばかりに背中を反ってみせた。
「馬鹿を言うな煉獄だぞ! 煉獄には下手な神を凌駕する魔神だっていたんだぞ!」
「魔神って話がやたら長かったあいつ? ため息吐いたら消えたけど?」
「何いってんだおまええぇええぇえええええ!」
シキが絶叫した。そしてシキが何やら確認し始めたが。
「ば、馬鹿な! ほ、本当に煉獄が消えてる、だと? こんなことありえない!」
「さて、じゃあもういいかな?」
「だ、黙れ! そうだきっとバグだ! きっと最高神が煉獄の設定をちょっとミスったんだ! それで消えたんだな!」
シキはそうやって無理やり納得できる理由を取り繕った。そうでなければとても正常ではいられないと思ったのだろう。たかが人間がチートも持たず戻れるわけがなかった。いや、そもそもで言えばちょっとチートを授かった程度でなんとかなるような甘い世界ではなかった筈なのだ。
「もういい! 貴様も運が悪かったな。バグで煉獄がなくなったせいでこの私から直接的に制裁を受けるのだから!」
「つまり俺に危害を加えるってこと?」
「馬鹿が! お前は神によって粛清されるのだ!」
「嫌だ」
「は?」
海渡が一言拒否感を示しただけで、目の前にいたシキが消え去った。逃げたわけでもない。海渡の嫌だという気持ちだけで世界から消滅したのだ。
「何だったんだか」
「貴様が何なのだ?」
頭を掻きながら海渡が呟くと真上から声が聞こえた。見上げると随分と偉そうに見下ろしてくるヒゲモジャのおっさんがいた。
「あんた誰?」
「我はこの世界の最高神。貴様が消し去った神の上に立つものだ」
「ふ~ん。それで俺にこれ以上何かあるの?」
神だと聞いても海渡は特に媚びへつらう様子は見せない。そもそも勝手に連れてきて煉獄に落とすような連中に礼を尽くす必要もない。
「お前らは所詮はわれわれが愉しむためのゲームの駒に過ぎない。だが、その駒が下級とは言え神を消し去ったのだから見過ごすわけにはいかないだろう」
言葉にはちょっとした怒りが滲んでいた。駒とあっさり言い捨てる辺り、自分が最高の存在と信じて疑っていないのだろう。
「それで、その最高神は俺をどうしたいの?」
「簡単な話だ。お前如きカスを放置したところで我の脅威にはなりえないだろうが、こすってもこすっても中々落ちない程度の目障りな染みになる可能性はある。ならば染みになる前に排除するまで。消えるが良い」
最高神が杖を振り上げると海渡がキラキラした光に飲み込まれた。
「これで終わりだ。貴様も貴様に関わった存在も血縁者もそして地球そのものが消える」
「いや、消えないけど?」
「――な、何だと?」
最高神の目つきが変わった。海渡は平然とその場に立っていた。最高神は今の光で消えたと考えたようだが海渡には全く通じていなかった。
「馬鹿な、私のエンドを受けて、何故立っていられる!」
「う~ん、何でそんなに自信満々なのかが寧ろ理解できないんだけど」
「な、なんだと? 私は最高神だぞ!」
「といってもなぁ……少なくとも俺が戦ってきた中じゃ、下の下の下の下の下の下の下の下の下の――下の、とにかくそれぐらい下の下の下でもまた思い出せないぐらいの下の相手よりも更に下ぐらいの力でしかないし」
「……は? な、何を言っている? 私は最高神だぞ。その私がそんなに下な筈がないだろうがーーーーーー! 馬鹿にするなぁあああぁああ!」」
「うるさい!」
――ボンッ!
海渡が語気を強めるとそれだけで最高神は消え去った。
「ありゃ、消えたか。ま、いいか。帰ろ」
そして海渡は自らの力で何事もなかったかのように家に帰ったのだった――
◇◆◇
黒瀬 帝は完璧だった。完璧な人間だった。だが実はそんな黒瀬には秘密があった。
「大魔王黒瀬様! どうかご決断を!」
そう黒瀬は何と大魔王様だったのだ。
そして今。彼の正体を知る部下たちが大魔王の答えを待った。黒瀬が決断すればすぐにでも地球侵略に乗り出すことだろう。
そして黒瀬がついに口を開く。
「――少し、待って欲しい」
「え? 待つ、ですか?」
「そうだ」
静かに黒瀬が言った。黒瀬はコインを回しておらずそれは紛れもなく黒瀬が自分の意志で発した言葉だった。
「何故、ですか大魔王様! 我々の力も熟し、大魔王様の力も戻っているでしょう!」
「色々なものを見てきた。そして学校にも通い――友達と言える者も出来た」
「え? と、友達ですか?」
「そうだ。馬鹿らしいと思うが。私は見極めたいんだ。この感情が果たして本物かどうか……だから修学旅行まで待ってくれ」
「――左様ですか。わかりました。大魔王様がそうお考えなら、我らは待ちましょう」
「済まないな」
「いえ、ところで実は大魔王様にもう一つ大事なお話が」
「……何だ?」
黒瀬が問うと側近の男がパンパンッと手を叩く。すると奥からメイド姿の魔族がロウソクの立ったケーキを運んで持ってきた。
「「「「「「「「「「「大魔王様お誕生日おめでとうございます!」」」」」」」」」」」」
そして全員が黒瀬の誕生日を祝ってくれた。誕生日の曲も合唱してくれた。
「さぁ大魔王様ロウソクの火を!」
「……あぁ」
そして一息で火を消すと部下たちが大いに喜び各自が用意したプレゼントも手渡されたのだが。
(誕生日もう過ぎてるんだけどな……)
そう、実はとっくに海渡たちに祝ってもらえていたのだった。しかし、折角の好意を無駄にしないとは偉いぞ黒瀬! 誕生日はいくら祝ってもらってもいいものさ!
そして次章はいよいよ最終章! 修学旅行編にてどうなる大魔王黒瀬! その決断は! 待て最終章!




