第百二十一話 この世界の人間は化物か!?
「やったね委員長」
「委員長の料理は無敵よ!」
「喜んで良いのかなぁ?」
皆から称えられるも委員長はなんとも微妙な面立ちだ。委員長としては自分に出来ることは料理だけ。こうなったら自分の作った料理で大人しく引き下がってもらおうと考えて腕によりをかけて料理を魔法で振る舞ったのだ。
しかし、その結果は異星人が腹を壊しての死亡だったわけだ。
「脂肪だらけの豚っぽい異星人だけに見事に死亡したね」
「今それ言う!? いやいや大して上手くないからね!」
「脂肪と死亡――プッ、ププッ」
しかし、密かにこの中に加わっていた美狩はわらってくれていた。
『いいかげんにしろ! まだまだ異星人はやってくるぞ!』
「ふっ、こうなったらそろそろ僕の出番なようだね。そうこの鳳凰院凍――」
「なら次は俺かな」
「て、杉崎!」
「杉崎?」
シンキチが叫ぶと、杉崎が眉を顰める。その様子にすぐにシンキチは言い直した。
「い、いえ杉崎先輩、い、いつのまに外に!」
そう、いよいよシンキチの力を試すときとそう思いきや杉崎がひと足早く出ていたのである。
『なめるなよ! 今度の異星人は電子空間を支配する異星人だ! 地上からでは一切攻撃は届かないが電子空間からリアルに攻撃する手ならいくらでもある! お前たちには手が出せない! だがこのロボの必殺技なら』
「電子の異星人ってこの程度がか? これならそのへんに転がってるコンピューターウィルスの方がよっぽど強力だぜ」
しかし既に電子の異星人は杉崎が倒してしまっていた。そしてご丁寧に電子の世界を可視化し、そこで杉崎のあやつるユニットが次々異星人が倒される様子が実況付きで展開されていた。勿論これは終わった後の録画データであるが。
『ば、馬鹿な電子の世界にまで介入できるだと?』
「寧ろ電子なら杉ちゃんの得意とするところなんだよ」
「相性がばっちりだったってとこだね」
戻った杉崎を花咲が称え、そしてサクリファイスに向けて言いのけた。海渡も特に心配はしていなかったようだ。
『まだだ! まだ異星人は!』
「よし! 今度こそこの鳳凰院と――」
「おい見ろよ! また女の子が外に一人で出ていったぞ!」
「鈴木せんぱーーーーい!」
今度こそ自分がと意気込むシンキチであったが既に鈴木がカード片手にリング(?)に立っていた。
「悪いけどシンキチ。ここは私に任せてもらうわよ」
両手の指にカードを挟めキランっとキメ顔で鈴木がポーズを決める。
『馬鹿が。これまでの連中に感じたオーラはお前からは感じられない。それで本当に異星人と渡り合うつもりか?』
「バカにしないでよね。私にはこのカードがあるわ!」
鈴木がカードを掲げ気炎を上げた。そう今の鈴木は既にカードマスターの称号を恣にしている。これまでもカードの力で様々な異能者を倒してきたのだ。
「さぁ、どんな異星人でも相手になるわよ」
「くくくっ、威勢のいいお嬢ちゃんだ」
「な、既にリング(?)に誰かいるぞ!」
「何だあいつ。黒いローブに妙な仮面をして不気味な奴だ」
虎島が訝しげにリングに立っていたその異星人を見た。全身か黒いオーラーに纏われている。ただものではないと虎島が喉を鳴らした。
「私はデスジョーカー。死を運ぶゲームマスターとしても知られております。ふふふ――」
デスジョーカーが自己紹介し黒いトランプを取り出しマジシャンのよくやるアレを披露した。つまり手から手に移動するアレだ。
「御託はいいわ。とにかく私はあんたを倒せばいいのね?」
「まぁまぁそう慌てずに折角こうやって知り合えたのだからここは一つゲームと行きませんか?」
「ゲームですって?」
「そう勿論ただのゲームではない。貴方はカードが得意なようだからそれで勝負と行きましょう。まずルール説明ですが」
そしてジョーカーの説明を受け鈴木も納得した。だが、それを見ていた面々はこのデスジョーカーがこれまでの異星人とは一味違うことを肌で感じていた。少なくともきっちり会話になる時点で全く異なる。
「ルールはわかったわ。なら始めましょう!」
「クククッ――」
そして試合が始まった。互いにカードによる応酬を行うが、何と鈴木はジョーカーの搦手に引っかかり宇宙硫酸の沼に落っこちてしまう。
「そんな! 鈴木せんぱーーーーい!」
『死亡確認だ! この勝負デスジョーカーの勝ちだ!』
「ふふ、当然の結果です。貴方はこの私とゲームで勝負した時点で負けが確定していた。私はこれまで一度たりともゲームと名のつくもので負けたことがないのだ」
『ハッハッハ、そういうことだ。愚かだったな。お前たちはやはり素直に魂を犠牲に必殺技をつかうべきだった。そうすればゲームで負けようが問答無用で必殺技で葬り去れた!』
「それってどうなの?」
将棋で負けたら将棋盤をひっくり返すばりの愚行な気がして海渡的にはちょっとどうかと思うのである。
「畜生! 鈴木先輩が、こんなことならやっぱり僕が出ておけばよかったんだ! この鳳凰院――」
『この馬鹿!』
「ぐぼぉおおお!」
悔しがるシンキチをダマルクが殴った。盛大に天高く浮き上がり錐揉み回転しながらシンキチが落ちてくる。
「ちょっと待て! ここロボットの中だよね! 何でそんなに飛ぶの俺!」
『いい突っ込みだ。しかしそれだけの突っ込みが出来ているのにお前は鈴木を信用していないのか?』
「え? え?」
「そうだな鈴木はあんなことで死ぬ女じゃない筈だ」
「そうだぜ虎島。俺も鈴木を信じている」
「そ、そうだよ! 鈴ちゃんは死んだりしない!」
戸惑うシンキチだが、仲間たちはまだ諦めていないようだ。
「ふふ、現実を認めたくないのはわかりますが残念ながら鈴木は死んだのですよ。見たまえ私の手に残ったカードも見事にジョーカー、な、なにぃいいいい! 何だこのカードは天使だと! こんなカード私の手持ちには――」
その時だった、カードが光り輝いたかと思えば4体の天使が姿を見せデスジョーカーを見下ろした。
「ば、馬鹿な! は、さてはあの女、最後のファイナルラストチャンスがパージした時! コスモが爆発した瞬間にこの私の手札に自分の手札を!」
「気づくのが遅かったわね!」
そこに響くは鈴木の声。そして宇宙硫酸の中から手が伸びて鈴木がリングに這い上がってきた。
「生きていたのかお前ーーーー!」
『ば、馬鹿なお前は死んだはず!』
「そう思うなら死体ぐらい確認しておくべきだったわね。さぁ、これであなたの負けよ!」
そしてジョーカーの頭上に光り輝く四大天使が顕現しそして――デスジョーカーを八つ裂きにした。
「ふぅ、勝ったわ」
「信じていたよ鈴ちゃん!」
戻ってきた鈴木に委員長が抱きついた。やはり委員長も心配だったのだろう。
「しかし良く無事だったよなぁ」
「えぇ、委員長のおかげよ」
「私の?」
「うん。前に委員長から貰ったお守り。これが懐にあったおかげで助かっちゃった」
そして鈴木が交通安全と書かれたお守りを取り出した。奇しくもこれのおかげで鈴木は宇宙硫酸の中でも無事だったのである。
「て、おかしいよね! さっきから思ってたけどおかしいことばかりだよね! 何か急にわけのわからないゲーム始まってるし! ルールもよくわからないまま何故か突然発生してた宇宙硫酸の沼に落ちてるしてかそもそも宇宙硫酸って何だよ! 宇宙だろうがなんだろうが硫酸は硫酸だろう! それにファイナルラストチャンスとかファイナルとラストで意味かぶってるしパージとかコスモとかもはや意味がわからない上お守りって! 硫酸まるで関係な上それただの交通安全のお守りじゃーーーーん!」
『つっこむなぁ』
そしてその後も異星人はやってきて今度こそと意気込むシンキチを無視して美狩や光達が戦い異星人を打ちのめしていった。
『何なんだ一体! この世界の人間は化物か!?』
ついにサクリファイスがキレ気味に叫んだ。何せ折角用意したロボットはもはやただ戦いを見るためだけの置物とかしている。
「よし! 次こそ僕が出るぞ!」
そして今度こそとシンキチが意気込む。そして周囲の様子を探るが。
「あ、あれ? いつもならこのタイミングで邪魔が入ったり、外にもう出てたりするんじゃ?」
「何を言ってるんだシンキチ。お前が出るんだろ?」
「そうだぜ。ここを任せられるのはシンキチしかいない」
「信じてるぜシンキチ」
「「「「「「そうだぜ! 俺たち(私たち)も応援しているぜ(わ)!」」」」」」
全員がシンキチに任せると言ってくれた。何故かあまり関わりのなかったモブ的な少年少女もシンキチを応援してくれた。
そう、皆シンキチを信頼してくれているのだ。
「シンキチ。ここを任せられるのはもうお前だけだ」
「海渡さん……」
「シンキチ頑張ってね!」
「菜乃華……さ、さん」
海渡に睨まれ一瞬ビビってさんをつけ直したシンキチだが、とにかくいよいよシンキチの出番がやってきたのだ。
『さぁやってやろうぜシンキチ!』
「おう!」
そしてシンキチが外に出ようとしたその時――全員がロボの外に放り出された。
「「「「「「「「あれ?」」」」」」」」
モブ少年少女の目が点になる。かと思えば彼らが乗っていたロボが動き始めた。
「え? これってどういうこと?」
『茶番は終わりさ。全くこんな連中がいたとは俺としても想定外だったよ』
サクリファイスの声が響き渡る。
「おいおい、異星人とやらはどうなったんだ?」
『それはもうお前らが全部倒した』
「え! なら僕の出番は!? 鳳凰院と」
「それならもうお前の目的は達成されたんじゃないの?」
シンキチの言葉に被せるようにして海渡が問う。しかしロボットは器用に頭を振ってみせた。
『俺の本来の目的は異星人を倒させることじゃない。お前たちは知らないかも知れないがこの世界には数多の世界や星がある。それらの世界は放っておくと虫のようにうじゃうじゃ増えて行く。増えすぎた虫は駆除しなければならない。俺はそれをアンインストと呼んでいるがな』
「随分と勝手な話だな」
『何とでも言うがいいさ。とにかく俺はそうやってこれまでも世界を試してきた。このロボを使い覚悟とそしてその星の強さをテストし、合格できなかったものは次々とアンインストしていった』
「その合格の基準っていうのが異星人とのデスゲームだったわけか」
『そういうことだ』
虎島や杉崎の問いかけに答えていくサクリファイス。だがそうなると当然疑問が残る。
「それなら私達は合格ってことじゃないの?」
鈴木が言った。確かに異星人は倒された。だからこそこうしてロボの外に出されたのだ。
『違う。お前たちは失格だ!』
「はい? いやいや意味わからないし! テストに合格したんだから失格ってのは変な話だろう!」
『なんとシンキチの突っ込みがまともだ』
「いや、いつもまともじゃないみたいじゃん!」
シンキチが更に突っ込むが確かに彼の言うとおりだ。異星人はシンキチ以外の面々が軽くのしてきたのだから問題ないはずだろう。
「僕だって戦いたかったよ! 鳳凰院とう――」
『馬鹿かお前らは? このロボットに頼ることなく異星人を生身で倒すような連中を野放しに出来るわけ無いだろう。危険なんだよお前たちは』
シンキチに皆まで言わせることなくサクリファイスが続けた。
『揃いも揃って異分子すぎるんだよ。だから不合格、お前たちはここで俺、サクリファイスにアンインストされるのさ』
「サクリファイスってあなたの名前じゃ?」
『誰がそんなことをいった? そもそも俺とこのロボは一心同体だ。俺とこいつをあわせてサクリファイスってわけさ』
サクリファイスが堂々と宣言する。つまりやろうと思えばサクリファイスが自らロボを動かせたわけでまさにデスゲームそのものが茶番でしかなかったわけだ。
『さて話は終わりだ。この世界ごと俺がアンインストしてやる』
「ねぇ。お前は俺たちを危険と判断したんだろう? だったら逆にやられるかもと思わないの?」
『調子に乗るなよ。お前たちには言ってなかったがそもそも必殺技を撃つのに魂が必要といったがあれは嘘だ。別にそんなものがなくても必殺技は撃てる』
「だ、騙したのね!」
「酷い! 最低よ!」
「こんなの詐欺だぜ!」
モブが騒ぎだした。だが海渡を含めた仲間たちはわりと平然としていた。なんとなくそんな気はしていたからだ。
「ま、どうせそんなこったろうと思ったぜ」
『なるほど。お前たちは少しは察しがいいようだ。だが、大事なのはそこじゃない。必殺技を撃つのに魂は必要ないが回収した魂は俺のパワーになる。これまでどれだけの世界をアンインストし、魂を取り込んだか知っているか? ロボに乗った生贄だけじゃない。世界が消滅すると同時に全ての魂を回収してパワーに変換している。勿論必殺技の威力は回収した魂の数で上がる。今のパワーがあれば三千世界の100や200は軽く消し飛ばす程の威力があるわけだ。お前らがいくら強かろうとこの圧倒的なパワーの前には抗えない』
サクリファイスの胴体部分が開いたかと思えは光が集束し始める。
『これで終わりだ。巻き込まれる世界は気の毒だがそれも全てお前たちの責任だ。罪深い愚か共め消し飛ぶがいい。ファイナルアポカリプス!』
サクリファイスから強烈なな光が放たれた。あらゆる世界を飲み込み消滅させる光。地球は勿論銀河系も空間も時空すらも過去も未来もタイムパラドックスによって生まれたあらゆる分岐の世界もそれらを含めた三千世界、そしてその周辺の三桁を超える三千世界。その全て消滅するほどの圧倒的な必殺技――
――ギンッ!
しかし、その光は海渡の眼力一つで跳ね返されしかも範囲をサクリファイス一点に集中し数字ではとても言い表せないほどに倍増した威力を上乗せし襲いかかった。
『な、ば、馬鹿な、そんな睨み一つでこの俺様がーーーーーーーーーーー!』
そしてサクリファイスは消滅した。サクリファイスという存在ごと。そして彼の生きていた過去も未来も巻き込み、そしてサクリファイスが存在したという事実そのものがあらゆる世界から消滅した。
「おう、海渡。そういえば昨日何かあった気がしたんだけど、海渡何かしたか?」
「う~ん、気のせいじゃない?」
「海渡、今日もファイナルブルークエストやろうぜ」
こうして、再び海渡達は日常を取り戻したのだった――




