第百十九話 巨大ロボは浪漫
「い、一体どういうことなんだよそれ!」
『今話したとおりだ。このロボットでもあの異星人を完全に倒すためには必殺技を放つ必要がある。しかし必殺技であるフルソウルブラストを放つにはお前らの誰かの魂が必要だ』
それを耳にし、巨大ロボットに乗った24人のパイロットの全員が凍りついた。目の前にはどこかの星からやってきた異星人の化物が迫っている。
「つ、つまり俺らの誰かが犠牲にならないとこいつは倒せないというのかよ!」
『そういうことさ。さぁ、すぐに決めろお前らの中から生贄を』
そう命じるのは小型のロボットだ。当初はサポートロボだと語っておりサクリと名乗っていた。最も実際の名はサクリファイスであるわけだが。
「だ、だったらこんな戦いやめてやる!」
『そうかなら勝手にするがいい。だが、お前たちは必ず後悔することになる』
24人の少年少女はロボットの外に放り出された。その直後異星人の襲撃により彼らの暮らす街が焼き払われた。学校も破壊され多くの仲間が死んだ。
サクリは自らインタビューに応え、国を救うには選ばれた24人の誰かが生贄となる必要があった。そうすれば街が破壊されることはなかったと伝えた。そして本来一人の犠牲で済んだ物が、彼らがそれを拒んだおかげで短時間で2486万7329人の尊い命が失われたことと、もし次も覚悟を決めなければ今度はその数倍の犠牲者が出て世界にも侵略の魔の手が伸びると説明した。
世論は彼らを非難した。世界を救うためなら一人の生贄ぐらい何だと、むしろそれで世界が救えるなら光栄だろうと焚き付けた。
そして彼らは結局犠牲を余儀なくされ異星人を倒す度に一人また一人と死んでいった。だが、敵はどんどんと巨大になり一人だけの死では倒せないとされ、血縁者も巻き込んだ生贄が必要になり、そして――24人の生贄の魂がつきたと同時にその世界は消滅した。
『やれやれ、脆い世界だったなぁ。ま、こんな脆弱な世界ならあってもなくてもかわらないか。さて、次の目標は――地球か……』
◇◆◇
「そ、そんな一体どういうことだよそれ!」
長島 貞春が叫んだ。頭上にはふわふわと浮かぶロボットがいた。名前をサクリと言う。
このロボはある日路上にいたところを貞春に拾われた。その後様々なことがあり貞春も打ち解けていたがある日、この地球に脅威が迫っていると嘯き、彼を含めた24人をこの巨大ロボットに集めたのである。
「まさか、異星人を倒せとはな。フッ、ついにこの僕! 鳳凰院 凍――」
「シンキチ、呑気な事を言ってる場合じゃないよ!」
「だから最後まで言わせてくれよ!」
『あきらめろシンキチ』
残念ながらあと一歩のところで真弓に口を挟まれてしまった。結局シンキチはシンキチのままである。
『なんでもいいから早く決めることだね。異星人を倒すにはこのロボットの必殺技を放つ必要がある。そのためにはお前たちの誰かの魂が必要だ。もし自分たちで決められないならこの俺が決めてもいいんだぜ?』
サクリ改め、サクリファイスが問いかけた。既に異星人はすぐそこまで迫っていた。見るからに不気味な巨大生物であり、もし放置していたら甚大な被害が予想される。
『勿論、誰も生贄にならないというなら止めはしない。ただし後悔しても知らないがな』
サクリファイスが続ける。そう彼らの誰かが魂を差し出さなければ、異星人は倒せず、そして世界は異星人に蹂躙される。それは抗うことの出来ない事実なのだ、とそう思われていたが。
「ちょっといいかな?」
「海渡くん!」
そこで一人手を挙げる少年がいた。海渡だった。そして委員長が声を上げ、皆の視線が彼に向く。
『何だ? お前が生贄になるのか?』
「いや、そんなつもりはないというか、そもそも異星人はこのロボット以外で倒しちゃ駄目なの?」
『……は?』
サクリファイスが怪訝な声を発した。そしてすぐに、フンッと小馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
『まさかこの世界の軍隊とやらでどうにか出来るとでも思っているのか? 言っておくがたかが軍隊ではどうしようもないぞ。核ミサイルだろうと、地球上の全てのミサイルを打ち込んだところで異星人は死なない』
「別に軍隊に頼るつもりはないよ。核なんて物騒なものにもね」
『……だったら一体何をするっていうんだ。言っておくがそんな戯言に付き合ってる時間はないぞ』
「う~ん、戯言のつもりはないんだけど。それに確かにロボットは浪漫だけど、わざわざこんな無駄にでかいだけでパイロットも何人も必要そうな非効率的な手段に頼るぐらいならもっと違う方法でやっつけたほうがいいよね」
「言っちゃったよ! 巨大ロボットについて決して触れてはいけないことをついにこの人言っちゃったよ!」
『巨大ロボットは保護されているのだ』
「野郎タブー中のタブーを」
「それ何かデジャブだな」
虎島の発言に杉崎が目を細めた。とは言え、この世界で巨大ロボは動きにくい。しかも場所は日本だ。巨大ロボが歩き回るだけでどれだけの建物が壊されるかわかったもんじゃないし、動くにしても役所とか色々と手続きが大変なのだ。
「役所とか言ってる場合!?」
『シンキチ、世の中にはルールというものがあるのだよ』
シンキチが突っ込むがダマルクの言う通りこういったものを動かすには色々大変なのである。道路使用許可をとるのも一苦労だ。
『お前ら何をわけのわからないことを。さっさとしないとどれだけの犠牲者が出るかわからんのだぞ!』
「だよね。ならやっぱり俺が」
「待て待て! 海渡、何かいつもお前が出ていって終わらせてるけど、今回は俺にも任せて欲しいぜ!」
海渡が行動に移そうとしたその時、虎島が待ったを掛けた。どうやら今回は虎島もデスゲームで活躍したいようだ。
「おい、サクリファイス! 問題ないな?」
『馬鹿かお前は。お前ごときが何を出来るっていうんだ?』
「だったら試してみろよ。ほら、俺を外に出せ。早く」
『やれやれ死にたがりの馬鹿もいたもんだ。言っておくが外で勝手に奴らに殺されてくたばっても生贄にはカウントされないぞ』
「はいはい、わかったわかった」
そしてサクリファイスによって虎島は外に放り出された。
『GUOOOOOOOOOOOOOOO!』
虎島のすぐ目の前に巨大な異星人がいた。異星人というよりは怪獣といった様相であり円盤状の頭に手足がついたような化物だった。いたるところに水晶のようなものがついている。
『とんだ馬鹿もいたものだ。お前たちもよく見ておくんだな。勇気と無謀は違うんだということを』
「そ、そうだぜ。あんな男に何が出来るっていうんだ!」
「逆に刺激して暴れたらどうするのよ!」
ロボに乗せられた何人かの男女が叫んだ。海渡たちとはあまり関わり合いのない連中である。
そして異星人の水晶から破壊光線が放たれた。街の一つや二つなら軽く消滅できる威力を持った破壊光線であり、何人かのパイロットから悲鳴が上がる。
『終わりだ。あいつは何も出来ず消え去る。それと言っておくがあの破壊光線でこのロボがやられることはないがお前たちの暮らす町は別――』
「パーフェクトカウンターフルバーストダイナマイトスペシャルーーーー!」
サクリファイスの話が終わる前に、虎島がどこからともなく巨大な盾を顕現した。それを構えると破壊光線が導かれたように盾に集まり、そしてその全てが跳ね返され異星人を爆破し消滅させた。
『…………は?』




