第百十七話 宿命
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『ちなみに闇の勢力にも条件はあります。どちらにせよ光の勢力、闇の勢力、どちらかがクリアー条件を達成すると例え生き残っていたとしても敗れた方は全員死にます。これはそういうゲームなのです』
「ふざけるな! 勝手なことばかり言いやがって!」
「そうだ! そんなゲームやってられるかよ!」
『何を言おうとお前たちがここから出られないことは決定事項です。生き残りたければクリアーを目指して頑張ることです。それとクリアーに関係なくゲームで死ねば死にます。それに救済処置はありません。それでは皆様の健闘を祈ります』
そして人工知能を名乗るニエクスの声は聞こえなくなった。後は勝手にしろということなのだろう。
「おいおい、大変なことになったぞ。どうするよ?」
アナウンスが終わり虎島が眉を顰め皆に問いかける。周囲でも戦々恐々といった様子が感じられた。
「まぁ落ち着きなって。どうやらやっと俺の出番が回ってきたようだな」
杉崎が髪を掻き上げながら白い歯を覗かせる。この状況を寧ろ楽しんでいるようですらあった。
「杉崎ってば何かいい手があるの?」
「まぁね。皆には話しただろう? 俺の異能について」
鈴木の問いかけに杉崎が答えると、皆がハッとした顔になる。
「そうか杉崎のゲームマスター!」
「そう。俺のこの力はゲームをリアルに反映させる。更にゲームそのものに干渉も可能なのがこの俺の力だ。これでゲームのサーバーに直接介入してやるさ!」
そして杉崎が目を瞑り、能力を発動しようとするが。
「……あれ? え~と――」
「杉崎どうしたんだ?」
「いや、力が発動できなくて」
「何だって! いや待てよ……」
今度は虎島も自身の力が発動できるか試す。だが、どうやら虎島も本来の力が発揮できず幼馴染の景にしても仲間の三人にしても無理なようだった。
それに加え鈴木もカードが出せず、委員長も魔法少女になれなかった。
「ぷるぷるぷる」
「駄目だ。スライムのミラクもここではただのスライムなようだ」
つまりただプルプルしているだけなのである。
「参ったな。どうやら仮想空間にダイブした影響で力が使えなくなったようだ。海渡はどうだ?」
「う~ん――」
杉崎の問いかけを受けて海渡は悩むが、その時だった。
「もう俺は動くぞ! 確かにログオフできないし、ここでジッとしていても仕方がないからな」
「お、おい、ちょ、待てよ!」
「うるせぇ。黙っていたきゃ勝手にしろよ」
「皆、俺について来い! 俺はこのシリーズを百万時間はやりこんだからな、対策はバッチリだ!」
「よし、腕がなるぜ最初にクリアーするのは俺だ!」
周囲のプレイヤーがそれぞれ動き出した。中にはまだ躊躇っているものも多いが、特に元からゲームが好きなプレイヤーは決断が早いようだった。
「お兄ちゃん。どうしようか?」
「そうだね。俺達もとりあえず始めようよ。折角のゲームだし」
「ふぅ、やれやれ海渡はこんな状況でもマイペースだな」
「全くだ。何か悩んでた俺達が馬鹿みたいだぜ」
「ちょ、ちょっと怖いけど皆で協力すればきっと大丈夫だよ!」
「うん。委員長は私がちゃんと守るからね!」
「真弓はパパが守るのじゃ!」
「だから近づかないでよキモイキモイ!」
「そんなこと言って本当は嬉しいのじゃろ?」
皆が様々な反応を見せながらも移動を開始する。すると間もなくしてモンスターがあらわれた。
「狼のモンスターか」
「ふっここは僕の出番だな。このヘルブリザード!」
「よっと、流石に最初はあんまり強くないな」
シンキチが格好つけるが、その間に虎島が倒してしまった。
「シンキチー置いてくよ~」
「いや、魔法ぐらい撃たせてよ! あと僕は鳳――」
『いいから急いでシンキチ』
「名前ぐらい言わせろよ!」
「だからシンキチだろ?」
結局シンキチはシンキチのままついてくることとなった。
「おぉ、皆も来てたんだな」
すると一行に話しかけてくるツインテールの女の子の姿。
「誰?」
「おいおい海渡忘れたのかよ。俺だよ矢島だよ」
「いや、忘れる以前に性別違ったらわからんだろう」
杉崎が突っ込んだ。田中に続いてTSして挑んでいたのがいたようだ。もっともそれもオンラインゲームのいいところだが。
「あれ? お前鈴木」
「そうだけど何?」
「はは、殆ど同じじゃん。あ、でもおっぱいはワンサイズぐらい弄ったグホォ!」
鈴木が矢島の股間を膝でけった。蹲り悶絶する矢島だったが放って置いた。
「てか、痛みはそこまで無いはずだよな?」
「条件反射みたいなものだろう」
鈴木が苦笑する。そう、死ねば死ぬというデスルールのゲームだが、痛みに関しては実際のゲームと一緒で抑えられているようだった。
「痛みがないのはいいよね杉ちゃん」
「そうだな。まぁ痛みが現実とリンクしてたら外に出たがらない人が増えるからかもしれないけどな」
「あぁ、確かに流石に攻撃されて痛みがあったら街から出ないやつが多そうだもんな」
そんな会話をしていた杉崎と虎島。一方海渡は鈴木をみやり。
「でも、胸を大きくしてたんだな」
そんなことをあっさりと聞いた。鈴木の顔が真っ赤に染まる。
「あ、あんたねぇ!」
「え~でも鈴木さん、元々そこまでちっちゃくないよねぇ」
妹の菜乃華が小首をかしげた。ちなみに今は菜乃華の方が大きいが、所詮ヴァーチャルだと思うと悲しくなる。
「そういうこと言わないであげて! 菜乃華がちっぱいとかやめたげて!」
「シンキチ殴るよ」
菜乃華の蟀谷がピクピクと波打っていた。
『シンキチ殺すぞ』
「ひぃ、ごめんなさいごめんなさい!」
一方でシンキチのパートナーであるダマルクからは殺気が溢れた。ついでに海渡の瞳も氷のように冷たかった。シンキチが思わず五体投地で謝りまくる。
「シンキチ何やってるのかなあれ? 儀式?」
「きっとそういう難しい年頃なのじゃ!」
隣でのじゃロリ口調で語りかけてくる田中にジト目を向ける真弓である。
「全く。いい加減私の胸のことはいいでしょう。そ、それに私だってい、Eカップというのを経験したかったのよ……」
そしてプイッとそっぽを向きながらそう答える鈴木であった。だが、妹の菜乃華は納得がいってなさそうだ。
「元はDカップもあるのに贅沢!」
「委員長は何カップなの?」
「え、えぇええぇええ!?」
「海渡、お前そこはもうちょっとデリカシー持とうぜ」
虎島が呆れ顔である。なんとも緊張感の欠片も感じない一行だが今度は彼らの目の前に屈強そうな歴戦の戦士といった見た目の男が現れた。
体中が傷だらけであり、強面なリアルにいたらまちがいなくそっち系と思われそうな様相をしていた。
「な、なんだお前は!」
「……ヒック、何だ君はだって? ヒック」
「は?」
いかにも危なそうだった男だがどうやら酔っ払っていたようだ。
そしてどこからともなく取り出した酒瓶を口にしてグビグビと呑みだした。
「酔っぱらいが駄目なんですかぁ。先生は酔っちゃらめなんですかぁ」
「先生?」
「ほら海渡も酒呑もうぜ」
「いや未成年だし」
「何だお前ぇ、矢田先生の酒が呑めないってのかぁ?」
「て、先生かよ!」
なんとどうやらこの屈強な男は彼らの担任だったようだ。
「知り合い多いなこのゲーム」
「ヒック、ゲームでお酒呑み放題最高ーーーーーー!」
◇◆◇
「……今何と?」
「はい魔王様。どうやら相手勢力の勇者は海渡という男なようです」
「……海渡」
情報を集めてくれた彼の話を聞き、魔王クロセは玉座の背もたれに体を預けた。
そしてニエクスの説明を思い出す。
『はい。闇の勢力の皆様は光の勢力の勇者を倒す必要があります。そうすることで光の塔の攻略が可能となるのです――』
それがクリアーの条件であった。そして黒瀬が密かに呟く。
「――これも宿命という奴か……」




