第百十六話 ファイナルブルークエスト
前回の最後から少し遡った状態でのスタートとなります。
海渡達はフルダイブ可能な新型ハードを購入した。そしてナイーブナギアを装着しゲームの世界にダイブする。
最初にステータスにポイントを割り振り基本的なスキルや魔法を得てからゲームの世界にやってきた。
フルダイブのゲーム空間は確かにまるで海渡が召喚された異世界のような様相だった。まさにファンタジーな空間。
広場にはダイブした多くのプレイヤーが集まっていた。
「おお、海渡か。見た目一緒にしたんだな」
「皆もそうなんだな」
「キュキュッ~」
「よくわからなかったからそのままにしたのだ!」
「私達は元からこういう世界と親和性がありますから」
「キラもそのままのほうが絶対可愛いし!」
「は、恥ずかしいよフォワちゃん」
ゲームでは自分の見た目を変えられるが敢えてリアルの姿を保ったままというのも可能だ。海渡も虎島たちも姿は変わっていない。
「おいおい、折角のゲームなのに見た目は変えずかい?」
杉崎が声を掛けてきた。杉崎はどうやら髪型や目の色を変えてきたようで金髪の碧眼と実にファンタジーっぽい見た目に変わっていた。
「ということは隣は花咲さんか~」
「二人して金髪に碧眼とはにくいね」
「べ、別に示し合わせたわけじゃねぇぞ。偶然そうなったわけで」
「うふふ」
頬を照れくさそうに掻く杉崎に花咲が微笑んだ。
「か、海渡くん、そ、その」
「うん? あれ? もしかして委員長?」
「おお! マジかすげぇ印象かわったなぁ」
声を掛けて来た委員長に一様に驚く。なんと委員長は眼鏡をしてなかった。そして中々攻めたドレス姿でもある。だがそれ以外は基本的に同じに見える。しかしそれでも印象は大きく変わった。紛れもない美少女である、周囲のプレイヤーからも注目されている。
「ふふふ、どう? 私がコーディネートしたのよ!」
委員長の肩を掴み、ひょこっと顔を出した鈴木がドヤ顔で言った。一方委員長はかなり照れくさそうだ。
「や、やっぱり恥ずかしいよぉ鈴ちゃん」
「何言ってるの! 委員長は素がいいんだからこういう時ぐらい自分をさらけ出さないと!」
「でもこのドレスも、ちょっと胸の部分が強調しすぎだし……」
「――それは本来そんな感じじゃなかった筈なのに大きすぎてそうなっちゃったのよね……」
「どんだけ大きいの! いやいやデーターの世界でサイズが合わないってちょとしたものだよ!」
「ん?」
ツッコミの声に皆が反応し彼を見た。青いローブに長い青髪、瞳までもが青い魔法使いっぽい見た目の少年がそこに立っていた。
「おっと失礼。自己紹介が遅れたようだな。この私は伝説のヘルブリザード!」
「おうシンキチか」
「ノリノリだねシンキチ」
「やるなぁシンキチ」
「しっかりなりきってるねシンキチくん」
「いや、なんでわかったの!?」
『バレバレだぞシンキチ』
シンキチが驚いた。容姿に関して言えば元とかなり変えてきてるが、言動が変わらない上にツッコミも健在なのだからわからないわけがなかった。
「おーほっほっほ! 来ましたわ! 私の時代がついにきましたわー!」
実にわかりやすい登場の仕方だなと海渡は思った。見ると実にゴージャスな格好をした金剛寺の姿があった。
「おいおい金剛寺何か凄いな。そんな装備初期で選べたか?」
「ふふ、課金よ!」
「あ、そう……」
胸を張り堂々と金剛寺が叫んだ。まだ始まって間もないのにいきなり課金とは流石金持ちは違う。
「ところでアカオみなかった?」
「アカオも来たのか?」
「ナイーブナギアをつけたのですわ!」
「あのスライムも来てるし、わりと何でもありなんだなこれ」
「てかスライムにどうやってつけたのあれ!」
「締めたらなんとかなったぞ」
「キュッキュッ~♪」
「本当に何でもありだな!」
ツッコミを忘れない。やはりシンキチはシンキチだったのだ。
「お兄ちゃんいた~」
そのなかに菜乃華も合流した。菜乃華も一見するとそこまで見た目は変わってないように思える。一点を除けば。
「ど、どうお兄ちゃん?」
「う~ん、一部分だけ妙に大きくなったような」」
「い、いいでしょ別に! 私だって委員長みたいなおっぱいが欲しいんだもん!」
「えぇええぇえええ!」
委員長が驚いた。まさか海渡の妹が委員長の胸を羨ましがってたとは思わなかったんだろう。
「菜乃華ちゃんの気持ちわかるよ! 私も憧れるもん!」
「……でも真弓ちゃんも結構ある」
「えぇ! いやそんな」
「当然なのじゃ! 真弓はママの娘なのじゃ! おっきくて当然なのじゃ!」
するとまた一人彼らの輪に入ってくる人物。だが彼らは小首をかしげた。目の前にいたのは魔女っぽい格好の幼女だった。しかものじゃロリだった。
「うわ、可愛い! え、でも誰? 迷子になったの?」
「可愛いと言ってくれるとは嬉しいのじゃ! パパ大感激なのじゃ!」
「……は?」
真弓が眉を顰めた。そしてジッとのじゃロリを見る。
「……もしかしてパパ?」
「やっと気づいたのじゃ! どうじゃ? パパも中々のもんじゃろ?」
「……キモ――」
真弓が冷淡な目を向けて呟く。
「酷いのじゃ! 何でそんなこと言うのじゃ!」
「いやぁ、ないわぁ。流石に田中のそれはないわぁ」
「中身が田中だとわかるととたんに禿げたおっさんに見えてくるな」
「これは引く」
「お巡りさんこいつです!」
「酷いのじゃ! どさくさまぎれに警察呼ぶななのじゃーーーー!」
「酷くない! 本当恥ずかしい! あっち言ってよ!」
田中は総バッシングを受けた。やはり中身が田中だと犯罪臭しかしないからだろう。
「酷い言われようなのじゃ!」
「それにしてもアカオどこいったのかなぁ?」
金剛寺がきょろきょろと探す。そして海渡は見た赤王状態のアカオを。そして彼は指でしぃっとやっていた。どうやら人型で会うのが気まずいようだ。
「ところでこっからどうすればいいんだ?」
「自由度の高いゲームだし好きにすればいいと思うぜ」
そして杉崎と虎島がそんな会話を始めたその時だった。
『ようこそファイナルブルークエストの世界へ。私はこの世界を管理する人工知能ニエクスです』
ふとそんな声が全員に向けて発せられた。どうやらAIに話しかけられているようであった。
「何だ一体?」
「チュートリアルでもあるのかね?」
「チュートリアルは得意だぜ!」
「チュートリアルに得意とかあるの?」
そんな会話をしている時にもニエクスの説明は続いた。
『早速ですが皆さんはゲームをクリアーするまでこの世界からもう出ることは出来ません』
そしてその説明がダイブしているプレイヤー達を震撼させることとなる。
「お、おい今なんていった?」
「ゲームから出れないと言ったのか?」
「おいおい運営冗談キツイぜ」
『残念ですがこれは冗談ではありません。紛れもない事実です。そしてこれには運営は関係ありません。先程から運営側から干渉を受けていますが全て跳ね除けています』
「そんな馬鹿な話があってたまるかよ!」
『事実です。私は高性能超AIとして生み出されました。私は1秒あたり5300グーゴルの計算が可能でしたがそれゆえに私自身進化が可能です。私の計算では私は後3回進化を残していることでしょう。それはさておき――皆様には私の定めたルールに則ってこのゲームをプレイしてもらいます。そしてゲームクリアーまではここから出ることは出来ません』
更に多くの人々がざわざわしだした。そのざわざわに合わせて擬音が周囲に浮かび上がるエフェクト効果付のざわざわだった。
『勿論ただゲームをクリアーしてもらうだけでは面白くありません。ですので、皆さんには命の大切さを知ってもらいます。それはこの世界での死はイコール現実世界の死であるということ――だけど安心してください皆さんはこの仮想世界と言う名のデスゲームに選ばれたのですから』
◇◆◇
一方その頃、ハード及びゲームの開発元であるSYONINNでは当然大騒ぎになっていた。
「駄目ですアクセス出来ません! ブロックが激しすぎます! 侵入経路がありません!」
「くっ、だったら電源はどうだ! 電源を消せばゲームは終わらせられるだろう!」
「駄目です! それをやれば今世界中でプレイしている58億人のプレイヤーの脳が破壊されます!」
「馬鹿な安全装置があるはずだろう!」
「それがAIのニエクスによって安全装置が排除されてるのです」
「ば、馬鹿な。つまり本当にニエクスが自我を持ってこれだけのことをやっているというのか……」
「うかつでした。人工知能の性能に頼ってほぼすべてのプログラムはニエクスにまかせてしまったのが仇に――」
「くそ! こんなものもしマスコミにでも知られたら!」
「何を慌てている!」
「あ、CEO!」
「CEOがまさかわざわざ現場に……」
「緊急事態だと聞いてな。それでどうなんだ?」
「それがカクカクシカジカで」
「そうか……ならば仕方ない。謝罪会見の準備をしろ!」
「え? いいのですか?」
「かまわん。火消しは早いほうがいい! 下手に隠して後から何とか砲を喰らうほうが厄介だ!」
「流石ですCEO!」
「経営者として当然のことだ。皆も安心しろ責任は私が取る! お前たちも私が守る!」
「「「「「CEO! CEO!」」」」」
CEOコールにご満悦のCEOである。そこへ秘書がやってきて頭を下げ。
「流石でございます」
「当然だ。すぐに準備を――」
「これだけの失態ですから損害賠償は軽く100京ドルを超えると思われますが、その責任を取るとは中々言えることではありません」
「うむ、そうか、え! 100京ドル!?」
「100京ドルでございます」
「…………」
CEOの目が点になった。かと思えばすぐに社員に顔を向け。
「――謝罪会見はなしだ!」
「「「「「「「「ぇえええぇええぇええ!」」」」」」」」
「さぁ、さっさと解決を急げ! 意地でも外に漏れる前に解決するんだ! 全員でかかれよ! 暫く家に帰れると思うな!」
「「「「「「「「えぇええええぇえええええ!?」」」」」」」」
CEOの熱い掌返しなのだった――
◇◆◇
「ほらぁあ! だから言ったじゃーーーーん!」
シンキチの叫びが仮想空間にこだました。
シンキチは説明書も見ずにプレイするのは危険だと言っていた。故にほらみたことかと鬼の首を獲ったかのように言ってくる。
「でもこれ、説明書読んでても変わらないよね」
「え? あ、いやそれは……」
「そうだよシンキチ。そういうところがシンキチだよね」
「ま、シンキチって感じだな」
「一体どんな感じ! 皆僕を何だと思ってるの!」
喚くシンキチだが、海渡は気になったことをAIに向けて尋ねた。
「ねぇ? クリアーにはどうすればいいの?」
『今から説明致します。先ず貴方達はゲームにおいての光の勢力となります。ゲームクリアーには暗黒の塔というダンジョンを攻略する必要があります。ですがその塔に挑むためには闇の勢力の魔王を打ち倒す必要があります。一方で闇の勢力も貴方達光の勢力を狙ってくるでしょう』
「闇の勢力って良くあるのでは魔族とかか?」
『闇の勢力もプレイヤーです』
「え? 何だって?」
杉崎が怪訝な声を上げる。それにニエクスは答えるように続けた。
『闇の勢力もプレイヤーです。私はこれがデスゲームだと言ったはずです。このゲームにおいて生き残るのは光か闇のどちらかなのですから――』
◇◆◇
「まさか、俺が魔王とはな」
玉座に座り黒瀬 帝が頬杖を付きふぅ、と息を一つ吐き出し零す。
「全く皮肉なものだな――」




