第百十五話 新ゲーム
おまたせしました!
「いやぁ楽しみだなぁ。本当この日をどれだけ待ちわびたか!」
列に並んでいる杉崎はとても興奮していた。その様子にすぐ後ろに並んでいる花咲がくすくすと笑う。
「もう発表された時からずっと言ってたもんね」
「それにしてもたまげたよなぁ。まさかフルダイブのゲームが出来る日がくるなんて」
「キュッキュッ~♪」
虎島が腕を組みむむぅと唸る。頭の上ではスライムのミラクが弾んでいた。
そう今日は話題の新型ゲーム機プレイステージ(通称PS)FD(フルダイブの略)の発売日であり、彼らもその購入のために並んでいたのだ。
「でも、わざわざ並ばなくても予約でよかったんじゃない?」
「甘いな海渡。こういう時に敢えて並ぶのも醍醐味って奴なのさ」
杉崎がチッチッ、と指を振って答えた。そういうものか、と海渡も開店を待つ。
「お~ほっほ! この金剛寺にかかれば行列ぐらいどうってことないですわ!」
すぐ近くでは金剛寺が紅茶を飲みながら並んでた。側にはアカオもいる。当然だが周囲から自然と人が遠ざかる、かと思えば小さな子がアカオを撫でてからは様相が一変し写真を撮られたり子どもの遊び相手になったりと中々の人気だ。
「ついに僕の時代がキターーー! このミスティックゲームマスター鳳凰院 凍牙にかかれば!」
『前があいたぞシンキチ』
「いや、僕は鳳凰院!」
「前に進もうよシンキチ」
右手のダマルクと後ろから真弓にせかされ釈然としない顔をしたまま前に進むシンキチである。
「いやぁ、パパ真弓とゲームが出来るの楽しみだなぁ」
「いや、一緒にやるとはいってないよね?」
「ええぇええぇええ! そのためになけなしの給料叩いて買おうとしてるんだよ二台!」
真弓の横には田中もいた。どうやら一緒にダイブしたいと思ってるようだ。真弓は塩対応だがなんだかんだよく一緒にいるので仲は良さそうだ。
「お兄ちゃん! し、仕方ないから私が一緒にプレイしてあげるわ」
海渡の妹も一緒に並んでいた。今回海渡がPSFDを買いに来たのも菜乃華が欲しがったからというのも大きいのだ。
「うふふ、勇者様は勿論私とやりますよね!」
「う~ん、そもそも女神ってゲームやるの?」
「日本のゲームは大好物よ!」
「そうだったんだ」
ちなみに女神サマヨも買いに来ていた。聞くところによるとファミリーなこんぴゅーたー的なゲームが流行ってたころからテレビゲームにハマっていたらしい。
「あのね委員長! このフルダイブのハードは老舗メーカーのSYONINNが第八世代のPSから計画していたものなのよ。それから延期に次ぐ延期でいよいよこの第二十四世代で実装されたの! 凄いよね凄いよね!」
「う、うん。そうだね」
鈴木と委員長も来ていた。委員長は若干鈴木に気後れしている。
「凄い熱量ですね」
「キラ! 一緒にパーティーを組もうね!」
「私達はゲームでも一緒ですもの」
「例えゲームでも主は私が守る!」
虎島の幼馴染である景と異世界からの留学生である三人も一緒だった。景は虎島に誘われて購入を決めたが、それを聞いた三人も購入を決めたというわけである。
「な、なぁ俺と一緒にやってくれるよな?」
「あんたは荷物係としてならいいわ!」
「いや! 俺は景に聞いてるんだよ!」
「キラちゃんは私達とやるのはもう決まってるのでぇ~」
「ぐぬぬぅ!」
「虎島も変わらず大変そうだな……」
杉崎が同情的な目を向けた。
さて、そんなこんなで色々騒がしくもあったが開店後は皆無事に新ハードであるプレイステージフルダイブそうPSFDを手に入れることが出来た。
「折角だからうちで皆でやりませんこと?」
「金剛寺の家で?」
「いいの?」
「うちは広いですから問題ありませんわ~」
というわけで折角だからと金剛寺の屋敷に皆で向かうことになった。
以前来たことはあるがやはりかなり大きな屋敷である。
「相変わらず大きな屋敷だなおい」
「そうだな。向こうの小さな城ぐらいはある」
「そうだね、あっちの男爵の城ぐらいだね」
「なんだ、勇者的にはそんなもんなんだな」
「何か凄く小馬鹿にされた気がしますわ」
海渡と虎島は異世界基準でみてしまった。だが現代基準で言えば十分大きな屋敷である。例えばシンキチの家と比べれば北海道と竪穴式住居ぐらいの違いがあるのだ。
「何で竪穴式住居!? そもそも北海道とって比較対象絶対おかしいだろう! 大体僕の家わりとちゃんとした一軒家だからね! そこそこの家だとは思うからな! なのに竪穴式住居って!」
『シンキチうるさい』
シンキチのツッコミは健在であった。
「これがフルダイブ用の装置なんだね」
「この輪っかを頭にはめればいいんだな?」
金剛寺の屋敷でそれぞれが箱からハードを取り出した。新しいハードはフルダイブだけにモニターを必要としない。付属してあるナイーブナギアというのを装着して電源を入れてなんやかんやで仮想空間にダイブできるのだ。
「大事なとこをなんやかんやでごまかした! そこちゃんとしようぜ!」
……そこを詳しく話したらプレイするのが怖くなると思われるがいいのだろうか?
「一体何があるんだよ! 逆に怖いよ! なんだよなんなんだよ!」
『シンキチ――』
不安そうに突っ込むシンキチにダマルクが声をかける。
『世の中には、知らないほうがいいこともあるんだぜ?』
「だからこえーよ! ねぇ大丈夫? 本当これ大丈夫?」
一気に不安になるシンキチであったが。
「早速やろうぜ」
「説明書みなくてもいいの?」
「こういうのはやって覚えるもんだからね」
「いやいや! 今の聞いてた! ぶっつけ本番って大丈夫本当に!?」
しかし彼らは特に気にすることなく説明書はさらっとでナイーブナギアを頭にはめた。
「早速入ろうぜ。このファイナルブルークエストオンラインの世界へ!」
ちなみにファイナルブルークエスト略称ファイブルは長年続く大人気のシリーズ作品でこれは通算四四四作目の新作となる。
「多いな! そして微妙に不吉だな!」
「よっしゃ早速ファイブルするか」
「ねぇ本当に大丈夫? 何か略称すらちょっとヤバそうな気がしてきたんだけど」
「もうシンキチは心配し過ぎだってば。さ、一緒にいこうお兄ちゃん」
「あら勇者様は私といくんです!」
「わ、私と一緒に、い、いって、う、うぅ」
「もう、ほらいいから皆で一緒にいくよもう」
「お~ほっほ、もういきまくりですわー」
というわけで全員で仮想空間にダイブしたわけだが。
『ようこそファイナルブルークエストの世界へ。私はこの世界を管理する人工知能ニエクスです。早速ですが皆さんはゲームをクリアーするまでこの世界からもう出ることは出来ません。そしてこの世界での死はイコール現実世界の死――だけど安心してください皆さんはこの仮想世界と言う名のデスゲームに選ばれたのですから』
「ほらぁあ! だから言ったじゃーーーーん!」
シンキチの叫びが仮想空間にこだましたのだった。




