第百十二話 トレカ
新章開始です。
「あ、そうだ。忘れてたけど修学旅行、あれな。来月に行くことになったから宜しく」
その日のホームルームで教師の矢田が伝えてきた。サバイバルロストのおかげで延期になっていた修学旅行だがどうやらようやく再開の目処が立ったようだ。
「来月か~」
「た、楽しみだね海渡くん!」
「うん。そうだね」
委員長に言われ海渡もにこやかに返答した。思えば異世界にいた時も修学旅行にいけなかったのが心残りだったのもある。それがようやく実現するのだ。全て来月――今度こそ無事に修学旅行を終えられればと、そう考える海渡である――
◇◆◇
「な、何これ! 一体どうなってるの!?」
鈴木が驚きの声を上げた。日曜日の午前中のことだった。家にいた鈴木の元に一つの小包が届いた。差出人は不明。
かなり怪しく、何かの詐欺か? と警戒したが何か予感めいたものを感じ、鈴木は小包を開けてみた。
中には小さなケースが入っていた。トランプよりは一回り程小さなカードが収まる程度のケースだった。
説明書のようなものが入っていて、そこにはようこそ『マジックドール』の世界へと記されていた。
「何よこれ?」
説明書を見るにどうやらカードゲームのようだ。いわゆるトレーディングカードゲームというものだろう。
鈴木は実はトレカは割と好きであり最近はオンラインでもプレイできるので暇を見ては楽しんでいた。
ただそんな鈴木でもこのゲームについては知らなかった。しかも鈴木は注文した覚えもない。そんなものが何故届いたのか?
全く意味がわからなかったがしかし、やはり元々好きだけに中身が気になってしまう。
「……ちょっと見て見るぐらいいいよね?」
そう思い、箱から中身を取り出す。何枚かのカードがセットになっていた。スターターパックというものだろうか? と小首をかしげる。中には三十六枚のカードが入っていた。
ルールを確認しながら見てみるが――
「鈴ちゃん!」
ふと、委員長の声が届く。え? とキョロキョロを部屋を見回すが委員長はいない。そもそも委員長が遊びに来ているという事実もない。
それなのにどこからともなく委員長の声が聞こえてくる。
「鈴ちゃん! ここだよ!」
「え?」
鈴木が怪訝な顔でカードを見た。まさか? と思いカードの束を床に広げていく。そこに、あったのだ。委員長のカードが。
「ど、どうして委員長がここに!」
「わ、私もいるんですぅ~」
「へ? な、なんで先生がここに!」
更に鈴木はびっくりした。なぜなら委員長も女神 サマヨ先生もカード化してしまっていたのだ。
「ちょっと意味がわからないんだけど!」
「くっ、不覚! 何故私が!」
「あぁ、でも委員長と一緒にカードになれたなら幸せかも……」
「て! 貴方確か委員長と最近友達になった光? そして美狩までなの!?」
更に驚く。これで全部で四枚ものカードが知り合いであり。
「うぉ~真弓~パパはここだよぉ~!」
「……うわぁ~――」
しかも何故か知らないが田中のカードまであった。これには鈴木もドン引きであった。
「でも、何で皆がカードに?」
「それが、私にもよくわからなくて……」
「うぅ、女神、一緒の不覚ですぅ」
委員長は自分の身に何が起きたかイマイチ理解出来てないようだった。気がつけばカードになっていたようであり、それは女神サマヨにしても、美狩や光にしても一緒だった。
「私の知り合いが四人もカードになるなんてただごとじゃないわね」
「私もいるよ! 忘れないで! 田中を忘れないで!」
しかし鈴木は華麗にスルーした。その時だった――突如景色が変わり鈴木は異空間のような場所に立たされていた。正面には台が置かれている。
「どうなってるのこれ?」
「やぁ、君が今回選ばれたチャレンジャーだね?」
「え!?」
鈴木が驚いた。なぜなら台を挟んだ向こう側に見たこともない銀髪の少年が一人立っていたからだ。
「い、いつの間に? というかここは何処? 貴方が私をこんなところに?」
「そうさ。僕はカードマスターのカドダス。君が持っているマジックドールの製作者さ」
「は? このトレカの?」
「そうだよ?」
カドダスがニコニコとした笑みを浮かべつつ答えた。屈託のない少年のように思えるが、同時になんとも言えない不気味さも感じられた。
「だったら教えて! 私の友達や学校の先生がカードになっていたの! これはどういうこと?」
「簡単なことさ。みんな僕とのカード対決に敗れた。だからカードになってもらったんだよ。これはそういうゲーム。いうなればトレカを利用したデスゲームってわけさ」
「と、トレカのデスゲーム?」
鈴木が目をパチクリさせる。するとカドダスがふふっと笑みを深めた。
「ちょ、待って! それじゃあカードになった四人は死んだってこと?」
「だから五人だって!」
田中は叫ぶが無視された。
「う~ん、少し違うかな? このゲームはね。カード化した相手の知り合いにカードが送られて、そう君の家に届いたみたいにね。そういう感じで続けて行くんだけど、一応五人まではチャンスが与えられるんだ」
「なにそのわけのわからない理不尽なチェーンメール……」
鈴木が目を細める。だが、悪びれる様子もなくカドダスがフフッと笑った。
「……つまり、私が六人目ってこと?」
「そうそう。で、ここからが大事なんだけど君が僕に負けた時点でその五人は全員完全なカードとなる。そうなったらもう元に戻ることは不可能。一生カードとして暮らしてもらう。これはそういうゲームなんだ。理解できた?」
右手を掲げカドダスが説明を終わらせ確認する。
「そんなの理解出来るわけないじゃない! 皆をもとに戻してよ!」
だが鈴木は納得しなかった。当然だろう。突如こんなわけのわからないゲームに巻き込まれてはいそうですかとはいかない。
「それは無理かな。どうしてもというならこのゲームで僕に勝つことだね。でも、悲観することはないよ。なぜならこれは君たちにとってとっても有利に働いているからさ。だってこれ誰か一人でも勝ったらまだカード化されてない子達は全員助かるんだからね。ね? とっても君たちに有利でしょ? だから早く準備しなよ仲間を助けたかったらね」
しかし、鈴木の抗議も聞き届ける事なく、カドダスは自分勝手なルールで鈴木をデスゲームに巻き込むのだった――




