第百十話 番外編③
一人の男がパソコンに向けてアドレスを打ち込んでいく。すると画面がパッと変化し怨嗟の門と書かれたページに辿り着いた。
門には名前を書き込めるスペースが存在する。
「ほ、本当に出てきた――」
男はそのスペースに名前を書き込んだ。瞬間、場面が変化し男の瞳が大きく広がった。
目の前には真っ黒のローブととんがりボウシを被った少女の姿。彼女は表紙に魔法陣の描かれた本を読んでいたがパタンっと本を閉じ、男を見やる。
「貴方、恨みを晴らしたいの?」
「あ、あぁ。でも驚きだ。あんたが漆黒の魔女なのか?」
男が尋ねると、ふふっと微笑を浮かべ、少女が一本の鍵を取り出した。
「これは?」
「冥府の門の鍵。貴方が本当に恨みを晴らしたいならこの鍵を使って捻れば門が開き、恨んだ相手が冥府に落とされるわ」
「ほ、本当か!」
「えぇ。だけどよく考えることね。この鍵を使った瞬間、貴方は今生の運を全て使い果たす。死ぬ時も人並みの死は期待できないわ。それでもいいのならこの鍵を使うといいわ。それじゃあね」
そして気がつくと男は自分の部屋に戻ってきていた。それから再びあのページに行こうとしたが、いくらやってもエラーが出てきてページが表示されることはなかった。
男は悩んだ。だがそれでも考えれば考えるほどどうしても許すことは出来なかった。
そして男は鍵を取り出し門のロックを外すように鍵を回した。
「へへ、まいったな」
「ふふ、あなたかっこいいわね。ねぇキスして?」
男の前に扇状的なドレスを着た女が寄り添っていた。胸元のぱっくり開いたドレスであり男の鼻の下は伸び切っていた。
「そ、それじゃあ……」
「ん――」
男が女と口づけを交わす。とても情熱なキスであった。男の興奮度も上がり、その柔らかい体を抱き寄せるが、その時違和感を覚えた。
男が目を開くと、そこにいたのは白骨化した女だった。
「ひ、ひぃいいいぃいい!」
男が女を突き飛ばす。するとカタカタを骨を鳴らしながら女が立ち上がった。
「あらあら酷いわね」
「な、なな、なんだよこれ!」
「おいおい、俺の好きな女に手を出しておいて突き飛ばすとは酷いじゃねぇか」
「は?」
男が振り返るとそこにもまた骨太の骸骨が立っていた。
「ひ、ひいぃぃいいい! た、助けて! だ、誰かぁああ!」
「どうかしましたか!」
警官が駆け寄ってきた。助かったと男は中腰のまま足をもつれさせながらもなんとか警官に駆け寄る。
「ば、化物が骨の化物がそこに!」
「骨の化物! それは大変だ。それでその骨の化物というのは、こんな顔でしたかな?」
「へ? ひ、ひええええぇええええ!」
顔を見上げた男が見たのは警官姿の骸骨だった。弾かれたように後退りし、尻餅をつく。
「あらあら情けない」
「全く、こんな弱っちいくせに良く女なんて横取りしたな」
骨の男女が近づき、男に言葉を投げかける。
男はわけがわからないといった様子だ。
「な、何だよ横取りって!」
「お前が今付き合っている女だよ。他にもその子が好きな男がいたのにお前が横取りした」
「はぁああ! 何だよそれ! そんなの関係ないだろう! 大体今付き合ってるって……ま、まさかあいつか! 由美が嫌がってるのにしつこくつきまとっていたストーカー男!」
「酷い言い方ね」
「ついつい執着したくなるぐらい好きだってことじゃないか」
「健気じゃないか。そんな男の気持ちをお前は踏みにじった。復讐されても文句は言えないね」
「復讐? 馬鹿な、な、何を――」
「怨嗟に気づかぬ愚かな子羊よ」
その時、頭上から声が落ちてきた。男が見上げると全身が黒に包まれた魔女の姿。
「妬み嫉み恨み――黒き感情に恨みが募る。咲かせましょう漆黒の闇を、開きましょう門を」
「ふ、ふざけるな! 何なんだこれは! 一体何を――」
その時、男の背後に巨大な門が出現した。見ているだけで不安になる禍々しい造形の門であった。
「深淵を覗く時深淵もまたこちらを覗く、さぁ開きましょう冥府の門。落としましょう哀れな子羊を、苦しみなさい。その罪を胸に抱いて――」
「ま、まて、止めてくれ! やめろォおおッ!」
扉が開き、中から不気味な声と亡者の腕が伸びてきた。男を捕まえ嫌がる男は無理やり門へと引きずり込まれていった――
「ふふ、これでまた魂が一つ――」
◇◆◇
「昨日、魔法少女になってた?」
「えっと、魔法少女というのかな?」
「ねぇねぇ、魔法少女ってなに~?」
昼休み、海渡は学校で委員長や鈴木とそんな話をしていた。ちなみに委員長は和の料理人といった出で立ちで大食い大会荒らしの怪人を倒したりしていた。もっとも委員長はそんなに食べたいなら私の料理を代わりに! と差し出したつもりだったのだが、結局それで怪人は倒されたわけだ。
さて、そんな三人の会話をジッと見ている男がいた――望遠鏡で。
高いビルの屋上からじっと見ていて歯噛みしていたのだ。
「くそ! あの野郎! 委員長とイチャイチャと!」
男が下唇を噛む。彼の名は底高。そうかつて皇帝の遊戯で皇帝となり委員長に手を出そうとしていた教師だった。彼はその後、懲戒免職を受け更にネットやセンテンス的なスプリングなあれにも取り上げられたりで社会的な制裁もうけたりした。
おかげで今はマスクやサングラスで顔を隠して出歩く生活を続けている。もっとも世間はとっくにこの教師のことなど忘れていたが。
「本当なら私が委員長の心をあれやこれやで鷲掴みにする予定だったというのに、絶対に許せん見ておけよ!」
そして悔しさを胸に一旦は自宅に帰る底高であり、そして夜中、自宅のパソコンからとあるアドレスを打ち込んだ。
すると画面に怨嗟の門と描かれたページが現れた。不気味な門が浮かび上がり、門には名前を書き込めるスペース。
「はは、噂通りだ! さぁ書き込むぞ! 伊勢 海渡と!」
そして記入した直後場面が変化し、そこには本を読む一人の少女。
「来たのね。貴方も何か恨みが……」
「あるぞ! めちゃめちゃあるぞ! さぁ晴らせ! 俺の恨みを今すぐ晴らせ!」
「えぇ~……」
全てを語る前から前のめりになり詰め寄る底高の姿に若干引き気味の魔女であった――




