第百九話 ホワイトの解雇?
ヘラの声にホワイトは完全にビビってしまっていた。魔法王国も大神界からの徹底調査が入るようなので国としての在り方も今後問われることだろう。
さて、そんな中、目の前のホワイトをどうするかという話だが。
「お願いしますお願いします!」
ホワイトはペコペコとひたすら頭を下げていた。
「何でもしますから! 何でもしますから!」
更にカイコの足にすがりつき、靴もなめますからともはや恥も外聞もない有様だ。いつのまにか関西弁もなくなってる。
「あのさ」
カイコはヒョイッとホワイトの首をつまみ持ち上げた。媚びるように愛らしいポーズをとる姿がかえって見苦しい。
「これまでも魔法少女に似たようなことやらせてたんだろ?」
「え? ど、どうだったかな?」
「真実を話して」
「あぁそうさ! 魔法少女に夢見る馬鹿な女を騙して借金漬けにして色々遊んでやったさ! デスゲームは魔王少女生みたいときだけだがな! それ以外は魔法王国の貴族共の奴隷にしたりして責任をとらせたのさ! 勿論全て魔法王国の利益のためにな! 俺も色々とおこぼれに与れて最高だったぜ、あ!」
両手で口を押さえるも手遅れだった。ホワイトの本音に周囲の魔法少女の冷たい視線が注がれた。
「塵ねッ! 死ねッ!」
「糞だな尻からヘラクレスつっこみてぇ」
『ヘラクレスさん逃げて!』
魔法少女ムネナシとゴウリキの当たりも非常に強いのだ。そして何故かヘラクレスが巻き添えだ。
「ま、待って! 改心しますから! どうか命だけは!」
カイコが睨むとホワイトが命乞いをしてきた。実に見苦しいと思うカイコだが。
「一応、お前の処分は俺の好きにしていいとは言われてるんだよね」
「でしたらどうか御慈悲を!」
「あ、あのカイコちゃん。その、これだけ謝ってるんだし命までは……」
「委員長は優しいけど甘いよ。こいつはそれだけのことをした」
平謝りを続けるその姿に委員長は同情したようだ。もっとも積極的に命を奪うタイプでもないが。
だがそれに異を唱えたのは光だった。これまでのことを思うととても許してはおけないのだろう。
「うるさいお前は黙れ! いやぁ委員長はよくわかってらっしゃる。やはりおっぱいの大きい子は心も広い」
「えぇ……」
だが調子に乗ったホワイトの発言には委員長も引き気味である。
「本当往生際が悪いですわね。勇者様、ここはズバッと!」
「う~んそうだね。でも、ま、命までは奪わないよ」
「おお! 本当ですか! いやぁ流石勇者様の魔法少女様だ!」
「うん、だから、お前をこの世界から解雇しちゃうぞ♪」
「は?」
◇◆◇
「へ? ここは?」
気がつくとホワイトは満員電車に揺られていた。異常なほど窮屈であり、車内も汗臭い。
「く、くるしい」
「おい! テメェ何、足を踏んでるんだ!」
「は? 僕が何をしたってんだ!」
「何が僕だ! キモいんだよ!」
「ゲホッ!」
因縁をつけられたホワイトは思いっきり殴られふらつく、その拍子に女の子の胸を掴んでしまった。
「きゃぁああぁあ! 痴漢!」
「ち、ちが、いや、へへっ、失敗失敗キュルン♪
」
ホワイトはいつものノリで擬音付きでごまかそうとした。だが。
「ぎゃああああぁああ! キモい! 何こいつキモいキモいきもーーーい!」
「痴漢の癖にふてぇやろうだ!」
「死ね! 百回しね!」
「ぎゃあぁああぁあ!」
そしてホワイトは乗客にボコボコにされ痴漢扱いされ、何故か謝罪文と慰謝料まで要求され、解放されたかと思えば自分の意志とは関係なく会社に足が向いてしまった。
「遅刻とか何考えてるの? 君会社なめてるの?」
「いえ、そういうわけじゃ……」
会社につくなりホワイトは上司に嫌味を言われつづけた。解放されたと思えばあっちこっちから仕事を押し付けられ、女子社員からは陰口をたたかれ上司からはパワハラを受ける。
しかも可愛さのアピールも出来ない。その理由はすぐにわかった。以前と容姿がまるで異なっていた。あまりに醜いひどい顔だった。髪の毛もない。
しかもその会社非情なブラック企業だった。サービス残業など当たり前。1日48時間勤務が当たり前の超絶スーパーブラックな環境だった。
結局ホワイトはフラフラになり帰路につく。だが、疲れで足がもつれホームに転落、電車に引かれて死んでしまった。
「あぁ、死んでしまった。でも、あんな状態で生きるぐらいなら……」
解放されるそう思ったのもつかの間だった。
「おい! なにぼーっとしてやがる! さっさと掘れ! ムチで叩かれるぞ!」
「へ?」
「オマエ! ナイサボッテルカ! サッサトハタラク! ハタラカナイ! 鞭打ツ! 飯ヌク!」
気がついた時、ホワイトは一人の鉱夫だった。そしてそこは死ぬほどキツイブラックな鉱山だった。片言の上司に無理矢理鞭で打たれ、最悪の環境と装備で穴を掘り、鉱石を運び続ける過酷な現場。ここでもやはり平気で1日128時間勤務が当たり前だったのだ。
勿論それも間もなくして病気にかかり苦しみのたうち回った挙げ句死亡。だがその後もホワイトは生き返りその度に超絶ブラックな職場に派遣されつづけ――
「も、もう嫌だァァああ! せめてもう殺してくれぇええぇええ!」
そんな絶叫がこだまする。だがホワイトが真の意味で死ぬことはない。生き返っては永遠とブラックな職場を渡り歩く、それがホワイトの運命なのだから――
◇◆◇
「結局ホワイトはどうなったの?」
「今頃ブラックな企業に永久就職して喜んでるころだと思うよ」
「勇者様、それ死よりキツイ気がします」
「解雇しちゃうぞ!」
『マジこえーーーーよ!』
だて、これで魔法少女の話も終わり、と思えたのだが。
「じ、実は私にも叶えたい願いがあったんだ!」
なんと光が突然のカミングアウト。それに皆が驚く。
「でも、光ちゃん私を助けてくれたよね?」
「う、うん。そもそも私の願いはホワイトに頼むつもりもなくて、願掛けと言うか、無事このゲームを委員長と乗り切れたら叶えようと思ってたんだ!」
「つまり自力でってことかな?」
光がコクコクと頷く、そして――
「えっと、でもどうして私?」
首をかしげる委員長。すると光が委員長に真剣な顔を向けて、彼女に告げた。
「ひ、一目惚れでした! 私と付き合ってください!」
「えぇえええぇええぇええ!」
なんと光が委員長に告白したのだ! これには委員長も驚きである。
「はぁ、尊い。やっぱ女の子はいいわ……」
「ユリ、女が怖くなったんじゃなかったのか?」
「それは女だけの世界だからって気がついたの。今後は純粋にこの世界で私は女の子とイチャラブするわ!」
「そ、そうか……」
苦笑するゴウリキであったが、さて、委員長の答えはと言うと。
「ご、ごめんなさい!」
「お~っとこれはごめんなさいだーーーー!」
委員長が頭を下げ、カイコが声を上げた。それに女神様が目を細める。
「勇者様、ちょっと空気が読めてないような」
「え? どうして?」
カイコは本気でわかってないのだった。
「そ、そうだよね。うん、でもいいんだ。それでも自分の気持ちが言えただけでも満足だから。それじゃあ、さようなら委員長」
「え、ま、待って待って! その付き合うのは難しいけど、友だち、じゃ、だめかな?」
「え? い、いいの? こんな告白した私と友だちでいてくれるの?」
「それは、勿論だよ!」
「い、委員長、ありがとう! 先ずは友だちからってことだね!」
「え。え~と……」
返答に困る委員長ではあるが、とにかく友だちということで落ち着いたのだった。
「さて、これで解決ってことだね」
「あ、待って、その、一つ気になったんだけど勇者様って?」
委員長が小首をかしげる。そう、女神がきてからずっと勇者様と呼ばれていた。さすがの委員長も気になったのだろう。
「あ、うん。実は俺、この女神様にお願いされて勇者やってたことあるんだ」
「へ? そ、そうなの?」
「うん」
「ちょ、ちょっとまって勇者様! そんなあっさり!」
「えぇ、でも委員長の魔法少女の力は残るんでしょう? アテナ様が迷惑掛けたから特別にそれでいいって言っていたし」
「お、お姉ちゃんってば……」
「え? じゃあ私の力って、このまま?」
「俺達もか!」
「そうだよ」
「マジかよ!」
というわけで、地球に魔法少女が増えることとなる。なお、そもそも青森の魔法少女など、地球にはもともと魔法少女がいたのでそんなに問題にはならないというのがアテナの考えだったという。
「うん、これでめでたしめでたし」
「それで、あの、勇者様はいつまで魔法少女でいるのですか?」
「あ。そうだった。う~ん、ま、いっか」
『いやいや良くないだろう! 話が変わっちゃうからーーーー!』
魔法少女編の本編はこれにて終わり!
あと合間に話を挟んで次章に進みます!




