第百八話 困った時の女神様?
「え? 契約書はともかく、そのルールブックも全て見たのか?」
「見たよ」
「り、理解できたのカイコちゃん?」
「大方ね」
「信じられない。私なんて三行読んで頭痛くなったのに……」
「いや、そこはもう少し頑張りましょうよ……」
いつの間にか話に加わっていたユリがムネナシにツッコんだ。どうやら何とか立ち直ったようだ。
「デタラメ言うな! そんなややこしいの読めるわけないだろう! 例え読めても理解できるわけない!」
「つまり、お前は読めるわけも理解出来るわけもないもので借金を負わせたってこと?」
「え? あ、いや、それは、せ、専門家がみればちゃんと理解できるってことだよ!」
「専門家が見ないと理解できないようなもので契約させようとするなよ。まぁ百歩譲ってその主張が認められるとしても、中身は誤字脱字も酷いわ矛盾だらけだわ、支離滅裂で酷いけどね」
カイコが自身に満ちた顔ではっきりと断言する。それにホワイトはぐぎぎと歯噛みし。
「大体そんな分厚いのをこんな早く読めるわけないんだよ!」
「私の父方の祖母の叔父の孫の住んでるマンションの管理組合のカツラの桂さんの奥さんが速読と記憶術のプロだったから」
「だから何だよ! お前と関係ないだろう!」
確かに一見関係なさそうだが、 何故か海渡はそういった知り合いから特技を伝授してもらうことが往々にしてあったのである。
「とにかくそのルールブックは魔法王国で決めたものだ! 女王様が作成した由緒あるものだ! どこの馬の骨ともわからない魔法少女に文句をつけられる筋合いじゃない!」
「やれやれ、じゃあそれなりの権力を持ってる人ならいいんだね?」
カイコの言い分をホワイトは認めようとしなかった。だからカイコは権力には権力で対抗しようと考えたのだが。
「ふん、魔法王国以上の権力を持ったものなんているもんか」
「というわけでいいかな女神様?」
「んもう。勇者様ったら結局私がいないと駄目なのね。仕方ないんだから♪」
「誰だお前ーーーーーー!」
「女神だよ」
勇者の隣には女神サマヨがいた。勇者が召喚したのだ。
『女神ってそんな簡単に召喚していいの!?』
「まぁ暇そうだったし」
「暇そうだったんだ……」
光が目を細めた。女神がそれでいいのかという気もしないでもない。
「え? 何で女神先生がここに?」
一方委員長は少し戸惑っていた。委員長は女神サマヨが実は本当の女神であることもしらない。
「きゃーーーー! えぇ! てか何々! 何で勇者様、女の子になってるのキャーーーー! 可愛い! 胸も大きい! キャーーーー!」
女神様は海渡の今の姿を見て黄色い悲鳴を上げた。凄く興味津々な目を向けてきている。
「今は魔法少女カイコなんだ。解雇しちゃうぞ♪」
「ヒッ! それは洒落にならないんです勇者様! 解雇されてもおかしくないって忠告されてるし!」
「女神も大変だなぁ」
どうやら神界も女神になれたから安泰ってわけではないようだ。
それはそれとして、カイコは女神様へと本題を切り出した。
「女神様。委員長がこんな契約書を交わして魔法少女になったんだ。あとこれがそれでセットになってたルールブック」
「どれどれ?」
カイコに書類を手渡された後、女神はメガネを取り出しスチャッと掛けた後、パラパラと捲りだす。
「女神様、目が悪かったの?」
これまで眼鏡は掛けてなかったと思うが、少し気になったのでカイコが尋ねる。すると眼鏡をクイクイっと押し上げながら女神様が答えた。
「ふふん、そんなことはないわ。私は両目とも視力3億光年だし」
『なんだかわけのわかんない数値キタコレ!』
「ならなんで眼鏡を?」
「眼鏡をしてると知的に見えるかなって。勇者様、その、どう思うかな?」
女神は照れくさそうにしてカイコに問いかけた。ふむ、と女神の姿を見て。
「女神様は黙ってさえいれば眼鏡を掛けてなくても知的に見えるんだけどね」
「いやだ勇者様ってばそんなに褒めないで~」
『いやいや! 決して褒められていないからね! 口を開いたら残念だって言われてるようなものだからね! 残念女神ってことだからね!』
適格なツッコミにも思えるが女神様には聞こえていなかった。
「さて、確認させてもらいましたが、端的に言ってメチャクチャです。法的根拠も何もあったものじゃないですね。こんなの無効よ無効!」
女神が手を左右に振りしかめっ面で答えた。どうやら女神からみてもこの契約は意味がないようだ。
「ふ、ふざけるな! 何でそんなこと勝手に決められないといけないのさ!」
「どうみても勝手に決めたのはお前だよね?」
「う、うるさい! そんな権限お前にはない!」
「ぶっぶぅ~残念でしたぁ~私は女神なんです~偉いんですぅ~」
『何の威厳も感じられない! 女神なのに!』
女神様はやはり喋らないほうが良さそうなのである。
「うるさい黙れ! 何が女神だ! よしんばそうだとしてもそんなポンコツ女神の権限なんてたかが知れてるだろう! 何が偉いだ! お前なんてエロいだ! ただのエロ女神だ!」
「酷い!」
女神サマヨが涙目になった。ただホワイトの視線は女神様の胸に向けられていた。どっちがエロいのかといった話だ。
「あ! 待って電話だ。え~と、あ! アテナお姉ちゃん!」
何だかとても残念なBGMが流れて来て女神様が神様の間で使われている端末を取り出して会話しだした。
「うん、うん、え? 神安警察が動いて、えっと違法な真似をして魔法少女を騙していた詐欺組織を逮捕? うん、リストに地球の? あ、うん。丁度今ね私もその件で来てたの」
「変わってもいい?」
「え? うん。お姉ちゃんちょっとまってて海渡、いや今はねカイコちゃんなの! 勇者様ってばすっごく可愛くて! うんうん! じゃあ今代わるね!」
そしてカイコがアテナと会話し、事情を聞いた後、女神サマヨに再度変わった。
「チッ、なんなんだよお前達! 話している途中で失礼だろう! いいかい? これは魔法王国の問題なんだ! それなのにこんな真似して女王様が本気で怒ったらお前らなんて!」
「捕まったけど」
「――はい?」
カイコがそう告げると、ホワイトが間の抜けた声で首を傾げた。
「だから、お前のいる魔法王国は神様たちが働きかけて神安が動いたから、女王も捕まったし王国ごと解雇しちゃうぞ♪」
「な、なんやてーーーーー!」
『何で急に関西弁!』
「んなアホな! そない馬鹿なことあってたまるかいな! 魔法王国やで! 王国なんやで! そんなん不当捜査や! 一体何の権利があって!」
『おいお前』
「何や! 今大事な話してるんやこっちは! 死なすぞボケェ!」
女神様が端末をホワイトに向けると、アテナとも違う声が聞こえてきた。それに反応して随分とガラの悪い口調を見せるホワイトであるが、とたんに端末の向こう側から怒鳴り声が飛んできた。
『うっさいボケェ! おまんあたいが誰かわかってそないな口聞いとんのかわれぇ! 大神会の検事なめんなよコラァ! アテナの妹が世話になってる国にちょっかいかけてただで済むと思うとんのかボケカスダボがぁ! どたまかちわってケツからヘラクレス突っ込んで奥歯ガタガタいわしたるぞコラ! いてまうぞコラァ!』
「ひ、ひいぃいいいい! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃいいいい!」
気づいたらホワイトが土下座していた。端末から聞こえて来た声にガタガタと震えていて完全にビビっていた。
「女神様、この声の人は?」
「お姉ちゃんの友だちのヘラさんだよ」
「あぁ~」
カイコは名前を聞いてなんとなく荒っぽい口調なのが理解出来たのだった。




