第百六話 君の願いは何?
「ちょちょちょ、ちょっと待って! 何いっちゃっちゃってるのさ!」
『ちょが多い!』
ホワイトは動揺し言葉遣いもかなりおかしくなってしまっているようだ。
「いや、だって願いは叶ったし。てか、この弟を助けたのってもしかしてお前か?」
「解雇しちゃうぞ♪」
「そうか、やっぱりそうだったんだな……」
『何で今ので通じるんだよ! ホワイ?』
魔法少女の決め台詞には全てを悟らせるパワーが宿っているものだ。
「流石に弟の命の恩人を殺すほど、私は都会の闇に染まった覚えはないのさ!」
「いや、都会の闇って……」
光が目を細めた。特に都会が悪いわけではないと思うが、何かと悪者にされやすいのも都会である。
「さて、これで一人は脱落と」
「ちょ、何を勝手な!」
「あらあら、こんなところにごろごろと魔法少女が」
その時、また新たな魔法少女がやってきてその場に降り立った。ゆるふわの髪をした女の子だった。
「おお! 魔法少女ムネナシ! 君は勿論このデスゲームに乗り気だよね?」
「当たり前ですわ! 私には叶えるべき夢がある!」
ムネナシは鼻息を荒くさせた。そして佐藤とカイコを見て顔を歪めた。
「知らない魔法少女がいますわ。ですが、委員長とそこの胸の大きな魔法少女になんて絶対負けませんわ!」
「うぅ、何故かムネナシさん、私の胸のことになるとムキに……」
ちなみに彼女は以前、現場に遅刻した委員長を胸が大きいからだと言ってのけた魔法少女でもあった。
「君の願いって何なの?」
「貴方みたいな胸の大きな方にはわからないことですわ!」
「つまり、胸が大きくなりたい?」
「な、何故それが!」
『いやバレバレだよね! 言動からしてバレバレだよね!』
ツッコミの言う通り、どう見ても悩みは胸のようである。
「え? でもムネナシさん、おっぱいないわけじゃ……」
「ざ~んね~ん、ムネナシの胸は寄せたりパッドをつけたりした結果なのさ! だけど当然このデスゲームに勝ち残れば!」
「はい。もう胸が大きくなったよ」
「へ? 何を言って――キャーーーーー! 本当に、本当に胸がいい感じに大きくなってる~~~~夢の谷間が~~~~!」
ムネナシが喜んだ。凄く喜んだ。願いは叶ったようだ。
「いや、あの、魔法少女ムネナシ?」
「あ、ごめんね。私もうデスゲームやめま~っす」
「はぁああぁあぁああぁああ!?」
またも魔法少女がデスゲームからの棄権を申し出た。ホワイトは目玉が飛び出さんばかりに驚いていた。
「これで、二人、まぁ委員長と光さんは不参加だろうから五人は離脱したね」
「ふ、ふざけるな! こんなことが!」
「「「あ~ら、中々面白いことになってるじゃない」」」
「ハッ、お前たちは死の三連星!」
空から声が降ってきた。見ると、漆黒の髪、暗紫の髪、灰黒い髪をした三人の少女が空中に留まっている。
「あははは、これでもうデスゲームを拒むなんてできないよ。彼女たちはそれぞれ魔法少女クロイ、魔法少女シアン、魔法少女シハイ――魔法少女の中でも最も容赦のない三人さ」
ホワイトがキュルンっという擬音付きで笑い出した。その顔も段々と醜悪なものになりつつある。いや、おそらく本性が暴かれつつあるのだろう。
「うふふ――少しは楽しめそうかしら?」
「何か知らないのが一人いるけど、まぁ関係ないわね」
「とりあえず、ここは協力してこいつらを皆殺しにしましょうか」
三人の魔法少女が地上に降り立ち海渡達に向けて不敵な笑みをこぼす。
「あ、あの! 皆さんももしかして何か願いが? だ、だとしてもこんなことやめませんか?」
「あらあら、随分と寝ぼけたことを言っているのね」
「今更やめるわけにはいかないわね」
「私達には叶えたい願いがあるのだから」
委員長に提案されるも、うふふ、と冷たい笑みをその顔に貼り付けたまま魔法少女たちが語る。その全身からは血の匂いが漂ってきていた。
「言っておくけどこの子達を説得しようと思っても無駄さ。彼女たちには躊躇がない」
「ふ~ん……どうも何人か既に手にかけてるようだね」
カイコがそう言い放つと委員長がぎょっとした顔を見せた。その意味を推し量るなら、当然その手に掛けた者がいるということだ。
「ふふふ、デスゲームなんだから当然じゃない?」
「いや、私が言ってるのはそれ以外にもって意味さ。魔法少女の力ってそういう使い方もありなのかい?」
「え~? 何のことかなぁ? 僕よくわっかんなぁ~い」
ホワイトが恍ける。しかし、その態度を見るに、わかっていても敢えて目をつむったという事だろう。
「ところでそっちの子は誰なのホワイトぉ?」
「……飛び入り参加のわけのわからない魔法少女カイコって女さ。さっきから魔法少女の願いを叶えてこのゲームから離脱させてるんだ」
「あら、面白~い。それならもしかして私の願いも叶えてくれるのかしら?」
クロイが妙にクネクネした動きを見せながらカイコに問いかける。
「それで君の願いは何?」
「うふふ、世界征服よ! 私の願いはね、世界征服、どう貴方に叶えられる?」
「は? 何言ってるのよ貴方! 世界征服なんて!」
光が突っかかった。まさか願いが世界征服とは、本気でそんなことを考えるのがいるとは思わなかったのだろうが。
「あらあら、私は本気よ? 私の願いは世界征服。冗談でもなんでもないわ」
「ははは、どうだい聞いたかな? 魔法少女カイコ、君にこの願いが果たして叶えられるのかなぁ?」
「わかったよはい」
「――ハッ?」
「え? 何これ、ど、どこよここ! 真っ暗じゃない!」
クロイが叫んだ。そうクロイはいつの間にか真っ暗な辺り一面が闇の世界に佇んでいた。
「君の願いを叶えたんだよ」
「え?」
その場に聞こえてきたのはカイコの声であった。クロイが動揺するが。
「君の願いは世界征服だろう? だから望み通り征服できる世界を一つ上げるよ。君にぴったりな闇の世界さ。良かったね君がその世界の王だ」
「ま、待ちなさい! そんな、私はこんな世界望んでなんか!」
しかし、海渡の声はもう聞こえない。クロイの望み通り世界征服できたのだから。
「というわけで、クロイの願いは叶えたよ」
「なんじゃそりゃーーーーーー!」
ホワイトが仰天した。まさか世界征服の夢まで叶えてあげるとは思わなかったのだろう。
「こんなのなしだろう! 何だよ闇の世界って! 何のゲームだよ!」
「でも、世界は世界だろう?」
カイコはそういい切った。そして今度は紫髪のシアンに尋ねる。
「君の願いは?」
「お、面白いじゃない。なら私は地球の征服を望むわ! どうこれでもどうにか――」
その瞬間、シアンもまたその場から消え去っていた。
「は? また消えたーーーー! どうなってるんだよ!」
「願いを叶えたんだよ」
「馬鹿言えよ! シアンの願いは地球の征服だったんだぞ!」
「うん。だから地球のコピーを全く別の世界として創造してそこを征服させたんだよ」
「……はい?」
「我らが女帝!」
「世界の女帝だ!」
「う、うそ? 本当に?」
気がつくとなんとシアンは世界を征服していた。しかも地球をだ。これに驚いているのは彼女自身だ。だが、なんとも言えない優越感にも浸っている。
「うふふ、私が、私がこの世界の女帝!」
シアンは歓喜する。だがその時周囲の人間たちが一斉に彼女に課題を突きつける。
「では女帝。早速ですが地球の食糧問題について」
「地球温暖化の課題も山積みで」
「この地域とこっちの地域の緊張が高まっていて」
「この世界の景気が低迷中です。どうか指示を!」
「難民の問題が」
「世界各地で暴動や紛争が!」
「……は?」
女帝となったシアンは目を丸くさせた。何だかよくわからない書類もあっという間に山積みとなり側近たちもわけのわからない問題を突きつけ女帝である彼女に指示を求めてくる。
だが、そんなものシアンにわかるわけもなく。
「し、知らないわよそんなの! そうよ。そんなのはあんたらで勝手にしなさい!」
「しかし、犯罪率も上昇してたりと、とにかく問題が山積みで」
「そんなの放っておきなさい!」
「え? 放ってですか?」
「そうよ。いい! 私のモットはー自由よ! 誰が何しようがこの世界は自由! 犯罪だって自由よ! それが私の理想とする世界!」
「……つまり我々は自由にして良いと?」
「そうよ!」
「それが女帝の望むやりかたなんですね?」
「勿論よ!」
「「「「「「「「わかりました。それでは早速自由にさせてもらいます」」」」」」」」
「……はい?」
こうして女帝シアンの天下はわずか30分で終わりを告げた。自由にしていいということは彼女が暗殺されても文句は言えないと、そういうことなのだから――
「さてと残ったのは君だね。え~とシハイだったかな? 君の願いは?」
カイコは最後の一人、灰色髪の魔法少女に願いを聞いた。それに一瞬迷うシハイであったが。
「わ、私も世界の支配だ! ただし地球のコピーとかはなしだぞ! 今この瞬間、ここにあるこの時の地球を支配したいんだ!」
「わかったよはい」
そしてシハイもまた消えた。
「お、おいおいどうなってるんだよこれーーーー! 何で時間が止まってるんだーーーー! おい、誰か出せよ! 私をこっから出せーーーー!」
シハイが叫ぶ。しかし、答えが返ってくることはなかった。しかし、これは彼女が選んだことでもある。
なぜならシハイは確かに言ったからだ。今この瞬間、ここにあるこの時の地球を支配したいんだ! と。だからカイコはその願いを叶えた。今この瞬間この時にシハイを自由な状態で閉じ込めることで、彼女は確かに今この瞬間この時の地球という世界の支配者になれたのだから――




