第百五話 魔法少女カイコ
「ど、どういうこと~~~~!」
委員長が目をぐるぐるさせて叫んだ。さっきまで男だった海渡が突如魔法少女になったらそりゃ驚くだろう。
「ま、待て待て! ありえない! 大体男がそんなコスプレして男の娘になったって認めないよ!」
そしてホワイトはホワイトで異議を唱えた。海渡がただ女の格好をしたと思っているようだ。
「男の娘じゃないよ。今は本当に魔法少女さ解雇しちゃうぞ♪」
決めポーズを決める海渡いや、カイコである。その動きに合わせて大きな胸が上下した。とてもリアルな動きであり偽物にはとても見えない。
「か、海渡くん、その、え? えと、どうして魔法少女になれるの!」
委員長はあわあわしていた。委員長はまだ海渡がかつて異世界で勇者をやっていたことを知らない。もっとも知っていたとしても何故魔法少女なのかってところだろうが。
「えっと、俺の叔母の隣近所のお姉さんの孫の結婚相手の実家の家に居候していた青森の女の子が魔法少女やってたんだ」
「あ、そういうことか~」
『何が!? 全然納得できないよね! 何その意味のわからない間柄! そもそもあんたと全く関係ないよね! ただの赤の他人だよね! 知り合いというのもおこがましい程だよね! てか青森に魔法少女いたの!』
「いたんだよなぁ~まぁ青森は平和だから基本ほうきに乗って飛ぶか得意のマンドラゴラ料理を振る舞ってくれるぐらいだったけど」
『いやほうきに乗ってるってそれ魔法少女じゃなくて魔女だよね! マンドラゴラ料理とか作ってる時点で魔女だよね!』
めちゃめちゃツッコミの声が入ったが細かい点はスルーするカイコである。
「ほ、本当に女の子になっちゃったの?」
「本当だよ。触ってみる?」
「え? え、と――」
委員長は一瞬躊躇ったが、魔法少女カイコのおっぱいを触ってみた。
「こ、この弾力、ほ、本物!」
『何このプレイ!?』
衝撃を受けてる委員長だが、見ようによっては確かに怪しいプレイなのである。
「というわけで、これで問題ないよね?」
「えぇ~いや、でも流石にそれは!」
「いいじゃねぇか。この際一人増えようが二人増えようが一緒だろう? 誰が来ようとこの私がぶっ飛ばしてやるよ!」
魔法少女ゴウリキが拳をパキパキと鳴らして前に出てきた。既にやる気満々なようである。
「……ふふ、しょうがないなぁ。なら特別だよ?」
キュルンっという擬音に合わせてホワイトが回転しカイコの参戦を許可した。そして海渡がゴウリキに体を向けた。
「くっ、気をつけろ、あいつは力が――」
「光ちゃん! 無理しないで!」
委員長が光を気遣う。海渡がその様子を見て。
「ふむ、怪我してるね。はい」
海渡が手をかざすと、光の怪我が一瞬にして回復した。
「ふぇ?」
自分の怪我が一瞬にして治ったことで、光の口からも変な声が漏れてしまっていた。
「光ちゃんの怪我が! カイコちゃん凄い!」
「解雇しちゃうぞ♪」
『状況と決め台詞が全然あってない!』
確かに治療しておいて解雇では理屈が通らないだろう。
「よし! これで私もまた戦える! あんたが何者かわからないけど助かったよ……今は仲間がいてくれるのはありがたい」
光がカイコにお礼を言った。これで自分も戦えると気合を入れてる様子だ。
「ふむ、ところで何であの子と闘うことになったの?」
「私はできれば戦いたくないんだけど……」
「委員長、気持ちはわかるけど相手がこのゲームに乗り気だから仕方ないんだよ」
「乗り気ねぇ……」
カイコは改めてゴウリキを見やった。
「君は何でこんなデスゲームに参加してるの?」
「あんたには関係ないだろう」
「そう言わず。それともただ殺すのが目的なのかな?」
「チッ、そりゃ殺さないで済むならそれにこしたことはないさ。だけどね、私にだって理由はある! だけどそれを言うわけにはいかないね。大事な弟が病気で、しかも不治の病で医者だって匙を投げた! だけどこのゲームに勝ち残ればどんな願いも叶えてくれると、そこのホワイトがそう言ったんだ! なんて理由言えるわけ無いのさ!」
『全部言っちゃったよこの人!』
ゴウリキはどうやら理由を語る気はなかったようだが、全て曝け出してるのだった。
「そ、そんな理由が……」
「でも不治の病が治せるなんて、そんなことできるわけ――」
「キュルン♪ 馬鹿にしてもらったら困るね。魔法の王国の力があればそれぐ――」
「事情はわかったよ。ちょっと行ってくるね」
「はい?」
ホワイトが得意そうに語るが、そこでカイコが消えてしまい目をパチクリさせた――
◇◆◇
「アハハハ、この芸人ばっかだなぁ」
「君がゴウリキさんの弟?」
「うわッ!」
カイコは病院のベッドの前にあらわれた。すると一人の少年が盛大に驚いた。テレビがついていて少年はバラエティを見ていた。机の上には食べかけのポテチの袋があった。
「お、お姉ちゃん誰? コスプレイヤー?」
少年が聞いてくる。確かに今の海渡もといカイコの姿を見ればコスプレと思われても仕方ない。
「俺、いや私は魔法少女カイコ! 解雇しちゃうぞ♪」
「看護師さーーん! おかしな人がーーーー!」
『めちゃめちゃ不審者に思われてるーーーー!』
そして間もなくして女の看護師さんがやってきた。
「不審者ってゴウリキくん大丈夫! て、何で魔法少女がここに!」
「魔法少女カイコ! 解雇しちゃうぞ!」
「やめて! まだ家のローンが!」
『何の話だよ!』
とりあえずカイコは少年のお姉ちゃんの知人と説明した。
「そうだったんだね」
「不治の病だって聞いたんだけどそうなんですか?」
「……うん。お姉ちゃんには心配かけてばかりで申し訳なく思うんだけどね……でも、ほら窓の外の木を見て。あの葉っぱが全て落ちたら僕はきっと死んでしまうんだ」
「キンモクセイだねあれ」
『常葉樹だろそれ! 今もめちゃめちゃ青々しているよ!』
「カイコさん……この子の言ってることは本当なの。葉っぱはともかく、この子の病気はうぅ」
看護師さんがおよよと涙を流す。
「わりと元気そうに見えるけどなぁ」
「そ、そんなことはないわ! 強がってるだけなの! この子は不治の病で」
「それって何て病気なの?」
「不治の病です」
「いや、病名」
「不治の病です!」
『押し通した!』
「あの子は強い子よ。入院する前もサッカーをしていてね。先生から止められていたけどどうしてもと言って、1分だけならという条件をもらって出場して活躍していたぐらいなの」
「不治の病ならサッカーできなくない?」
『やめてあげて! そこデリケートなところだから踏み込まないで上げて!』
「僕、もし病気が治ったらプロのサッカー選手として活躍するんだ!」
「うぅ、ゴウリキくんなら、もし病さえ克服すれば立派なサッカー選手になれるはずなのに……」
「う~ん……」
カイコが唸る。色々思うところもあるのだろう。
「まぁいいや。じゃあ、その不治の病、解雇しちゃうぞ♪」
「はい?」
ゴウリキの弟が小首をかしげる。
「これでもう病気は治ってるはずだよ」
「へ?」
「うん、なんだねこの魔法少女は?」
目を丸くさせる少年。するといかにも医者といった格好をした中年の男性が部屋に入ってきた。
「魔法少女カイコ、解雇しちゃうぞ♪」
「え! まさかあのことが!」
先生はかなり動揺している。
『一体何したんだよ! 大丈夫かこの病院!』
「先生、何かこの魔法少女が病気を治したと言ってまして」
「は? 馬鹿言っちゃいけない。不治の病は治らないから不治の病なんだぞ?」
「私、解雇に失敗しないから」
「怖いな君!」
そしてやれやれと、医者が聴診器を当てて少年を診察するが。
「こ、これは、信じられん! 病気が治っている!」
「えぇええぇえ!」
「し、信じられませんこれは奇跡です!」
「聴診器当てただけでよくわかったね」
『確かに!』
こうしてゴウリキの不治の病は完治した。少年にお礼を言われるカイコだが、後でしっかり精密検査受けてねと言い残しその場を去り。
「ただいま」
「か、海渡くん! じゃなくてカイコちゃん!」
カイコが戻ってきて委員長が驚く。ちなみにまだどっちで呼んでいいか悩んでいる節があった。
「ふん、怖気づいて逃げ出したかと思ったよ。さぁ、準備ができたなら戦おうか!」
海渡が戻ったのを認めたゴウリキは臨戦態勢に入った。やる気満々といった様相であるが。
「いや、その必要はもうないと思うよ。君の弟さんの病気、もう治ったし」
「は? てめぇ、ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ! 冗談でも笑えね――」
その時、ゴウリキのスマフォが鳴った。
「チッ、ちょっと待ってろ」
そしてゴウリキがスマフォを耳に当てたわけだが。
「はい、はい、え! は、はい、はい、え? 魔法少女が不治の病を解雇した! えっと、何言ってるかよくわかりませんが、はいはい――」
そしてゴウリキがスマフォを切り、真顔でこういった。
「あ、やっぱ私このデスゲーム降りるわ」
「どういうことおおぉおぉおぉおおおおお!?」
ホワイトの絶叫が辺りに響き渡るのだった。




