第百四話 魔法少女のデスゲーム
魔法少女同士のデスゲームを開催、とホワイトから宣言された。委員長にとっては望まない展開。
しかし、いざデスゲームが始まると今度は別次元ではなく現在のリアルな世界で魔法少女同士が戦い始めてしまう。
時にはニュースでその模様が報道されるような異常事態――魔法少女の中には周囲の被害も気にせず戦ってしまうような者もいた。
そんな中、委員長にも忍び寄る魔の手。そんな委員長を必死に守ろうとしているのは光だった。
「魔法少女ゴウリキ! 貴方、何でこんな真似!」
光が叫ぶ。空に浮かんでいるのは褐色肌でショートカットの女の子だった。
着ているドレスは魔法少女然としたものであり、ステッキの代わりに手甲を嵌めていた。
「私にはどうしても叶えなきゃいけない願いがある!」
拳を振り上げ、光と委員長目掛けて落下。その一撃を避けるもアスファルトの道路が粉砕され余波で二人がふっとばされてしまった。
凄まじいパワーであり、道路にはまるで隕石が落下したかのようなクレーターが出来上がる。
「くっ! ライトイレイザー!」
光が魔法を放つ。杖から放出された光線がゴウリキを飲み込んだ。だがゴウリキは構うことなく光線の中を突き進み、光に飛び膝蹴りを喰らわせ、そこから頭を押さえて何発も膝蹴りを続け最後は顎を膝で跳ね上げオーバーヘッドキックのような蹴りで地面に叩きつけた。
「ガハッ!」
「光ちゃん!」
委員長がお玉を振った。おそらくスープと思われる紫色のドロッとした液体がゴウリキに絡みつく。
これで動きを封じるつもりだったのだろうが。
「舐めるな!」
しかしゴウリキは委員長が作ったスープを引き千切った。
「そ、そんな……」
「私も舐められたものだね。こんなもので動きを封じれると本気で思ったのか!」
「う、うぅ……」
「い、委員長。そいつは本気だ。委員長も、手加減しては駄目――」
ボロボロになった光が立ち上がり委員長に忠告。光もゴウリキの攻撃でフラフラである。
そう、委員長がもし本気を出せさえすればその料理魔法で倒すことも可能かもしれない。しかし少し前までは一緒に戦っていたわけであり委員長はどうしても躊躇ってしまうのだ。
「これでも喰らいな!」
ゴウリキの手に圧縮された力の塊が発生する。振りかぶり、委員長に向けて投げつけた。
「喰らえパワーボール!」
圧縮された力の球体が委員長に迫る。だが、委員長の前に立った光が盾となって彼女を守った。
「ガァアアァアア!」
「ひ、光ちゃん!」
パワーボールを受け膝から崩れ落ちる光。既に満身創痍といった様相。
「うぅ、や、やめてください。どうしてこんなこと」
「ぬるいこと言ってんじゃないわよ魔法少女イインチョ。もうデスゲームは始まってしまったんだからね!」
「う、うぅ……」
「い、委員長ごめんね。私が護ると言ったのに――」
「さぁ、これでトドメだ! スーパーパワーボール!」
ゴウリキの手に更に巨大な力の塊が生まれ、投げつけた。絶体絶命。委員長が思わず目を閉じるが。
「やれやれ、そういうことならもっと早くに相談してくれたら良かったのに」
「か、海渡くん!」
なんとゴウリキの投げつけた巨大な力の球体を、どこからともなく現れた海渡が受け止めて握りつぶした。
「ここまでが前回からの回想」
『突然何言い出してるのこの人!?』
どこからともかくツッコミが炸裂したが、既に海渡や委員長にとってはなれたものである。
「こ、こいつ私のスーパーパワーボールを……」
ゴウリキがギリっと歯牙を噛み締めた。一方海渡に助けてもらった委員長が海渡にお礼を述べる。
「あ、ありがとう海渡くん……でも、また迷惑掛けちゃった」
委員長は目を伏せ申し訳無さげである。海渡に頼りっぱなしは嫌だからと魔法少女になる道を選んだのだが結局助けてもらっている自分が嫌だったのだろう。
だが、そんな委員長を諭すように海渡が答えた。
「何言ってるの? 迷惑なんてことあるわけないよ。委員長は大事な人だしね」
「えぇ! だ、だだ、だ、だだ、大事、わ、私が!」
「うん」
海渡がコクリとうなずくと委員長の顔が真っ赤になった。すると委員長は攻撃してきた魔法少女に目を向け。
「委員長はクラスにとって大事な人だ。これ以上好き勝手させるわけにはいかないかな」
「……うぅ、そういうことかぁ」
海渡が言い放ち、委員長は結局しょんぼりした。
「な、なんなんだいあんた。邪魔するつもり!」
「勿論」
「ちょっと待ったーーーー!」
ギロリと睨みつける魔法少女ゴウリキ。だがそこへちょっと待ったコールがかかりキュルンっとホワイトが出現した。
そして海渡に顔を向け腕を振って文句をつける。
「もう君なに? なんなのムギュ! ギュボギュビョビョビョ!?」
「何この妙ちくりんな物体?」
海渡の手が伸びホワイトを掴む。そして小首を傾げた。
「そ、それホワイトだよ海渡くん!」
「ホワイト? ふ~ん」
委員長が声を上げる。海渡はホワイトを掴んだまま引っ張ったり振り回したり押しつぶしたりしていた。
「そういえば委員長って料理人になったんだね」
『今更かよ!』
謎のツッコミはあったが、とりあえず海渡は和の料理人みたいな格好の委員長に注目したようだ。
「え、え~と、一応これでも魔法少女の制服……」
「へぇ~似合ってるよねぇ」
「に、似合ってる、そ、そうかな?」
委員長はちょっとだけ浮かれた。
「お、お前いいかげんにしろよ!」
するとホワイトが海渡の手から逃れて抗議の声を上げる。海渡は訝しげな目をホワイトに向けていた。
「委員長が魔法少女になってデスゲームに巻き込まれたのこいつのせいだよね?」
「え、え~と」
「そうだ。というか貴方はだれ、うぐぅ」
「ひ、光ちゃん!」
海渡の疑問には光が答えた。しかしすぐに苦しげに呻く。
「怪我してるのか」
「ちょっとお前! 話聞いてるのか!」
ホワイトがまたもプンプンっと怒った。
「何だよ」
「何だよじゃないよ! いい! これは魔法少女同士のデスゲームなんだよ! お前は男だろう! 男の出る幕じゃないんだよ!」
「そのデスゲームで普通に回りが迷惑してるけど?」
「いいんだよそれは。ここはデスゲームのフィールドなんだから! お前は違うだろ! ゲームに出てくるモブみたいのが勝手に出てくるなよ!」
ホワイトが好き勝手な自分ルールを押し付けてくる。あまりに言ってることは無茶苦茶だったが海渡はふむ、と顎を擦り。
「なら魔法少女ならいいんだな?」
「は? いや、そりゃ魔法少女なら。でも、お前はそもそも男だろう!」
「うん、なら仕方ないね」
すると海渡はどこからともなくステッキを取り出し、そして振り回して呪文を唱えた。
「デスゲムデスゲムブッツブス――」
「は、何こいつ、何してるのこいつ!」
ホワイトが動揺しているが構うことなくステッキを振り回す海渡。すると周囲にキラキラしたエフェクトが生まれそして海渡が光に包まれその肉体も徐々に変化していき――
「魔法少女カイコ推参――解雇しちゃうぞ♪」
『全国のサラリーマンが恐怖する決め台詞来たーーーーー!』
そう、その場には魔法少女に扮した海渡、もといカイコが立っていたのである――




