第百三話 ブラックなホワイト
「大体、君は仕事というものを――」
「ちょっとホワイト、もういい加減にしなさいよ!」
くどくどと嫌味混じりなホワイトの説教は未だ続いていた。だがそこへ光から待ったが入る。
「うん? 君には関係ない話だろう? そっちはそっちでしっかり戦いなよ」
「もう終わったわよ!」
光が叫んだ。へ? と振り返るホワイト。見ると既にマガモノは駆逐された後だった。
「全く。一体何をしてるかと思えば……委員長はまだ入って間もないのよ」
「はっはっは、だからさ。こういうことは最初が大事だからね。今後の為に敢えてキツくあたっていたのさ」
「パワハラにしか見えなかったけど?」
「いやだなぁ。魔法少女の世界はクリーンでホワイトなんだよちみぃ」
キュルンっと擬音つきで答えるホワイトである。しかしその言い回しがなんとも癇に障る。
「ま、でも最近調子に乗ってたようだし、遅刻も怠慢が原因なんじゃないの?」
魔法少女の一人がそんなことを言ってきた。
「フフフッ、そんなことを言っては可愛そうですよ。それに遅刻の原因はきっとあの大きなお胸ですよ。あんな大きな物をぶら下げていては、走るのに邪魔でしょうからねぇ」
委員長の胸に冷ややかな視線を向けながらもう一人の魔法少女が話に乗っかってくる。
「い、いい加減にしなよ」
「そうですよ。全く胸は関係ないよねぇ委員長。僕はわかってるよ。委員長の胸は個性だよ! 委員長はそのおっぱいがあってこその委員長だもんね!」
ホワイトが委員長を擁護した。だがその言い方があまりよろしくない。光もジト目を向けていた。
「ところで委員長」
「は、はい?」
「そのおっぱい揉んでいい?」
「い、いやです!」
「ホワイト! 何言い出すのさ!」
光が委員長を庇うように立った。
「えぇ~駄目なの~? どうしてぇ? あれ、もしかしてスケベ心だと思った? 違うよぉだってほら。僕はこんなに愛らしい魔法少女のサポーターだよ? おっぱいを揉みたいのはただの興味さ。それに僕みたいな愛らしいキャラが女の子は好きだよね? 胸を揉まれるって寧ろご褒美だと思わない?」
「そんなはず無いでしょう!」
光が怒鳴った。確かにホワイトは見た目だけなら愛らしいが、だからといっていきなりおっぱいを揉んでいい? などと言ってくる輩に揉ませたいとは思わないだろう。
「ホワイト、それ本当セクハラだから!」
「セクハラ~? なにそれ美味しいの? え~? 僕あまりこっちの世界のこと詳しくないからわかんな~い」
「くっ、お前――」
どう見ても都合のいいことだけわからないと言っているようにしか思えないホワイトである。名前がホワイトでも心はとんだブラックであった。
「てか光、ちょっと反抗的だよね?」
「くっ、とにかく委員長の失敗は私も連帯責任で責任とるよ! それでいいだろう!」
「そんな光ちゃんにそんなこと……」
「いいんだ。大丈夫だから」
「……ふ~ん、言ったね。わかったよ」
そして改めて結果発表の時が来た。ホワイトがラッパを鳴らし各魔法少女の報酬を伝えていくが。
「さて、委員長だけど、わかってると思うけど、遅刻した上、戦闘でも役に立たなかった君には報酬はありません」
「は、はい……」
しょんぼりとした様子で委員長が答えた。報酬がもらえないことは仕方ないという思いだが、何の役にも立てず皆に迷惑をかけたかもと心苦しかったのである。
「あと、遅刻した委員長にはペナルティもあります」
「え! ぺ、ペナルティですか?」
「そうだよ。まさか遅刻して皆の命を危険にさらしておいて、何もないと思ったわけじゃないよね?」
「う、うぅ。それでペナルティというのは?」
「嫌だなぁ。そんな深刻な顔しなくても大丈夫だってば。ペナルティと言ってもただの罰金さ。そうだね今回の場合は遅刻で、この場合は1秒の遅刻につき100万円の罰金となります」
「え?」
ホワイトの説明に委員長の黒目が揺れ動く。
「あの、円ですか?」
「そうだけど?」
キュルンっと首を傾げてホワイトが答えた。
「あれれ~? ルールブックちゃんと見てなかったのかなぁ? 報酬は支払いはテリカで支払うけど、罰金などが生じた場合は査定は円となると、そう明記されているけどぉ?」
「う、うぅ……」
委員長は別にルールブックを全く見ていなかったというわけじゃない。ただ、その内容があまりに細かく小さい文字で列挙されていた上、言い回しがわかりにくいうえに誤字脱字も多かったのだ。おかげで理解するのにも一苦労な内容だったのである。
「とにかく、委員長の借金は10秒の遅刻で1000万円になりました。あ、でも安心してすぐに支払えなんて鬼畜なことは言わないからね。だからがんばってテリカを稼げばなんとかなるよ。それと、光も責任取るといっていたから、こっから500万円は光に連帯責任で回しておくね♪」
「そ、そんな!」
「いいんだ委員長。それぐらいさせて」
そしてどういうわけか、いつの間にか委員長は500万の借金を背負うことになってしまった。
しかもそれからの仕事も無茶なことを言われることも多くなった。あるときなど大事なテストの最中に至急と呼び出され、理由を話したら休みにしてもらえたが、その分、自分都合の身勝手な休みとされて更に罰金で借金を負わせられ気づけば委員長の借金は軽く10億を超えてしまっていた。
「委員長。最近元気ないみたいだけど大丈夫?」
そんなある日、海渡が委員長に様子を聞いてきた。実はここ最近良くあったことだが、委員長はこれ以上海渡を頼りたくないという理由から何でもないや、家でちょっととだけ揉めてと伝えて大丈夫だからとごまかしてきたのである。
しかし、借金はなんだかんだ理由をつけて増えていく。しかも実はこの借金漬けの状態は委員長だけではなかった。なんと他の魔法少女もなんだかんだと理由をつけられ多額の借金を背負わされていたようなのだ。
「委員長は心配しなくていい。いざとなったら私が委員長を、い、委員長を護るから!」
ある時、光が委員長に熱い視線を向けながらそんなことを言ってきた。とても真剣な顔だったが委員長としては申し訳ない気持ちの方が大きかった。
本来なら自分で何とかしたいところだが、学生の委員長になんとかなる金額では既にない。というよりも働いていたとしてもむずかしいだろう。
そんなある日のことだ――
『ホワイトだよ! 皆さんに大事なお知らせがあります。なんと本日倒されたマガモノをもって全てのマガモノは駆逐されました! ぱふぱふ~それはとてもおめでたいことだけど、マガモノがいなくなった以上、皆さんには速やかに借金を返してもらう必要があります。とは言え難しいよね? 難しいよね? だから救済策を用意しました! 今日まさにいまから魔法少女によるデスゲームを開始します! 拒否権はないけど、最後まで生き残れば借金はチャラな上、好きな願いを何でも一つ叶えちゃうぞ♪ だから頑張ってね! byホワイト』
◇◆◇
魔法王国の城でホワイトは女王と対峙していた。
「仕込みは終わりました女王様。これで最後まで生き残った魔法少女こそが――女王様の求める魔王少女になることでしょう……」
それぞれの思惑が交差する中、遂に魔法少女によるデスゲームが勃発!
「うぅ、や、やめてください。どうしてこんなこと」
「ぬるいこと言ってんじゃないわよ魔法少女イインチョ。もうデスゲームは始まってしまったんだからね!」
「う、うぅ……」
「い、委員長ごめんね。私が護ると言ったのに――」
委員長の側には傷ついた光の姿。まさに絶対絶命――と思えたその時だった。
「やれやれ、そういうことならもっと早くに相談してくれたら良かったのに」
「か、海渡くん!」




