第百二話 テリカ
「え~と、つまり500万テリカは……」
「500円だね」
キュルンっという擬音つきでホワイトが答える。
「あれれ~? もしかして不満? でもルールブックにはしっかり書いていたし契約書に」
「いえ、むしろ少しホッとしました!」
「へ?」
委員長の意外な対応に、ホワイトは呆気にとられていた。
「こう、えい?」
「はい。流石に学生なのに500万円などもらっても使いみちがないし……辞退しようかとも思っていたので」
それが委員長の考えだった。しかし500円ぐらいなら一応は戦いに参加しているしお小遣いとしてなら、という感覚でもある。
「そうなんだ。はは、納得してくれたなよかったよ~」
ホワイトはキュルンっとまたも擬音つきで回転しながら笑顔を見せた。
そしてこの話は終わったかと思われたが。
「委員長、ちょっといい?」
光が委員長に声を掛けた。なんだろうと光の側に向かうと真剣な顔で光が委員長の肩を掴んだ。
「委員長! いい、これから絶対、失敗しないようにね。今日みたいな活躍を毎回とはいわないけど、とにかく、お互い全力を尽くして。私もできるだけサポートするから!」
「あ、う、うん。ありがとう光ちゃん!」
光の発言に委員長はそれだけ私を心配してくれてるんだと判断した。それは勿論心配というのもあるようだが、何か他にも意図があるように思えた。
「い、委員長。あ、ありがとうって、ありがとう――」
光がブツブツと呟きながら委員長に背中を向ける。そしてほっぺをパンパンッと叩いた後。
「うん! 一緒に頑張ろうね!」
「はい!」
こうして――委員長の魔法少女としての戦いは始まったのだが。
「「「「「「料理がマガモノを溶かしたーーーー!」」」」」」
「「「「「「料理がマガモノを料理してフルコースにしたーーーー!」」」」」」
「「「「「「料理が何かとんでもないことになってるぅぅううう!」」」」」」
というわけで委員長の活躍によりマガモノは次々と駆逐されていく。あるときな数十体のマガモノが一度に攻めてきたというのに料理の津波に飲み込まれて全滅してしまった。
もっとも委員長にしてみればただ料理しているだけなのに、何故相手を倒せてしまうのかさっぱり意味がわかってないようだが。
そして――ここはとある城の中。
『ホワイト。新人は随分と優秀なようですね』
『は、はい女王様。まさかあそこまでとは思いもよらず』
『……力があるのは結構なことです。ですが、わかってますね?』
『は、はい! 勿論。そのために手は打ちましたから――』
「え? 今!?」
委員長のスマフォにホワイトから連絡があった。ちなみにホワイトとはBINEのアドレスを交換している。
さて、困ったことに呼び出しが掛かった時間は授業中だった。これまでは時間の空いている時にタイミング良く呼び出されることが多かったので問題なかったが、よくよく考えてみれば化物がそうそう都合のいい時間だけを狙ってやってはこないだろう。
「せ、先生、ごめんなさい。その……え~と」
「うん? 何だ便所か委員長。だったらとっとと行って来い」
「は、はい――」
デリカシーの欠片も感じない矢田であるが、とにかく委員長は教室を出た。そして地図で指定された場所に急ぐ。
ただ、結構遠い。マガモノは出現してしばらくは異次元をさまよう。しかし放っておくとこちら側に出てしまうため急いで駆除する必要がある。
問題はマガモノのいる異次元に繋がる穴はマガモノが出現した周辺にしか出てこないことだ。
なのでどうしてもそこまで自力でいかないといけない。
「仕方ないかな――」
委員長は変身を試みる。ちなみに魔法少女になるのは意外に自由とされている。勿論力を犯罪などに使うのは認められないが。
また魔法少女以外の人間に正体がバレてもいけないとされている。
そして委員長が魔法少女に変身したわけだが――
「あ!」
その時、委員長の耳に子どもの声が届いた。まさか、見られた! と一瞬焦る委員長であるが。
「見てママ。あそこにお玉を持った和の料理人さんがいるよ~」
「あらあら本当ね。和の料理人さんがいるわねぇ」
「お仕事かなぁ~」
「きっと修行中なのよ」
「そうなんだ! おねえちゃん、がんばえ~」
というわけで通りすがりの母娘に和の料理人として見られ応援された委員長であった。
「え、と――」
それから現地に急ぐ委員長だったが。
「お、和の料理人じゃねぇか」
「これはこれは可愛らしい和の料理人だ」
「そんなに急いで和の料理人さんは大会にでもいくのかい?」
「よ! 女子高生和の料理人!」
というわけで道行く人々から和の料理人としか見られず、全く魔法少女だとバレる心配はなかったのだった。
「うぅ、ちょっと複雑――」
そんなことを思いながらもいよいよ目的の異次元に入ることが出来た委員長だったが。
「遅い! 一体何してたのさ!」
するとホワイトが飛んできて、開口一番、叱咤の声が飛んできた。
「約束の時間から10秒もすぎてる? わかってる!」
「ご、ごめんなさい!」
委員長は素直に謝った。遅刻したのは申し訳なかったが、今はとにかく皆の援護に入らなければとそう考えたのだろうが。
「なにそれ、まさかそんなとりかえず謝っておけば、あとは流れで適当に合流すればいいかなとか思ってるの?」
「え、いえ、そんなことは」
「あ~いやいやだ。これだからゆったり世代は」
「はい? あの、私別にゆったりじゃ……」
ホワイトの言葉に委員長が眉を顰めた。
「おやおや、10秒も遅刻しておいて開き直りですか~開き直りですか~?」
「そ、そういうわけじゃ」
「大体さぁ、君ってちょっとやる気を感じないよねぇ。もしかしてこの仕事を結婚までの腰掛け程度に思ってるんじゃないの? 真剣味が感じないっていうかさ~」
「そ、そんなことありません! 大体私、まだ結婚なんて!」
「はい、来た~最近の若者はさぁとりあえず否定しておけばいいと思ってる。そうやって自分を正当化しようとして自らの過ちを認めようとしない」
「……」
「おやおや、今度はだんまりですか~だんまりですか~ちょっとさぁ君社会人としての自覚が足りないんじゃないの?」
「私、まだ社会人じゃ……」
「社会に出てれば社会人なんだよこのボケ! いいわけすんな!」
「えぇ~……」
「全く10秒だよ10秒も遅刻したんだよ! わかってるの?」
「は、はい……」
「はい、わかってない~その顔全然わかってない顔です~どうせ10秒ぐらいで何ぐちぐち言ってるんだ? とか思ってるんだろう!」
「そんなことは……」
「い~や思ってますぅ。でもね~この仕事は人命が掛かってるの。君がたかが秒とおもったその1秒で人が100万人死ぬことだってあるんだよ!」
「はい、ごめんな――」
「はい、今1000万人死にましたーー!」
「えぇ!」
「君が10秒遅刻したせいで1000万人の命が失われましたーどうするんですか~? どうするんですか~? そうなったら責任はどう取るんですか~?」
「う、うぅ……・」
こうしてホワイトの嫌味混じりのぐちぐちとした説教は暫く続くのだった――




