第百話 魔法少女への誘い
「ま、魔法少女に?」
ウサギのようなマスコットのような、そんな愛嬌のあるホワイトという何かが佐藤に雇用契約を勧めてきた。どうやら承諾すれば魔法少女になれるらしい。
「で、でも私なんかに務まるかな?」
委員長は答えに迷う。何せいきなりのことだ。魔法少女にならない? などと言われてもそう安々とはいそうですかとはならないだろう。
「迷ってるの? 大丈夫だよ! うちはホワイトだよ。アットホームで働きやすい職場だよ。正社員への登用制度もあるし福利厚生も充実出来るよう努力してるもの。年2回は魔法王国への旅行も計画されるしね」
ホワイトが次々と魔法少女になるメリットを告げていた。そんなホワイトの背中をジト目で見ているのは、佐藤を助けてくれたもう一人の魔法少女である光だ。
「貴方、よく考えた方がいいわよ。アットホームで働きやすいとかそういうのって――」
「光。これは僕の仕事だよ。光が口を挟むのはルール違反だと思わない?」
「――クッ」
光が喘ぎ、口を閉ざした。そして改めてホワイトが佐藤に説明する。
「君は本当にラッキーだよ。魔法少女は今は倍率高くて、そう簡単になれるものじゃないんだ。女の子のなりたいかもしれない職業ナンバーワンかもしれない職業が100年連続で魔法少女だからね!」
「そ、そうなんですか?」
「そうさ! しかも今ならなんと、特典として魔法少女専用のドレスとステッキもセットにしちゃうよ!」
ちなみに、ドレスもステッキも魔法少女の戦闘服であり、普通の職場で言えば制服と一緒だったりする。
「ね? だから契約しよ! なんならお試しでもいいから。今なら凄く稼げるよ!」
しまいにはツルンっとした腕を器用にお金を表す形にしてアピールしてきた。
一方で委員長は顎に指を添え考えを巡らせているようだが。
「あの、魔法少女になると、私でも強くなれますか? 誰かに守られなくても、戦えるぐらいに」
「勿論さ! だって魔法少女だよ! それはもう凄いよ」
「そ、そうなんだ……でも、やっぱりあんな怪物が相手なら、危険はあるんだよね……」
「それも大丈夫さ! あれはマガモノという異形だけど、魔法少女はアレに対抗できるだけの力は十分にあるからね! 例えば頭の上からガブリといかれるなんて危険も全くないからね! 大丈夫大丈夫♪」
ホワイトは危険がないことをアピールした。だが、こういう時の危険はないがどれほど本当か不透明な部分も多いが――
「……うん! 決めた。私、契約して魔法少女になる!」
しかし佐藤は決めてしまった。それもこれ以上誰かにというか主に海渡だが、彼に守ってもらってばかりじゃいけないと、そう思ったからだ。
「ちょ、本当にいいの? よく考えた方がいいよ」
「光――」
「う、あぁ、もう!」
ホワイトに言われ、結局光は黙ってしまった。
「それじゃあ善は急げだね! はいまずはこれが契約書。これにこの魔法の羽ペンでちょちょいっとサインしちゃってよ」
「は、はい」
そして委員長が羽ペンを受け取るも念の為雇用契約書には目を通す。
「え! マガモノ一体倒すごとに報酬が100万~1000万!?」
「嫌だなあ。危険な仕事だし、それぐらいは当然だよ~」
「あ、やっぱり危険なんだね」
「え? あ、いやいや、全然だよ全然! 本当危険といっても石に躓く程度のことだしね!」
キュルンっと回転しながらウィンクするホワイトである。何やら可愛いさをアピールをしているがそこが妙にあざとい。
「それより、ほらほら早くサインを」
「え? う、う~ん」
佐藤はサイン直前になって少し迷いが生じたようだ。こういうことはよくあるものであるが。
「あ、はいもしもし」
するると突如ホワイトが端末を取り出して喋り始める。
「スマフォ持ってるの!」
「はっはっは、これはマジカルフォンさ。人間界のと見た目は似てるけどね」
どうやら似て非なるものらしい。
「え! 大変だよ委員長! 何か他にも魔法少女になりたいって人がいるみたい。今契約しないならそっちに回すって!」
「え? わ、わかりました!」
ホワイトの話を聞き、委員長は慌ててサインをした。途端に紙面が光輝き、ホワイトの体内に吸収された。
「はい。これで契約終了だねぇ。これで君も晴れて魔法少女の仲間入りだよ! やったね!」
「あ、はい。え~と、ところで私のことどうして委員長だってわかったのかな?」
「はっはっは、委員長は委員長じゃない。やだな~」
どうやら佐藤が委員長というのは世界的に見ても共通概念としてあるようだ。
「さて、それじゃあ約束通り先ずはこれが魔法の腕輪だよ。これに念じるだけで魔法少女に変身できるからね」
「あ、ありがとうございます」
「あと、これ魔法少女のルールブックね。色々と注意点とか書いてるから良く読んでおいね」
――ズシン。
渡されたルールブックはまるで百科事典の如く大きくて分厚いものであった。
「えっと、これ全部ですか?」
「あぁ~びっくりした? ごめんね。最近は魔法王国も煩くてね。でもさっきいったのが基本だから無理して読まなくて大丈夫だからね♪ あ、でもこれ僕が言ったって言わないでオフレコでお願いね」
「は、はぁ……」
手でしーっというポーズを見せるホワイトである。とは言え、これで晴れて魔法少女になることが出来た佐藤なのであった。
それから数日後、ホワイトからの呼び出しが掛かり佐藤は初めて魔法少女として戦闘に参加することとなった。
「何や、また新人さんかいな」
「あらあら、随分と大きな胸の子ね」
「でも、胸以外はちょっと地味じゃない?」
「あ、あの、佐藤といいます! よろしくお願いします!」
「宜しくね委員長」
「あ、光さん! はい! よろしくお願いします」
現場には他にも数人の魔法少女の姿があった。そんな中、ついに姿を見せたのはマガモノと呼ばれる怪物であった。今回も一匹だが前回よりも更に大きく、岩が組み合わさったかのような肉体をしている。
「さぁ委員長! 変身してみて!」
「は、はい!」
そして腕輪を翳すと嵌められていた宝石が光り輝き、委員長の制服が光に包まれたかと思えばビリっと破けた。
「え、えぇえええぇえ!」
委員長が驚く。しかし、直後破れた制服が変化し魔法少女のコスチュームに変わった。
「うぅ、どうして破けるの……」
「一瞬だってば~お約束お約束♪」
確かに一瞬だが、それでも恥ずかしいものは恥ずかしいだろう。
「うん、委員長中々似合ってるよ♪」
「え? 似合って、あのでも、何か格好が皆と違って和服っぽいような。そして何か料理人っぽいような……」
そう、他の魔法少女は見た感じ本当に魔法少女といった格好だが、委員長は何故か和の料理人といった様相だ。そして手持ちのステッキも何故かお玉である。
「て、これで本当に戦えるの!?」




