第九十九話 運命の出会い?
「でも本当ここ最近デスゲーム多いわね」
「全くだ。まるでデスゲームのバーゲンセールだぜ」
赤井がやれやれと肩を竦める。以前から良くデスゲームには巻き込まれたが、どうもデスゲームに関する報道なども多く出てきたため安易にデスゲームに手を出す輩も増えているそうだ。
「メディアが流行りを作っちゃったんだね」
「YOI-TOUHUの動画でもデスゲームやってみたみたいなのが多いのよね」
「ネットの呟きでもちょっとデスゲーム参加してくるみたいなのよく見ますね」
『どんだけ流行ってんだよ! デスゲームってそんなに気軽に始められるものだっけ!?』
「というご意見も多数寄せられているようです。この問題について皆様はどう思われますか?」
『MCみたいなことやりだしたよ! そして俺のツッコミがご意見にされちゃったよ!』
『シンキチうるさい』
「今シンキチって言わなかった?」
赤井がキョロキョロと辺りを見回す。勿論いないが。
「それにしてもよぉ。俺も忙しい割に安月給で嫌になるぜ。こないだの事件だって解決に貢献したつもりなんだけどなぁ」
「何もなかったのですか?」
「全然だよ。昇格も期待したんだけどさ。何か持ち帰ったあのレーザーみたいな弓と喋る刀が、何故か証拠として持ち帰った途端、普通の刀と弓矢になってたんだよ。上司に得意になってレーザーだぞ喋るんだぞって教えたのに、何もおきなかったからすげー冷笑を浴びたよ」
「災難だね~」
海渡が他人事みたいに言った。
「それでも餓鬼とかいうのを壊滅することには繋がったからプラマイゼロってところだけどな。はぁでもよく考えてみたら確かに少し変だったよあ。6連装のリボルバーなのに数千人の餓鬼撃ち抜いたりしてたし」
『今気づいたのかよ! どう考えてもおかしかっただろう! 少しどころか大分おかしかったよ!』
「ま、そんなわけで今もこうして現場を走り回ってるってわけよ」
「公安さんもなんか大変なんだね」
「ご苦労さまです」
『何かスルーされてる!?』
いよいよどこかから飛んでくるツッコミを空気のように気にしなくなった一行である。
「全くこれで彼女の一人でもいればまた違ったんだろうけどなぁ」
頭を掻きむしり、ボヤきつつ赤井が棒付きのアメを取り出して舐めてみせる。
「アメが好きなんですか?」
「最近はタバコがうるさいからこれで気を紛らわしてるんだよ」
そんなことを言いながらアメを頬張る赤井である。
「お、いたいた。お前らまたデスゲームに巻きこまれたんだって?」
「あ、矢田先生来たんだ」
海渡達に声がかかる。三人が見ると矢田先生がやれやれといった様子で近づいてきた。
「あぁそういえば教師に連絡とったと――」
そして矢田先生を見た途端、赤井がガリッとアメを噛み砕き口元から棒が落ちた。ポカーンとする赤井であり。
「全く最近多すぎだろ。その度に私が何か呼ばれるんだよ。全くそろいもそろって私のことを何だと思ってるんだ!」
「教師だと思っているんじゃないかな」
当然だが未成年がデスゲームに巻き込まれれば学校に連絡が行く。そして担任が出向く。当然の流れなのだった。
「全く生徒がデスゲームに巻き込まれるなんて日常茶飯事で普通の事だろう! 何で休みの教師を呼ぶのよ!」
『そんな日常御免こうむるよ! 危険過ぎるよ! 安全な日本どこいった!』
「まぁ、世の中には3秒に一回ペースで殺人が起きるという米なんとかという魔境があるというし、そう考えたら大したこと無いよね」
『とんでもない世界線引き合いに出してきたーー!』
「あ、あの、貴方はこの子達の先生なのですか?」
「うん? あぁ貴方が連絡くれた?」
「はい。常日頃から悪を討つべき日夜戦い続ける秘密警察、公安の赤井です」
赤井はキリッとした顔で自己紹介した。
『てか普通に公安だと明かしてしまってるじゃん! 秘密警察ってどこが秘密やねん!』
「なんか遂にツッコミが関西弁になったわね」
「リアルの関西人が怒るやつだねこれ」
「それで、その秘密の公安さんに話を聞けばいいの?」
矢田先生が赤井に問いかける。すると何故か決め顔で赤井が答える。
「はい。これから少し、いえ1時間。いや何なら居酒屋で数時間、あ、俺オールでも全然いけるんで」
『誘う気まんまんだったよ! 何だこの公安、本当がっかりだよ!』
「黙れ。目の前に好みの女がいるのに狙えないような男が国の平和を守れるわけ無いだろう!」
「格好良さげで全然格好良くないセリフだこれ」
「寧ろ、かっこよさの欠片も感じられない最低なセリフね」
「あ、あはは。でも先生も流石に誘いには……」
「え? 奢ってくれるの? マジで? いくいく。よっしゃすぐにでも行こう!」
『あっさり誘いに乗った! 公安も公安なら教師も教師だな!』
「あ~そういえばこういう先生だったわね……」
ツッコミが聞こえてくるが、鈴木も海渡も矢田先生の性格は知っているつもりだ。勿論奢るだけ奢らせておいて一切の隙も見せず帰宅するであろうことも。
こうして矢田先生は結局赤井とそのまま飲みに繰り出してしまった。まだ昼間なのに。
「あ、あの、本当に海渡くんありがとう。お礼にお昼ぐらい奢らせて!」
「え? でも悪いよ」
「だ、大丈夫だから。それにこれぐらいしないともうしわけないし!」
「そこまで言うなら……」
こうしてその日は委員長に昼をご馳走になる海渡であり、その後ももともとの予定だったというカラオケなどに海渡も付き合い楽しむことになる。
委員長としては充実した日でもあった。
そして帰り、駅から家まで送ろうか? と海渡に聞かれるが途中で寄りたいところもあるからとわかれることとなった。
送ると言われたことは嬉しかった委員長なのだが、あまりに普段からお世話になりすぎていた為、これ以上は申し訳ない気もしたのである。
もっとも途中で寄ると言っても大したことではない。ちょっとした買い物ぐらいだ。
別に今日でなくてもいいのだが、海渡にそう言った手前、寄らないのも気が引ける。
なので足をそちらへむける。
「はぁ、でも本当……海渡くんには迷惑掛けっぱなしだな……」
そんなことを呟きつつ心ここにあらずで歩いていると、ふと、思った道と違う場所を歩いていたことに気がつく。
どうやら考え事しているうちに思いがけない方に進んでいたようだ。
「ここどこだっけ?」
近所だし、そうそうわからない場所はないと思っていたのだが、しかし全く記憶にない道だ。
「あれ? もうこんなに暗かったっけ?」
しかもいつの間にか空が暗紫色に染まっていた。異様に不気味な空に感じた。嫌な予感がした。
そしてこういうときの佐藤の予感はよく当たる。
『GYOOOOOOOOOOOOO!』
「や、やだ、連続だなんて……」
そう委員長の目の前に突如、異様な容姿をした怪物が姿を見せた。見上げるほどに高く、ギョロギョロした目玉が何個も付いていて、体中から触手が生えてウネウネしている。
「い、いや助け――」
見下ろしてくる怪物に恐怖し、思わず助けを呼びそうになる。だが、思いとどまった。確かにここで助けの一つでも呼べば海渡が来てくれるかもしれない。
だけどただでさえ今日は一度助けてもらっているのにそれでいいのかと思ってしまった。
そう海渡は1日1度まで、と、そんなことを連射好きな高橋さんが言っていた気がする。
『GRRRUUUUU……』
だが、やはり怖い。足が震える、声が出ない。
触手が伸びてきた。体に巻き付き持ち上げられる。
「あ、あ、あ……」
ギョロリとした幾つもの目が佐藤を見ていた。それでも佐藤は海渡を呼ばなかった。そう、佐藤には一度決めたらやり通す気概があった。
例えば普段はちょっと困ったことがあるだけで秘密的なアイテムに頼ってしまう眼鏡の少年でも、一度頼らないと決めたらどれだけ困っても決して頼らずに乗り切ったように、委員長もどうにかならないかと考える。
でも、無理だった。そう無理なのだ。佐藤は所詮はただの委員長だ。おっぱいが大きくてよくデスゲームに巻き込まれ料理を作れば化物でも知らないうちに倒してしまう程度の普通の少女なのである。
「私に、戦う力があればよかったのに……」
ふとそんなことを呟く佐藤委員長。その時だった。
「サウザンドライトアロー!」
突如そんな掛け声が響き渡り、かと思えば空から降り注いだ光の矢が怪物を貫き、粒子になって消え去る。
「え? まさか海渡くん?」
ふと彼の顔が思い浮かぶ。だが佐藤の前に降り立ったのは海渡であなく、一人の少女だった。
「え、え~と」
「貴方」
そして少女が佐藤を振り返る。手にはステッキが握られており、妙にヒラヒラしたドレスを身にまとっている。何となくだが何かで見たような格好である。
とは言え、助けてくれたのは間違いないだろう。委員長は近づいてきた少女に頭を下げる。
「あ、あのありがとうございます!」
「そんなお礼はいいわ。それよりも、ここは危険よ。送ってあげるからついてきて」
「え? あの、それで貴方は一体?」
問いかける佐藤。だが少女は何も答えず。しかし、そんな彼女の肩に突如うさぎのような見た目の可愛らしい何かが姿を見せる。
「やぁ、僕はホワイト。この子はね、魔法少女なんだよ」
「え? ま、魔法少女?」
その言葉に佐藤の頭にアニメでみたような魔法少女の姿が浮かんだ。そう言われてみると確かに姿は魔法少女っぽい。
「ちょっとホワイト!」
「いいじゃない光。それでね、僕は君から凄く運命的な匂いを感じたんだ」
「運命?」
「そう運命」
「ちょ、ホワイトあなたまさか!」
光と呼ばれた少女が慌てだすが、構わずホワイトが話を続け。
「ねぇ君。僕と雇用契約を結んで魔法少女として働こうよ!」
というわけで第八章は魔法少女編となります!
ついに委員長にも陽の目が!




