61. 夢を繋いでゲームができる
投稿が不安定ですみません。もっと頑張ります。
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週明けの月曜日から、僕は《学士の衣装》を着用して――つまり、女子生徒用のブレザーの制服を着用して、高校に通うことにした。
もちろん勝手にそうするわけじゃなく、担任のタマコ先生には事前にLINEで相談して、許可を貰っている。
中学以上の教育機関――特に僕が通っているような公立の学校には、文科省から教師に対して、掃討者として活動する生徒には最大限の支援をするよう通達が出ている、と元教師のサツキお姉さんが言ってたけれど。
それは真実なんだろう。僕にとって『掃討者として活動するために女子制服で通学することが必要』なことを理由も含めて一通り説明したところ、タマコ先生からは思わず拍子抜けするぐらい、あっさり許可を貰うことができた。
……もちろん、説明自体には結構な時間を要したけれどね。
また、女子制服着用中に『トイレ』と『着替え』をどうするかについても相談したところ、トイレに関しては職員室のすぐ近くにある教職員用のトイレを使用して構わないという許可を貰うことができた。
体育授業の際の着替えに関しては、月曜日のうちにタマコ先生から養護教諭に事情を話して、保健室のベッドで着替えられるようにしてくれるとのことだ。
保健室のベッドには、それぞれにカーテンが備え付けられているから、その中で着替えをすれば良いってことだね。
というわけで――各種問題がクリアされたので、月曜の今日から僕は《学士の衣装》を着用しての登校を開始。
当然その姿はまず、登校時に迎えに来てくれたダイキに見られたわけだけれど。
「……もう、アレだな。普通に美少女過ぎて、男要素が全部どっか行ったな……」
「全部どっか行った⁉」
僕の自宅まで迎えに来てくれたダイキが、女子の制服を着ている僕を見て、まずつぶやいた第一声がそれだった。
感嘆と呆れの両方が入り混じった、なんとも複雑な表情。
親友がそんな顔をしているのは、僕も初めて見たよ……。
「小学3年生ぐらいの、小っこい女の子が高校の女子制服を着てるって時点で破壊力やべーのに。それに加えて金髪オッドアイでエルフ耳で、頭に角があって、背中からは羽が出てて、スカートの裾から尻尾が出てるって――。おいおい、属性盛りすぎにも程があるだろ。加減しろバカ」
「加減しろバカ⁉」
殆どオウム返しするだけになりながらも、僕が抗議の声を上げると。
その反応が可笑しかったのか、ダイキは腹を抱えながら笑ってみせた。
ちなみに《学士の衣装》に限らず、僕の召喚衣装はどれも羽を出すのにちょうど良いサイズの穴が、自動的に背中に開いた状態で召喚され、着用される。
普通の服と違い、自分で背中に穴を空ける必要がないのがとても有難い。
以前は服の中に羽を収納することもできたんだけれど……。
なんだか最近は、羽のサイズが以前よりも少し大きくなってきて、服の中に羽を収納していると窮屈に感じるようになってきたんだよね。
自宅を出て、学校までの道のりを歩く。
暦が既に6月に入っていることもあって、朝方のこの時間でも気温はそれなりに高い。早く冷房が効いている教室に着きたくて、自然と僕は足早になる。
ただし足早とはいっても、それはあくまでも僕の足にとって。
8歳の女子ぐらいの体になってしまっている僕は、そもそもの歩幅が狭いから。早歩きをしていても、その歩みは遅い。
こちらに合わせて隣を歩いてくれているダイキからすれば、かなりのんびりした歩調なんだろうな。
「なんかアレだよな……。ユウキとなら普通に結婚できそう」
忙しなく両足を動かして歩いている僕を、身長差の分だけ高い視点から見下ろしながら、ダイキが――あまりにも唐突にそんな言葉を吐いた。
思わず僕の口から「はあッ⁉」と驚きの声が漏れる。
意外なほど大きな声が出てしまったことに、僕自身も驚いた。
「なっ――⁉ な、何言ってるんだよ⁉ 僕は男だぞ‼」
「いや、そうなんだけど……判ってるハズなんだけどなあ……」
ブツブツと何度もつぶやきながら、なぜか頭を抱えてみせるダイキ。
親友から急に変なことを言われて、頭を抱えたいのはこっちのほうだよ……。
なんとなく気まずい雰囲気になってしまい、そこからは特に会話もなく歩く。
やがて高校の近くにまで来ると――登校中の生徒の数が多くなって、その分だけ周囲から大量の視線が集まってくるのが判った。
内心で僕は(はあ……)と溜息をひとつ吐く。
日本人離れしたこの容姿で、しかも高校生らしからぬ幼い女児の体躯をしている以上、衆目を集めてしまうのは仕方ないと判ってはいるけれど。
正直を言って――目立つのは、未だに慣れないものがある。
そもそも僕は、根が陰キャなわけだしね……。
「おはよう、ユウキくん」
気を紛らわせるために、ダイキにゲームの話でも振ろうかと考えていると。
不意に、すぐ後ろから名前を呼ばれて、僕は振り返る。
そこには、よく見知った顔の少女が居た。
髪型はよくあるボブカットなんだけれど。特徴的なのは、目に掛かるどころか、完全に目が隠れてしまうぐらいの長さがある前髪。
オタク的に言えば『メカクレ』なのが、とても可愛い女の子。
それが――猫屋敷ハルさんだ。
「おはようございます、ハルさん」
すぐに僕からも、笑顔で挨拶を返す。
僕にとっては数少ない女子の友人で。更に言えば彼女は、僕にとって非常に貴重な『陰キャ』の仲間でもある。
アニメに漫画にライトノベルにゲームにと、オタク系趣味に全力全開な彼女は、僕にとっては非常に話しやすい友達だ。
まあ、僕はアニメと漫画に関しては、あまり詳しくないんだけれど……。
ゲームは普段からよく遊ぶから、そっちの話なら幾らでも付き合えるからね。
「あ、ダイキくんも一緒なんだね。おはよー」
「おはよう。……ん? ユウキって猫屋敷さんを、前から名前で呼んでたか?」
「ううん、呼ぶようになったのは、ここ2日ぐらいかな?」
「夢で会うようになってからだよね?」
「夢で――ああ、そういうことか」
得心したようにダイキが深く頷く。
まあ、ダイキの夢には僕が『夢魔』になって間もない頃から、分体を送り込んでいるからね。そりゃ納得もするだろう。
「ダイキくんは夢の中で普段、ユウキくんとどんなことをしてるの?」
僕の右隣に並んだハルさんが、僕越しに左隣にいるダイキにそう問いかける。
ハルさんの言葉に、ふむ、とダイキが一瞬だけ考えてみせた。
「普段はゲームを遊んでいることが多いな。スマブラとかモンハンとか」
「え、夢の中でゲームって遊べるの?」
「遊べるぞ。夢の中の世界は、それを見ている人間の思うままだからな。夢を見る本人がよく知っているゲームなら持ち込める」
「へぇー! ユウキくん今晩は桃鉄やろうよ! 桃鉄!」
「あ、はい。もちろん良いですよ」
夢の中では、それを見る人の睡眠時間と同じだけの時間を過ごすことができる。
なので桃鉄みたいに1プレイに結構時間が掛かるゲームでも、かなり遊びやすくなるのが良いところだと言えた。
「なんなら俺も参加して4人で遊ぶか?」
「え。ダイキくんもユウキくんみたいに、他人の夢にお邪魔できるの?」
「まさか。俺にそんな能力は無いよ。だがユウキにならできるんだ」
ダイキの言う通り、僕が2人の夢を繋げば、一緒にゲームを遊ぶことも可能だ。
『夢を繋ぐ』ことについて僕が詳しく説明すると。ハルさんはとても楽しそうに目を輝かせた。
「わあ……! 今までずっと『ひとりで桃鉄』モードでしか遊んだことないのに、初めて『みんなで桃鉄』を経験できるだけじゃなく、4人プレイまで⁉ こ、これはもう、脱陰キャといっても過言ではないかも……‼」
「……」
「………………」
ハルさんの言葉を受けて、僕とダイキは揃って言葉を失う。
僕と同じ陰キャだし、彼女の友達が少ないことは知っていたけれど……。
「……って、なんで4人? 3人じゃないの?」
「俺もまだ見たことはないんだが、夢を繋ぐとユウキが増えるらしいんだよ」
「増える⁉」
「あはは……」
ハルさんとダイキが同じ時間に眠ってくれれば、それぞれの夢に送り込んでいる僕の分体の力で、2人の夢を繋いで『1つの夢』にできる。
ただしそれを行うと、元々ハルさんの夢にお邪魔していた僕の分体と、ダイキの夢に送っている僕の分体とが、同じ『1つの夢』の中に共存することになるから。1つの夢の中に『僕が2人居る』という、とても不思議な状態になるのだ。
なので、まあ……桃鉄を4人でプレイすることも可能になる。
もちろんその場合参加プレイヤーは、ハルさんとダイキと僕と僕だ。
「どうする? 早速、今晩やってみるか?」
「うーん……ち、ちょっとだけ猶予が欲しいかも。いきなり最大人数の4人でプレイとなると、私の陰キャ心が持たない気がするから……」
「心が持たないって、ただ遊ぶだけなんだが……。ま、まあ判った。なら都合が良い時にいつでも誘ってくれ」
「うん、近いうちにぜひ。……とりあえずユウキくんは、今晩から私と2人プレイをよろしくね。修行して4人プレイに耐えられるようになるんだ……!」
「……うん、それはもちろん」
4人でゲームを遊ぶのって、修行が必要な行為だったっけ……?
――と、心の中で思っても、もちろん口には出さない。
その程度の分別ぐらいは、僕にもあるのだ。
「まー、あと私、ちょっと男の人が苦手だからね。ダイキくんが良い人だってことはちゃんと判ってるんだけれど。それはそれとして、いきなり同じ空間に居続けるのは……すこーし難易度が高いんだよ」
「む、そうなのか?」
「うん。今はもう離婚して一緒に住んでいないんだけれど……。私のお父さんが、何かにつけて怒鳴り散らしたり、暴力を振るう人だったから。まだ少数の男の人と同じ空間に居続けるのは、ちょっとキツいんだ。ごめんね、勝手なこと言って」
ハルさんの今の名字は『猫屋敷』だけれど、中学の頃は『笹塚』だった。
彼女の口から父親の話は何度か聞いたことがある。また僕からも過去に何度か、自分の両親について彼女に話したことがあった。
僕とハルさんは、一種の仲間意識のようなものを持っているけれど。
それはお互いに陰キャで、ゲームが好きなオタクであるというだけでなく。共に親ガチャでハズレを引いているという、境遇の一致によるところも大きい。
――あ、とは言っても、ハルさんの母親はとても良い人らしいんだけれどね。
彼女が恵まれなかったのは、あくまでも父親だけだ。
「謝る必要はない。そういう経験をすれば、誰だって暴力が怖くなるだろうさ」
「あ、ごめん、誤解させたかも。別に暴力が怖いわけじゃないんだ。ユウキくんがダンジョンで戦ってる配信も、めっちゃ食い入るように見てたし」
「……そうなのか?」
「うん」
僕の戦い方は着用している『衣装』に大きく左右されるけれど。
特に《戦士の衣装》や《神官の衣装》を着ている時は、片手剣や鎚矛を用いた、近接戦闘が主体となる。
魔物を相手にわりと泥臭く殴り合う絵面になるので、そういう部分も視聴しているようなら、確かに『暴力自体が苦手』というわけじゃないんだろう。
「結構殴られながら育ったから、暴力とかはむしろ普通の女子よりも平気なぐらいかも? なので実は、ちょっと『掃討者』にも興味があったり。
男性が苦手なのは――どっちかって言うと、生理的な嫌悪とかそっち系かなあ。お父さんが土木業で働いてたこともあって、わりと男らしい体格だったんだけど。そのせいなのか体格の良い男の人ほど苦手なんだよねー」
「……なるほど。それだと俺は、ちょっとキツいだろうな」
少し悲しげに、ダイキが苦笑混じりにそう告げた。
実家の手伝いをする関係で、部活にこそ所属していないけれど。筋トレが趣味のダイキは、下手な運動部の生徒よりも遥かに立派で逞しい体格をしている。
一般的には、それは多くの女子生徒にとって、魅力的な部分なんだろうけれど。
ハルさんの場合は逆に、嫌悪感を誘発する要素になってしまうわけだ。
「ごめんね。別にダイキくんだけ嫌ってわけじゃなく、ぶっちゃけ私にとっては、同じクラスの男子ほぼ全員が苦手だから。――例外はユウキくんだけなんだ」
「判る。ユウキはどう見ても美少女だからなあ」
「だよねー! ユウキくんはクラスのどの女子より可愛いし!」
「……まあ、ハルさんに嫌われないのは、嬉しいけどね……」
二人の言い分に、僕は少し複雑な気分で苦笑するしかなかった。
まあ、可愛いと言ってもらえること自体は、最近は素直に嬉しいんだけどね。




