59. 《お気づきにwwなられましたかww》
パネル上部の表示が『B4F』から『B3F』に変わる。
更に20秒ほど待つごとに『B2F』へ、そして目的地の『B1F』へと表示が変わっていき。ポーン♪ と小気味の良い音がした後にドアが開いた。
「おおー……」
「本当に階層間を移動できるんだねえ……」
ドアの外に見える景色は、明らかに『地下迷宮』のもの。
なので、先程まで居た『草原』の第4階層から別の階層へ移動したことが、この時点ですぐに理解できた。
また、ドアを出てすぐの位置に『第1階層』と書かれた看板も設置されていて、到着先がどこなのかがとても判りやすい。
「あ、アンタら……。もしかして、それから出てきたのか?」
エレベーターから下りた所を、左手側から急に話しかけられる。
見ればそこには、3人組の男性掃討者の人達が居た。
あんまり若くはなくて、年齢は多分40台の後半ぐらいかな?
「おいおい、人を指さしながら話しかけるもんじゃないよ?」
「おっ――と、すまない。思わずやってしまった」
「まあ、驚く気持ちはわからなくもないんだけどねえ」
慌てて手を下ろした男性に対し、サツキお姉さんが楽しげに笑ってみせる。
話を聞いてみたところ、彼らは第1階層で発見した『謎の構造物』を観察していた最中だったらしい。
これが何なのかを仲間と考えていたところ、急にドアが開いて僕たちが構造物の中から出てきたものだから。
驚きのあまり、ついサツキお姉さんを指さしてしまったそうだ。
「結局、これは一体なんなんだ……?」
「どうやらエレベーターみたいだね。実際にいまアタイたちは、第4階層からこの第1階層まで移動してきたところさ」
「「「エレベーター⁉」」」
それぞれに驚愕の表情を浮かべる、3人の男性掃討者たち。
驚くの自体は当然の反応だけれど。あまりに――3人の声が綺麗にハモっていたものだから、思わず僕は笑ってしまった。
エレベーターがどんな感じで、利用料金がどうなっていたかとか。その辺のことについて軽く説明したあと、僕たちは3人の男性と別れて地上へ戻ることにした。
エレベーターと同じ部屋に第1階層の地図看板が設置されていたお陰で、上り階段までのルートをすぐに把握できたのが有難い。
流石にもう、第1階層のパペットドッグに苦戦することはないから。さほど時間を掛けずに『石碑の間』まで戻ってくることができた。
すぐにサツキお姉さんが『石碑の間』の入口に居る自衛官の人に声を掛ける。
「外に出たいので、案内を頼めるかい?」
「承知しました。ここのコインロッカーなどにお忘れ物はありませんか?」
「使ってないんで大丈夫だね」
「僕も大丈夫です」
「そうですか。では、ご案内致します」
自衛官の人に先導されながら、階段を上がって日本銀行旧館の地下へ。
更に階段を上がり建物からも出て、最初にダンジョンへの入場手続きを行った、日本銀行の西門まで戻ってきた。
「悪いけど、ダンジョンの中でちょっとした異変を確認したんでね。情報提供だけしておきたいから、この場の自衛隊の責任者を呼んで貰えるかい?」
「異変ですか⁉ 一体何が……‼」
「ああ――別に何か危ないことが起きたわけじゃないよ。ただ、普段は見かけない変化があったから、報告しときたいだけさ」
「そ、そうですか……。判りました、少々この場でお待ち下さい」
暫くサツキお姉さんと歓談しながら待っていると。
5分ほど経った頃に、他の自衛官の人たちと違って迷彩服ではなく、ちゃんと制服を着た男性がこちらに歩いてきた。
僕たちの近くまで来ると、その男性が敬礼する。
「自分はこの日本銀行ダンジョンにて掃討者応対の任務責任者を務めております、一等陸尉の星川と申します」
「これはご丁寧にどうも。アタイたちも名乗ったほうが良いかい?」
「いえ。赤鬼殿のお噂はかねがね伺っておりますので、必要ありません。何かダンジョン内で異変を確認されたとのことですが――」
「ああ、そうさ。簡潔に言うと、ダンジョンの中に『新しくエレベーターができてた』のを確認したんで、報告しようと思ったんだよ」
「……は? エレベーターが……ですか?」
サツキお姉さんの言葉を受けて、星川と名乗った男性の目が点になる。
その反応も無理はないよなあ――と、僕は内心で苦笑した。
それからサツキお姉さんが、現在の第4階層の様子や、いつの間にか存在していたエレベーターについて。それと実際にエレベーターを利用して第1階層まで移動したことなどを、順序立てて説明していく。
元教師なだけあって、その説明はとても判りやすいもので。自衛官の星川さんは驚きを何度も繰り返しつつも、納得した様子だった。
「――詳しいところは、彼の配信を見てもらうのが良いかな」
「彼の、ですか?」
不意に、サツキお姉さんが僕の方に手のひらを向けながら、そう告げると。
自衛官の星川さんは、とても不思議そうな表情をしながら首を傾げてみせた。
「失礼ながら……彼女、の間違いでは?」
「僕、男なんですよ……」
「――なっ、なんとッ⁉」
ここまでの会話の中でも、最も露骨に驚愕の表情を浮かべる星川さん。
ある意味、予想通りの反応に……僕は軽く項垂れた。
まあ、いま僕が着ているのは《使用人の衣装》――かなり丈が短いミニスカートのメイド服なので、男に見えなくても無理はないんだけれどね……。
《wwww》
《ごめん、これは笑うww》
《まあ、そう思いますよねwww》
《そらそういう反応になるw》
《ユウキくんを見て男だと思うほうがおかしい》
《↑こんな可愛い子が女の子のわけないだろ! いい加減にしろ!》
サツキお姉さんが報告している間は、空気を読んで静かにしていたドローンが、星川さんの反応を見て途端に騒がしくなった。
盛り上がる気持ちも判らなくはないけれど……流石にちょっと失礼かも。
「うるさくしちゃって、すみません。失礼しました」
「い、いや……こちらこそ、大変に失礼なことを」
率先して頭を下げた僕に、自衛官の星川さんもまた頭を下げて応えてくれた。
星川さんから配信のURLを訊かれたので、URLの代わりに『ConTube』のチャンネルIDを回答する。
現在やっているライブ配信を終了すれば、すぐにアーカイブ化される筈だから。それを見てもらえばエレベーターの様子は確認してもらえるだろう。
「教えてくださり、ありがとうございます。――ああ、チャンネル登録者が1万人もいらっしゃるのですね。素晴らしい」
「……へっ?」
星川さんの言葉に、思わず今度は僕が驚かされた。
チャンネル登録者が1万人……?
いやいや――昨日の夜に確認した時に、チャンネル登録者数が1000人を超えていたから、びっくりしたばかりなのだ。
だというのに、たったの1日でそんなに増えている筈がない。
――そう思いながらも。
慌てて《使用人の鞄》からスマホを取り出して、自分の『ConTube』のチャンネルを確認してみると。
『チャンネル登録者数:13922人』
「えええええええええええっ⁉」
予想を遥かに上回る数字に、今日一番の大きな声が出てしまった。
1万人どころか、そろそろ1万5千人にも届きそうなんだけど⁉
《wwww》
《ああ、とうとう気づいたww》
《お気づきにwwなられましたかww》
《その驚きの顔が見たかったw》
《わりとみんなで黙ってた部分はあるww》
《まあ1日で10倍になるとは思わないよなあ》
《『未確認異能情報提供スレ』にURLが貼られてたので来ました!》
《↑自分もそこから来た》
《↑俺も俺も》
《ユウキくんの能力が特殊すぎて、情報が拡散されたのか》
《俺は『可愛い男子掃討者をみんなで愛でるスレ』から来たけど?》
《↑そんなスレあんのかww》
《↑業が深いスレだなあ……w》
《ちなみにネグリジェ着た男の娘の画像が貼られてた》
《↑それは……うん、見に来ちゃうよな……》
《↑画像貼られてんのかよ……。プライバシーに配慮して欲しいもんだ》
《画像には目線が入ってたから、多少の配慮はしてあるんじゃない?》
《↑余計にえっちな画像になってませんかね、それは》
《俺は現地でユウキくんを見て、検索したらこの配信に辿り着いた》
《↑あ、俺もそう》
《↑私もー。制服姿が可愛かったから、検索したらここに来たんだ》
《日本銀行ダンジョンは利用者多いからなあ》
《ユウキくんみたいに可愛い掃討者を見かけたら、まあ気になるよな》
ドローンがコメントを読み上げているけれど、コメントの数が多過ぎるらしく、早口過ぎて聞き取れない。
でも、それだけ沢山のコメントが来ていることからも、本当に沢山の人が配信を視聴してくれているのだけは、よく理解できたような気がした……。




