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可愛い〈衣装〉が僕の武器! ~現代ダンジョンのコスプレ攻略記~  作者: 旅籠文楽


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55/61

55. 同じに衾と書いて

週末が忙しすぎてパンクしてしまい、遅くなりました。すみません。

 



 第3階層の魔物であるアルグドールは1体討伐するごとに『95』と、充分な量の魔力をくれる。

 そんな魔物を、サツキお姉さんがバッサバッサと1人で薙ぎ倒していくわけだから、魔力の蓄積ペースはかなりのものだ。


 その様子を後ろから眺めて、心から(凄いなあ)と思うけれど。

 一方で、遭遇する魔物のことごとくを秒殺してしまうものだから……観戦していても、あまり勉強にならないのは残念なところだろうか。

 まあ、その辺はまたこのダンジョンに来た時に、実際に戦いながらじっくり学ぶことにしようと思う。


 ――というわけで、《使用人の鞄》を活用しつつ、戦闘後にドロップしたアイテムの回収役だけはしっかり担当していると。

 僕が着ているネグリジェが、唐突に蒼い光を帯びて輝いた。

 待ち望んでいた、衣装レベルがアップした演出(エフェクト)だ。


《きちゃ!》

《きちゃー!》

《おめでとうー!》

《おめでた!》


「ユー、おめでとう!」

「ありがとうございます! 早速確認してみますね」


 ダンジョンの通路に立ち止まり、ステータスカードを確認する。

 すると、ちゃんと《眠り姫の衣装》の衣装レベルが『2』にアップしていた。




+----+

《眠り姫の衣装》/異能


 【現在の衣装レベル:2】


  ・最大耐久度:300

  ・防御力  :0

  ・能力値補正:魅力+4


  ・衣装異能 :《家屋召喚》《室内保管》《強制睡眠》

         《添い寝》《生地薄化》


  ・召喚可能装備:安眠枕


 いつでも『眠り姫の衣装』を召喚して瞬時に装着できる。

 衣装レベルに応じて召喚できる家屋が立派になり、設備が充実する。


-

《添い寝》/衣装異能


 同衾した相手に一時的な能力値強化を与える。


-

《生地薄化》/衣装異能


 【ネグリジェの透明度が6%増加中】


 お姫様感がアップして[魅力]が『+4』される。

 魔物の攻撃対象になりにくくなる。


+----+




 衣装の耐久度は、一応『200』から『300』に増えているけれど。

 一方で、衣装の防御力は『0』から全く成長する様子がない。

 他の衣装だと、衣装レベルに応じてちゃんと防御力も上がるのにね。


(……これは、戦闘用に向かない衣装だと、割り切ったほうが良さそうだなあ)


 まあ衣装は幾つもあるわけだから、中にはそういうものもあるよね。


 衣装レベルを上げたい時は、今みたいに同行者に頼るしかないわけだけれど。

 代わりに安全に休める『家屋』を召喚して提供できるわけだから。戦闘で役に立てなくても構わないと、そう言ってくれる人と一緒に探索する時にだけ、この衣装は活用していくことにしよう。


 衣装レベルが上がったことで、備わった衣装異能は2つ。

 1つは《添い寝》というもので……。

 ……この漢字、なんて読むんだろ? ちょっと説明文が読めないや……。

 とりあえず、誰かに『一時的な能力値強化を与える』効果がある異能らしい。


 もう1つは《生地薄化》で……こっちもこっちで、なにこれぇ……。

 スカートの丈が短くなるとか、スリットが大胆になるとか、衣装に備わる異能の中には、ちょこちょこと変なのがあるけれど。

 多分この異能も、それ系の変なやつなんだと思う。


 衣装を着ている時に[魅力]が『+4』もされるっていうのは、数値の変化量としてはかなり大きいんだけれど。実際には、たぶん殆ど意味がないかな。

 [魅力]が高くなれば『魔法』の効果が上がるけれど、魔法は今のところ《神官の衣装》を着ている時じゃないと行使できないし。


 あ、でも『魔物の攻撃対象になりにくくなる』っていうのは嬉しい。

 この衣装を着てる時は、戦闘がほぼ人任せになっちゃうからね。

 下手に僕が魔物の注意を引き付けちゃうと、仲間に迷惑を掛けてしまいそうだから。だったら最初から狙われないほうが都合が良さそうだ。


「何か衣装に新しい能力とかは付いていたかい?」

「あ、はい。えーっと……」


 ……《生地薄化》のほうは、別に言わなくてもいいよね?

 《添い寝》についてだけ、サツキお姉さんに説明することにしよう。


「あの、すみません。ちょっと漢字が読めなくて、教えて欲しいんですが」

「うん? どんな字だい?」

「えっと、上半分が現在を示す『今』で、下半分が『(ころも)』の字になってます」

「今に衣――ああ、それは多分『(ふすま)』だね」

「よく和室とかにある、あの『ふすま』ですか?」

「………………和室向きのものではあるけれど、ユーがいま想像しているものは、たぶん違うような気がするねえ」


 そう告げながら、楽しそうに笑ってみせるサツキお姉さん。

 一旦地面に剣を置いたあと、サツキお姉さんはリュックサックからスマホを取り出し、メモ帳のアプリに実際に漢字を入力してからせてくれた。


「ユーが想像してる『(ふすま)』はこっちだね。よく押入れの仕切りになってるやつだ」

「あ、言われてみると確かに、こんな字だった気がします」

「それで、こっちも『(ふすま)』って読む漢字で、意味は……まあ、昔の日本で使われていた『掛け布団』とでも思って貰えばいいかねえ」

「なるほど、掛け布団……」


 (ふすま)という字の意味は判ったけれど。

 じゃあ『同衾』って、どんな意味の単語なんだろう?

 そもそも、読みも判らない。『どうふすま』? 『どうぶすま』?


「それで、(ふすま)がどうかしたのかい?」

「えっと……そのスマホ、ちょっとお借りしても?」

「もちろん」


 メモ帳アプリに入力されている『衾』の前に、『同』の字を入力して付け足す。

 それからスマホを返して「これでなんて読むんですか?」と問いかけた。


「ああ、これは『同衾(どうきん)』って読む熟語で――」


 そこまで回答してから、途中でサツキお姉さんの言葉がピタリと止まる。

 どうしたのかな? と思いながら表情を見確かめると、なぜかお姉さんは真っ赤に顔を染めていた。


「あー……。どうして、こんな単語を訊くんだい?」

「新しく衣装に備わった異能が《添い寝》っていうもので。その『同衾』っていうのをすると、相手に一時的な能力値強化を与えられるみたいなんです」

「へ、へぇー。ど、同衾した相手に、ねえ……」


 気のせいか、サツキお姉さんの声が、いつもより上ずっているように思える。


《『添い寝』で『同衾』……あっ(察し)》

《次回『ユウキくん喰われる』。バトルスタンバイ!》

《お姉さんには勝てなかったよ……》

《えっ、なにそれ最高じゃん》

《私とも夢の中で同衾してください!》

《俺も俺も!》

《男だが、ユウキくんとなら同衾したい》

《↑わかる》

《↑当然では?》


「……サツキ先生?」

「………………」


 顔を真っ赤にしたまま、また固まっているサツキお姉さん。

 何の応答もしなくなったお姉さんを見つめながら、思わず僕は苦笑する。


「サツキせんせー‼」

「――うおっ⁉」


 とりあえず、ぼけっとしたサツキお姉さんの意識を、大声で呼び戻した。

 これで3度目だけれど、お姉さんはダンジョンの中でいつもこうなのかな?

 魔物が棲息する場所なので、呆然とするのは危険だと思うんだけど……。


《☆貴沼シオリ:ユウキくん、ユウキくん》


「――あ、はい。なんでしょう、シオリさん」


《☆貴沼シオリ:多分サツキは恥ずかしがって口にできないのと思うので、私から説明してしまいますが。『同衾』とは、ひとつのお布団で一緒に寝ることです》


「ひとつの、お布団で……」


 思わず、僕は頭の中で、サツキお姉さんと一緒にお布団に入るところを想像してしまう。

 ……かあっと、途端に自分の顔が熱くなったように感じられた。


 そりゃサツキお姉さんも、説明の途中で言い淀むはずだ。

 というか僕は、お姉さんの口から、何を説明させようとしていたんだ……。


《☆貴沼シオリ:《添い寝》の効果は今度、一緒に試しましょうね》


「今度、ですか?」


《☆貴沼シオリ:はい。サツキの言う『ガチ探索』の時に、一緒に寝ましょうね。異能の効果を試すだけなので、何もやましいところはありませんから。ええ》


「い、一緒に……」


 そう言われると、どうしても今度は――シオリさんと一緒に、お布団に入るところを想像してしまって。

 またしても僕は顔が熱くなってくる。

 女性との交流経験に乏しい僕にとって、サツキお姉さんやシオリさんのように、綺麗なお姉さんと近すぎる距離で対峙するのは、あまりにハードルが高い。


《★『アルア・アルナ』公式:えー、いいないいな。ユウキくん、私もー》

《★『アルア・アルナ』公式:今夜を楽しみにしてるねー!》


「今夜……」


 今度はアルナさんと一緒にお布団に入るのを想像して――。

 あまりの恥ずかしさと動揺に立っていられなくなり、僕はその場で身を屈めた。


 アルナさんの夢に出る僕の分体には、どうか気を強く持って頑張って欲しい。

 うん、ホント……僕の代わりに頑張って、としか……。





 

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