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可愛い〈衣装〉が僕の武器! ~現代ダンジョンのコスプレ攻略記~  作者: 旅籠文楽


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54/61

54. ブルーリボンは必要ですか?

キーボードは無事到着して交換を行いました。

 


     [8]



 能力の確認を終えたあと、僕は再び《眠り姫の衣装》へと着替える。

 短剣を投擲することで、遠距離から安全に戦える《使用人の衣装》の衣装レベル上げは、別にいつでもできるからね。

 サツキお姉さんが積極的に魔物を倒してくれている今は、召喚できる『家屋』をより充実化するためにも、《眠り姫の衣装》の衣装レベル上げを優先したい。


 とはいえ――新たな衣装を得た意味は大きく、とても探索が快適になった。

 言うまでもなく《使用人の鞄》が召喚できるようになったからだ。

 メイド服を着ている時じゃないと、離れた位置にあるアイテムは収納できないけれど。それでも一瞬アイテムに触れるだけで即座に鞄の中に収納でき、しかも収納したアイテムによって鞄が重くならないというだけで、充分過ぎる性能だ。


 今まで荷物入れに使用していたリュックサックは、《使用人の鞄》があればもう必要ないので、中に入った荷物ごと鞄の中へ収納。

 荷物が軽い革製のショルダーバッグひとつだけとなり、とても身軽になった。

 というわけで今は、戦闘後のアイテム回収を全面的に僕が担当している。


「あっ……! サツキ先生! 金貨ですよ金貨!」

「おお、やったね」


 第1から第3階層までに生息するパペット系の魔物は現金だけでなく、討伐時に高い確率で銀貨を1枚ドロップするんだけれど。

 稀に金貨も落とすことがあることは、事前にサツキお姉さんから聞いていた。

 今回の探索では、これが初めて獲得した金貨になる。


 もしスミカさんとまた会えたら、『投資』のお礼に渡したいところだ。

 多分サツキお姉さんも、同じことを思っていることだろう。


 ……配信中だから、お互いに口には出さないけれどね。

 下手するとスミカさんの『投資』の力を、視聴者の人たちに明かしてしまうことになりかねないし。

 他人(ひと)の個人情報を安易に話す人間には、ならないよう気をつけたいところだ。


 なんてことを思っていると。不意に、サツキお姉さんのスマホが鳴った。

 別に急ぐ必要もないので、ジェスチャーで『どうぞ』とお姉さんに伝える。


 すると――自身のスマホをチェックしたお姉さんが、ぎょっと目を剥いた。

 それほど驚くような内容が書かれていたのかと、僕はちょっと訝しく思う。


「ユー。悪いけど一旦、撮影ドローンをミュートにして貰えるかい? 少し友人の話をしたいんだけど、流石に視聴者の人たちには聞かせられないからねえ」

「えっ? あ、はい。じゃあすみません視聴者の皆さん、少しの間だけミュートにさせて貰っちゃいますね」


《了解!》

《オッケーね!》

《気にせんでええでー》

《ごゆっくり!》


 ドローンに向けて「ミュートに切り替え」と告げると、所持登録者の声だと認識した全周撮影ドローンの側面に、緑色のランプが点灯した。

 この緑色のランプは、ドローンがミュートモードで稼働中なことを示すものだ。


 ミュートモード中は映像だけが配信され、音声は配信されない。

 また何を話しているか読めないようにという配慮から、ドローンに撮影される角度がやや低めのものだけになり、撮影対象の口元を映さないようになる。

 なのでこの色が点灯している間なら、気兼ねなく会話をすることが可能だ。


「ユー、多分そっちにもLINEが来てると思う」

「えっ? 僕のスマホ、鳴ってましたっけ……?」

「多分『鞄』か『家』の中に収納しちゃってるんじゃないかい?」

「――あっ!」


 言われてみれば、確かに僕のスマホはリュックサックの中で。

 そしてリュックサックはサツキお姉さんの言う通り、少し前に丸ごと《使用人の鞄》の中へ収納してしまっていた。


 慌ててリュックを鞄から取り出すと、即座に僕のスマホからLINEの受信音が鳴り響いた。

 《使用人の鞄》では収納品の時間経過を『なし』に設定していたから、収納中はデータの送受信が行われず、今になって再開されたんだろう。


 確認してみると、メッセージはスミカさんからのものだった。

 ちょうどスミカさんのことを考えていた時に、メッセージを着信していたような気がするから。噂をすれば影――ってやつなのかな。




『第1から第3階層にエレベーターとトイレを設置したから、添付した画像データで位置を送ります。良ければ帰りにでも利用してみてね。利用料はエレベーターが1階層分の移動ごとに迷宮銀貨5枚で、トイレは銀貨1枚。配信しながら使っても構わないけれど、その場合は何も知らずに利用するような演技をしてね』




「――エレベーター⁉」


 スミカさんからLINEで伝えられた内容が、あまりに驚きのものだったから。思わず僕はその場で、そう叫んでしまう。

 そんな僕を見たサツキお姉さんが、あははっと愉快そうに笑ってみせた。


「まあ、驚くよねえ。アタイも配信中じゃなければ、同じように叫んでたと思う」

「こんなの驚くに決まってますよ……。ダンジョンの中にエレベーターを設置するなんて――スミカさんには、そんなことまでできちゃうんですか」

「〈投資家〉の能力でできちゃった、ってことなんだろうねえ」


 ダンジョンがメインのRPGには、エレベーターや、あるいは同等の機能を持つ何かしらの設備が登場することが珍しくないけれど。

 でも――それはゲームの中だから、登場するのであって。

 現実のダンジョンに階層間の移動を可能にする設備があるなんて話は、今までに一度としてテレビやネットなどで見かけたことはない。

 どんなに深い場所まで潜る時も、掃討者は階段で移動するのが当たり前だった。


 だというのに、掃討者に人気の日本銀行ダンジョンにエレベーターができたなんて話題が、注目を集めない筈がない。

 この事実はすぐに掃討者の人たちに――そして各種情報メディアを介して、一般の人たちにさえ広まることになるだろう。


 それほどに、これは衝撃的で凄いニュースなのだ。

 そんな凄いことをやってのけるスミカさんに、僕は尊敬に近い気持ちを抱く。


「〈投資家〉って、凄いんですねえ……」

「いやいやいやいや⁉ ユーの〈衣装師〉も大概だからね⁉」

「えっ? そうですか?」

「そうだよ‼」


 ……そ、そうなんだ。

 自分ではあんまりそんな風に思ったことがないので、ちょっとびっくりだ。


 とりあえずスミカさんには『帰りに利用してみます。演技は上手くできるか判らないですが、なるべく頑張ってみます!』と返信を送る。

 すると、すぐに『本当は2人が無料で利用できる設定にもできるんだけど、配信のことを考えると通常通り料金を取るほうが良いと思ったので、そうしています。なので悪く思わないでね』と追加の返信がきた。


 なるほど……無料で利用できるところを配信してしまえば、どうして僕たちだけ無料なんだと、視聴者の人から突っ込まれる未来が遠からず訪れるだろう。

 それを思うと、確かに通常通りに料金を取られる方が有難い。


「銀貨って、1枚あたり幾らぐらいの価値があるんですか?」

「今の銀価格だと、大体3000円ぐらいだね」

「じゃあ第3階層から第1階層までエレベーターで移動すると3万円になるってことですね。……わりと強気な金額設定なのかな?」

「いや、それはない。エレベーターで移動時間を短縮できるぶん、3階層で狩りを行えば、数万円の追加収入ぐらいは簡単に得られるからね。むしろ価格設定が良心的すぎて、ちょっと感動しちゃうぐらいさ」

「な、なるほど……」


 確かに、現金が直接ドロップするこの日本銀行ダンジョンでなら、3万円を稼ぐのにそれほど苦労することはない。

 2階層分を徒歩で戻れば、少なくとも40分ぐらいは移動時間に費やすことになるから。その時間ぶん、狩りを余分に行えるメリットは大きいわけだ。


 それに――利用に必要なのが『銀貨』というのも良い。

 日本銀行ダンジョンでは、どの魔物を倒しても高確率で銀貨が1枚得られる。

 戦っていれば自然と貯まるものだから、それを要求されても心理的なハードルは低い。10枚払うだけで帰り道が楽になるなら、抵抗感は少ないだろう。

 トイレに関しても同様だ。トイレの利用料で3000円だと言われれば、思わず身構えそうになるけれど。「いま拾った銀貨1枚出せば使って良いよ」と言われれば、気軽に利用してしまいそうだ。


「投資のお礼として、銀貨や金貨をスミカ嬢ちゃんに手渡すつもりで居たけれど。それよりは配信しながら遠慮なく銀貨を使って、嬢ちゃんがダンジョンに設置した設備を宣伝するほうが、お礼になるかもしれないね」

「なるほど。そうかもしれないですね」


 僕の配信を見てくれている人の中には、掃討者の人も少なからず居る。

 そういう人たちに向けて『日本銀行ダンジョンにはエレベーターなどの便利な設備があるんですよ』と宣伝ができれば、利用者の増加に繋がるだろう。

 それは即ち、設備の利用料として支払われた銀貨をそのまま得ることができる、スミカさんの収入になる筈だ。


 ――うん、是非その方向で行こう。

 銀貨や金貨を『投資のお礼にあげます!』と言って差し出しても、スミカさんが受け取ってくれるかは判らないしね。

 というか――ぶっちゃけ断られそうな気も、少なからずしてたんだ。


「じゃあ、今のうちに銀貨を沢山貯めておくことにしませんか? 今後はこのダンジョン以外にも、スミカさんがエレベーターなどを設置していくのかもしれませんけれど、他のダンジョンに都合よく銀貨を落とす魔物が居るかは判らないですし」

「なるほど、それもそうだね。今のうちに稼いでおくとしよう」


 というわけで銀貨を貯めるためにも、撮影ドローンのミュートを解除したあと、僕たちは精力的に魔物狩りを再開した。

 まあ――とは言っても、《眠り姫の衣装》の衣装レベル上げも兼ねている以上、僕にできる役割は主にアイテムを拾うことだけなんだけれど。





 

サブタイの『ブルーリボン』は初代Wizardryでエレベーターを利用するのに必要なアイテムです。

(今どき誰も判らないだろと突っ込まれたので、一応…)

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― 新着の感想 ―
 狂王の試練場の地下4階の『モンスター配備センター』ですね。  何もかも懐かしい・・・あそこの忍者に首を撥ねられたのと、間違って死の指輪を装備してしまったのをおぼえている。  モバイル版の新作も楽しく…
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