52. 《ギャーッ! 可愛い! こんど写真撮らせて!》
*
魔物を狩りながら下り階段まで移動した僕たちは、そのまま日本銀行ダンジョンの第3階層へ進んだ。
ダンジョンの深い場所で魔物を討伐するほうが、より多くの魔力を集めることができ、僕が着ている衣装のレベルアップも早くなる。
どうやらサツキお姉さんには、僕がいま着ている《眠り姫の衣装》の衣装レベルを上げることで、召喚する『家屋』に追加されて欲しい設備があるらしい。
「お風呂とまでは言わないにしても、やっぱりシャワーぐらいは利用できると、ダンジョン探索の拠点として快適度が増すと思うんだよね」
「あ、それはそうですよね」
この辺りに出てくる魔物なら、サツキお姉さんは簡単に対処できるけれど。
そう遠くないうちに行くことになる『ガチ探索』では、レベル20近辺の魔物をメインに狩る予定らしいから。
そのぐらいの強さの魔物を相手に戦闘を重ねれば、汗も掻くことになるだろう。
なので女性であるサツキお姉さんが家屋に『シャワーが欲しい』と考えるのは、ある意味で当然の欲求だと言えた。
もちろん男である僕としても、召喚した家屋でシャワーが使えるなら、そのほうが嬉しいのは言うまでもない。
「キッチンや小さい冷蔵庫が付いたぐらいですし、衣装レベルがもう1つか2つ上がれば、シャワーぐらいの設備は追加されてもおかしくない気がしますね」
「だろう? なので、ちょっと強引にでも今のうちに《眠り姫の衣装》のレベルを上げてしまいたいんだ。魔物は全部私が狩るから頼むよ」
「はい。僕としては願ったり叶ったりですので」
わざわざ魔力を稼がせてくれるというのだから、断る理由はない。
魔力を得られれば、衣装だけでなく僕自身のレベルも上がるしね。
「もし本当にシャワーが付いたら、そこからは僕の戦闘指導もやってくださいね」
「ああ、もちろんだとも。そもそも本来の目的はそっちなんだしね」
雑談を交わしながらも、サツキお姉さんが魔物をスパスパと斬り捨てていく。
サツキお姉さんが振るう大剣は切れ味が良過ぎるから、まるで鉈で大根でも切り落としているかのよう。
それぐらいに気持ちよく、スパスパと魔物の身体が斬られていく。
ちなみに、第3階層に入ってから新登場している魔物は『アルグドール』。
これまでに登場したパペットドッグやウッドパペットと同じく、木製人形のような身体を持つ魔物で、その姿は爬虫類のワニによく似ている。
パペットドッグとは異なり、ちゃんと開閉する口を備えているため、最も脅威となるのは噛みつき攻撃。
咬合力――『噛む力』は本物のワニにも匹敵するぐらい強いらしく、うっかり噛まれようものなら、腕や足に甚大なダメージを負うこともあるとか。
ただ、幸い本物のワニのように鋭い牙が生え揃っているわけではないので、噛まれたからといって即座に致命傷になることは少ないようだ。
もちろん足に怪我を負わされた結果、回避できなくなって何度も噛まれて――みたいな形で命を落とすことは、普通にあるらしい。
――とはいえ攻撃力が高くても、今はあまり関係がない。
結局はサツキお姉さんが振るう大剣に、簡単に斬り捨てられるだけだしね。
なお、アルグドールのレベルは『7』で、討伐すると1体につき『95』点もの魔力を得ることができるそうだ。
これはパペットドッグに較べると実に8倍、ウッドパペットと較べても2倍以上の魔力量になる。
そんな魔物をスパスパとサツキお姉さんが倒していくわけなので――。
「――わっ」
せめて自分にできる作業ぐらいはしようと、魔物が落としたアイテムを僕が積極的に拾い回っていると。
唐突に――僕の身体が強く光り輝いた。
いつものレベルアップの演出だ。
これで今日だけで、なんと3度目ものレベルアップになる。
日本銀行ダンジョンって、お金だけじゃなく魔力もかなり稼げるなあ……。
《おめ!》
《めでた!》
《おめでとう!》
《オメデタ!》
「おっと――衣装よりも先に、ユーのほうがレベルアップしちゃったかい」
「あはっ、期待したほうじゃなくてすみません」
「いやいや、こっちもこっちで期待してるとも。新衣装はなんだい?」
「確認してみますね」
ステータスカードを取り出して、記されている情報をチェックしてみると。
……うん、今回もちゃんと『衣装』が追加されていた。
レベルアップごとに1つ衣装が追加されるのは、確定なのかな?
+----+
タカヒラ・ユウキ
夢魔/17歳/男性
〈衣装師〉 - Lv.5 (7829/13230)
[筋力] 4+4
[強靱] 4+4
[敏捷] 12+2
[知恵] 9+2
[魅力] 14+2
[幸運] 10+2
精気:404
-
◆異能
[夢魔][夢渡り]
《衣装管理》《戦士の衣装》《神官の衣装》《学士の衣装》
《眠り姫の衣装》《使用人の衣装》
◇スキル
〈剣術Ⅰ〉〈棍棒術Ⅰ〉〈盾術Ⅰ〉
+----+
今回増えた能力値は……たぶん[魅力]と[幸運]かな?
ドロップアイテムに影響する[幸運]が上がったのは、正直かなり嬉しい。
戦闘に参加してなくても、この能力値は意味があるだろうからね。
新しく追加された衣装は《使用人の衣装》というもの。
……使用人って何だろ? 『使う人』って意味? ……何を?
「サツキ先生。『使用人』って何ですか?」
とりあえず、判らないことはサツキ先生に聞いてみるに限る。
間違いなくスマホで検索するよりも、判りやすく教えてくれそうだしね。
「ああ……意外と学校では教わりにくい単語かもしれないね。『使用人』ってのは一般的な意味で言えば『従業員』と同じかな。特定の個人とかお店とか企業とかに雇われて、労働の対価として給料を受け取る人ってことだね」
「なるほど……。新しい衣装は《使用人の衣装》らしいんですが」
僕がそう告げると。
サツキお姉さんは、顎に手を当てて「ふむ……」と少し考えてみえた。
「なんとなくだけど――それは『家事使用人』を指すもののような気がするね」
「……家事使用人?」
「特定の家に雇われる人のこと。つまり執事とか侍女とか、そういうヤツさ」
「なるほど……」
サツキお姉さんの説明に、僕は得心する。
と同時に――《使用人の衣装》がどんな衣装なのか、すぐに察しがついた。
「これで『執事』のほうの衣装だったら、びっくりなんですが……」
「まあ、ほぼ間違いなくそっちじゃないだろうね……」
僕が漏らした言葉を聞いて、サツキお姉さんが苦笑しながらそう告げる。
――女物っぽい白銀の鎧、シスター服、女子生徒の学生服、そしてネグリジェ。
これまでの衣装傾向からして――どう考えても、ここで急に『男物』の服が出てくるはずもない。
となれば、否応なしに予想はつくというものだ。
「まあ、可愛い服は普通に好きですけどね。――《使用人の衣装》!」
宣言と同時に、僕が身につけている服が一瞬で全く別の衣装へ変化する。
案の定というべきか――それは一目で『メイド服』と判る格好だった。
フリフリが多いエプロンドレスで、頭にはしっかりヘッドドレスも付いている。
――っていうか、メイド服なのにスカート短すぎない⁉
膝丈ぐらいだった《学士の衣装》よりも遥かに短いので、正直結構恥ずかしい。
多分、膝上20cmぐらいはありそうな気がする……。
《★『アルア・アルナ』公式:ギャーッ! 可愛い! こんど写真撮らせて!》
《★『アルア・アルナ』公式:っていうかユウキくんメイド服似合いすぎ!》
《★『アルア・アルナ』公式:創作意欲湧いてきた! 今からメイド服作る!》
《★『アルア・アルナ』公式:今度お店に来た時に着てね! 撮らせてね!》
《☆貴沼シオリ:私にも撮らせて下さい。待ち受けにします》
怒涛のように書き込まれたアルナさんからのコメントを、読み上げるドローン。
なぜか今の僕の格好は、アルナさんの琴線に触れるものがあったらしい。
……まあ、可愛い服なのは間違いないし。
こういう服を『似合う』って言ってもらえるのは……なんだか、とても嬉しい。
「えっと、サツキ先生」
「………………」
「サツキ先生?」
呼びかけてみても、反応がないサツキお姉さん。
どうやらサツキお姉さんには、定期的にフリーズする癖があるようだ。
「サツキせんせーい‼」
「――うおっ⁉ な、なにかな?」
「いまの僕の格好って、サツキ先生から見ても似合ってますか?」
「超似合ってる。好き。お持ち帰りしたい。結婚しよ」
「そ、そうですか……」
サツキお姉さんの口から、予想以上に熱い言葉が飛び出したものだから。
かあっと、僕は自分の顔が一気に熱くなっていく思いがした。
ま、真顔で――そういう恥ずかしいことを言うのは、ズルいと思います。
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ローファンタジー日間17位、週間11位、月間12位に入っておりました。
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