表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
可愛い〈衣装〉が僕の武器! ~現代ダンジョンのコスプレ攻略記~  作者: 旅籠文楽


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/61

50. ガチ探索のお誘い。

 


     [7]



 魔物に対してサツキお姉さんが構える剣は、どう見ても片手用の剣ではない。

 サツキお姉さんの身長と同じぐらいの長さがあり、ちょっとした盾のように太くもある刀身は、明らかに両手で支えるべき重量のもの。

 けれど――それほどの大きさの両手剣を、サツキお姉さんはいとも簡単に片手で持ち、そして片手の力だけで魔物に対して素早く振るう。


 その度にスパッと気持ちの良い音を立てて、ウッドパペットやパペットドッグの身体が真っ二つになる。

 木製の人形と言えど、身体を二つに切り裂かれれば無事では済まない。

 サツキお姉さん相手に魔物が3体で襲い掛かってきても、全ての個体が光の粒子へ変わるまでに、ものの10秒と掛からなかった。


(凄い……)


 その光景を間近で見た僕は、トップランク掃討者の一人であるサツキお姉さんの凄さに、ただただ圧倒されるばかりだ。

 ――身体が震える。僕もかくありたいと、そう思った。


「とっても格好いいです、サツキ先生!」

「そ、そうかい? そう言われると、なんだか照れるねえ」


 僅かに顔を赤らめながら、サツキお姉さんが指先でポリポリと頬を掻く。

 戦闘中の、鋭い目つきで凛としたお姉さんも好きだけれど。こうして戦闘の合間に見せてくれる、表情豊かなお姉さんも大好きだ。


「それにしても……。ユーのその枕も、地味に凄いよねえ……」

「あ、あはは……」


 途中で魔物が僕のほうに向かってきた時には、試しに召喚した『安眠枕』で迎撃しているんだけれど。

 なんと、この枕をぶつけると、大きな木製人形であるウッドパペットやパペットドッグでさえ眠る(・・)


 その場で体勢を崩して全く動かなくなるのだ。

 そうなればもちろん、すぐにサツキお姉さんの剣で真っ二つにされ、起きることもなく消滅することになる。




+----+

《強制睡眠》/衣装異能


 安眠枕をぶつけた相手を強制的に『睡眠』状態にする。

 この攻撃は『睡眠』の耐性を無視する。


+----+




 異能の説明文にもある通り、僕が安眠枕をぶつけた相手は、耐性を無視して強制的に『睡眠』状態になる。

 サツキお姉さんの話によると、パペット系のような人工物の姿をした魔物には、本来は大半の状態異常が効かないらしいんだけれど。

 どうやら僕の安眠枕は、そんな相手にさえ効果を発揮してしまうらしい。


 なお『ぶつける』ことさえできれば効果があるので、手に持った安眠枕で魔物を殴るのでも、あるいは枕を投げて魔物に命中させるのでも良い。

 個人的には枕投げ感覚でやれる後者のほうが好きかな。

 ウッドパペットにしてもパペットドッグにしても、こちらに向かってまっすぐに迫ってくるから、枕投げで迎撃するのも簡単だしね。


 ただ、ひとつだけ注意しておきたいこともあって。

 それは――もし安眠枕をぶつけてしまえば、サツキお姉さんだって眠らせてしまうだろう、ということだ。

 《選別射撃》の異能で保護されている銃と違って、安眠枕は『味方には命中しない』みたいな効果がないからね。


 戦闘中に一番気をつけるべきなのは、絶対に味方に当てないこと。

 なのでサツキお姉さんを枕投げで援護しようとか、そういうことは考えない。

 うっかりサツキお姉さんを眠らせるようなことがあれば、逆にピンチに追い込んでしまうかもしれないからね。

 あくまでも安眠枕は、自衛にのみ使うべき武器だと思っておこう。


 ――というわけで、第2階層でのサツキお姉さんの無双っぷりを、何戦か見守っていると。

 程なく、僕が着ているネグリジェが、蒼い光を帯びて輝いた。

 早くも《眠り姫の衣装》の衣装レベルがアップしたことを示す演出だ。


《きちゃ!》

《おめでとー!》

《おめでとう!》


「ありがとうございます! さっそく確認してみても?」

「いや、確認するならこの先にある小部屋まで移動してからにしよう。どうせなら建物も召喚してみたいだろう?」

「あ、それはそうですね」


 というわけで小部屋まで移動してから、まずステータスカードを確認する。

 すると、ちゃんと《眠り姫の衣装》の衣装レベルが『1』にアップしていた。




+----+

《眠り姫の衣装》/異能


 【現在の衣装レベル:1】


  ・最大耐久度:200

  ・防御力  :0


  ・衣装異能 :《家屋召喚》《室内保管》《強制睡眠》


  ・召喚可能装備:安眠枕


 いつでも『眠り姫の衣装』を召喚して瞬時に装着できる。

 衣装レベルに応じて召喚できる家屋が立派になり、設備が充実する。


+----+




 《眠り姫の衣装》の最大耐久度が『100』から『200』にアップ。

 多少はマシになったけれど……他の衣装に較べると、やっぱりこの衣装の耐久度は低めのようだ。

 まあ、ネグリジェは生地が薄手だし、これは仕方がないんだろうね。


「どうだい、ユー?」

「召喚できる武器は、相変わらず枕だけみたいです。他には……異能がひとつだけ増えていますね。《室内保管》というものです」


 その単語を注視すると、すぐに詳しい説明がカードに表示された。




+----+

《室内保管》/衣装異能


 家屋を送還しても室内の状態が維持されたままになる。


+----+




「……?」


 ――のだけれど。

 説明文を読んでも、いまいち効果が僕には理解できなかった。


「どうしたんだい? 首を(かし)げちゃってるみたいだけど?」

「説明文を読んでもよく判らなくて……。『家屋を送還しても室内の状態が維持されたままになる』らしいんですが、これってどういう意味なんでしょう?」

「へえ? それは面白そうだね」


 僕には判らなかったものが、サツキお姉さんには即座に理解できたようだ。

 すぐにお姉さんが、僕にも判るよう噛み砕いて説明してくれる。


「つまりユーが家屋の中に置いておいたものが、一度家屋を送還して消しちゃっても、また再召喚した時にはちゃんと置いてあるってことさ」

「……えっと、つまり。部屋に本棚を置きたいなーと思ったら、僕がニトリとかで買ってきて召喚した家屋に設置すれば、再召喚する度に設置された状態になっているってことですか?」

「うん、そう考えて良いと思うよ」

「なるほど……」


 例えば、休憩所として使うならやっぱりコタツがあるといいよね――って、僕が思うなら、家具屋で買ってきて置いておくこともできるってわけだ。

 それは――ちょっと楽しいかもしれない。

 召喚できる家屋を、自分の居心地の良い空間にアレンジできるってことだよね?


「いや。多分コレって、ユーが思ってる以上に凄い能力だと思うよ?」

「……え、そうなんですか?」

「例えば私も配信を見ていた、前回の両国国技館ダンジョンの探索を思い出して欲しいんだけれど。あの時にユーが狩っていた魔物の『ヤケイ』は、様々な部位の肉とか卵をドロップするから、すぐに荷物がいっぱいになっていたよね?」

「そうですね。なので『石碑の間』まで戻って、コインロッカーに一旦荷物を預けてから、また潜ったりしていました」


 ヤケイの落とすアイテムは、ほぼ全てが肉や卵などの生鮮品。

 なのでドロップ品は基本的に、ゴムボール状の膜に包まれた状態で手に入る。

 そのお陰で、新鮮さが保たれるわけだけれど……。


 このゴムボール状の膜って、すっごく嵩張(かさば)るんだよね。

 なのでヤケイのドロップアイテムをしっかり回収していると、リュックサックが満杯になるのはとても早いんだ。


「あの苦労を、もうしなくて良くなるんじゃないかい?」

「……? どうしてですか?」

「だって、嵩張る荷物は全部、召喚した家屋の中に置いておけば良いじゃないか。送還しても消えたりしないし、再召喚すれば取り出せるんだからさ」

「……‼」


 お姉さんの言葉に、僕は目からウロコが落ちる思いがした。

 な、なるほど――言われてみれば、確かにそうだ。


 室内の状態が保存されるなら、荷物を一時的に置いておくことも可能。

 つまり僕は、建物ひとつ分の『倉庫』を、常に持ち歩けるようなものだ。

 いかに嵩張るゴムボールであっても、プレハブ小屋を丸ごと倉庫に使えば、ほぼ無尽蔵に収納しておくことができるだろう。


「えっ……。じゃあコレ、かなり凄くないですか?」

「だからそう言ってるじゃないか」


 今更ながら実感した僕に、サツキお姉さんが楽しげに笑ってみせる。

 なにしろ――建物1軒分の収納力だ。

 僕ひとりだけじゃなく、パーティ全員の荷物を全て置いておくことだって、簡単にできちゃうんだろう。


「とりあえず、その肝心の『家屋』がどうなってるか、ぜひ見せておくれよ」

「あ、それもそうですね。いま出します!」


 すぐに小部屋の隅に向けて、僕は《家屋召喚》を実行する。

 すると出現した建物は――相変わらずプレハブ感のある小屋のままではあるんだけれど。明らかにサイズが今までよりも、ひとまわり大きくなっていた。


《おっきくなってる!》

《1.5倍……とまではいかないけど、大きくなってるね》

《窓も大きくなってるな》

《↑相変わらず、こっち側からは黒い窓にしか見えないけどな》

《天井も少し高くなってる?》

《たぶん床の基礎と、天井の厚みが増えてるな》

《↑そうだね、プレハブのままだけど頑丈になってる》


「衣装レベルが1つ上がるだけでも、結構変わるもんだねえ」

「と、とりあえず入ってみましょうか」

「そうだね。お邪魔させて貰うよ」


 というわけで、さっそくお姉さんと一緒に家屋内に入ってみると。

 室内の様子は……外見以上に、大きく様変わりしていた。


 まず、根本的に間取りが変わっていて。

 以前は6畳一間のワンルームだったのが、今では『1K』になっていた。


 そう――狭いけれど、独立したキッチンがあるのだ。

 流し場(シンク)があり、一口だけだけれどコンロがある。

 もちろん蛇口を捻れば水が出るし、コンロも普通に火が点けることができた。


「わ、()っちゃいけど備え付けの冷蔵庫もある!」

「もう普通に住むことができそうだねえ」


 物を保管しておけるんだから、当然、冷蔵庫に食品を入れたままにしておくこともできるわけだ。

 予め食べ物と飲み物を用意しておけば、1泊や2泊は何の不都合もなくできそうな気がする。

 流石にそれ以上の日数に渡って泊まるようだと、お風呂とか洗濯機とか、その辺の設備も欲しくなるところだけどね。


《いいなあ……この能力を使ってキャンプを楽しみたい》

《キャンプ場にプレハブ小屋召喚かよ》

《ここに泊まったらキャンプ感ゼロだろ……》

《ある意味、キャンピングカーに感覚は近いか?》

《いや、それはどうだろ……》


「……おっと。魔物がこっちに近づいてきてるね。2体だ」

「えっ、大丈夫なんでしょうか?」

「それを今のうちに確認しておくべきじゃないかい?」


 ――確かに、それはそうだ。

 あくまでも僕の衣装の能力は、ダンジョン探索のためにあるもの。

 召喚した家屋が魔物の攻撃にどれぐらい耐えられるのかなどを、今のうちに確認しておかないことには。本格的にダンジョンの中で『休む』ための場所として、活用することは難しい。


 というわけで、とりあえずは窓から外の様子を窺うことに。

 外から見ると不透明な黒い窓は、やっぱり室内から見ると透明で、外部の様子を問題なく見渡すことができた。


 その場で2~3分ほど待っていると、程なく大股で闊歩しながら、2体のウッドパペットがやってくる。

 小部屋に入った後に、ウッドパペットたちが周囲を軽く見回す。

 石造りのダンジョンの中に設置されているプレハブ小屋は、きっと酷く違和感のあるものとして魔物の目に映ることだろう。


 ――と、そう思ったんだけれど。

 意外なことに、ウッドパペットは僕たちが居るプレハブ小屋など気にも留めず、そのまま歩いて小部屋から過ぎ去ろうとしていた。


「……魔物は小屋を、攻撃対象にはしないようだね」

「そう、みたいですね……?」


 魔物は人間を見れば、問答無用で襲いかかってくる危険な生物。

 なんだけれど……建物は人間ではないから、攻撃対象にならないってこと?


 もしそうなら、建物に出入りする所さえ見られなければ、ダンジョン内でも安全が確保できそうな気がする。

 外側から見ると窓ガラスが黒くなるせいで、外部から建物の中に人間がいるかどうかなんてことは、魔物には判らないだろうからね。


「……ユー。今度よければ、ダンジョンのガチ探索に付き合って貰えないかい?」

「へっ、ガチ探索……ですか?」


 サツキお姉さんのその申し出は唐突で、しかも非常に意外なものだった。





 

-

ローファンタジー日間11位、週間10位、月間14位に入っておりました。

日間総合の293位にも入ってました。


いつも応援くださり、ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ