表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
可愛い〈衣装〉が僕の武器! ~現代ダンジョンのコスプレ攻略記~  作者: 旅籠文楽


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/61

48. 《えっちだ……》

 



 とりあえず、ウッドパペット3体を相手にもう1戦。

 サツキお姉さんよりも大きいウッドパペットの体躯は、もちろん脅威ではあるんだけれど。

 僕が足を使って上手く立ち回れば、身体が大きいぶん魔物同士でお互いの身体が邪魔になるので、魔物が3体居てもその内の1~2体に攻撃させないようにすることは難しくない。


 レベルアップやスミカさんからの投資で[敏捷]が増えているお陰なのか、かなり素早く、そして自分が頭の中で思った通りに身体を動かすことができる。

 なので動きが単純なウッドパペットぐらいなら、もう苦戦することはない。


 立ち回りと回避を最優先にしながら、隙をついて鎚矛(メイス)を相手の顔面に叩き込んでいく。

 身長差が激しいので、最初は相手の頭なんて全然狙えなかったんだけれど。

 すっかり近接戦闘に慣れてきた今では、小柄な僕を狙ってパンチを振り下ろしてきた時にそれを回避し、低い位置まで来た相手の顔面を狙って鎚矛(メイス)叩き込む、なんてこともスムーズにできるようになっていた。


 数の不利があるうちは、無理をせず回避からのカウンター攻撃を主体に。

 3体のうち2体を倒したあとは、積極的な攻撃に切り替えていく。


 まず相手の膝を狙って鎚矛(メイス)を振るい、攻撃で体勢を崩してから頭部への攻撃を叩き込む。

 ウッドパペットの身体は木製で固いけれど、関節部の膝へのダメージには弱いからね。膝に一撃加えれば、簡単に体勢を崩せるのだ。


「うーん、上出来! だいぶ慣れてきたねえ」

「ありがとうございます!」


 戦闘後にサツキお姉さんから掛けられた称賛の声に、僕も笑顔で答える。

 地面に落ちた、ドロップアイテムの千円札を拾っていると――不意に、僕の身体が強く光り輝いた。


 恒例のレベルアップの演出(エフェクト)だね。

 これで4度目だけれど、やっぱり何度経験しても変わらず嬉しい。


《オメデタ!》

《おめでとう!》

《おめでとー‼》

《おめ!》


「おめでとう、ユー。さーて楽しみだね……!」

「な、なんだか、僕自身よりも楽しみにしてませんか?」


 レベルアップにテンションが上がり、楽しげな笑顔を浮かべるサツキお姉さん。

 その様子を見て思わず苦笑しちゃうけれど。もちろん僕も楽しみにはしている。


「ちょっと確認しますね」

「もちろんだとも」


 お姉さんにそう断った上で、僕はステータスカードを取り出す。

 ……うん、やっぱり今回も新しい『衣装』が増えているみたいだね。




+----+

タカヒラ・ユウキ

 夢魔(サキュバス)/17歳/男性


  〈衣装師〉 - Lv.4 (4135/7800)


  [筋力]  4+4

  [強靱]  4+4

  [敏捷] 12+2


  [知恵]  9+2

  [魅力] 13+2

  [幸運]  9+2


  精気:397


-

異能(フィート)


 [夢魔][夢渡り]

 《衣装管理》《戦士の衣装》《神官の衣装》《学士の衣装》

 《眠り姫の衣装》


◇スキル


 〈剣術Ⅰ〉〈棍棒術Ⅰ〉〈盾術Ⅰ〉


+----+




 えっと……。今回増えた能力値は、たぶん[敏捷]と[知恵]かな?

 [敏捷]は高くなればなるほど素早く動けるようになり、手先の器用さなども上がるらしいので、この能力値が伸びるのは嬉しいところ。

 ウッドパペットを相手にした戦闘も、これまで以上に楽になりそうだ。


 [知恵]は『魔術』に影響する能力値らしいんだけれど、僕が《神官の衣装》を着ている時に行使できるのは『魔法』であって魔術ではないので、あまり戦闘では役に立たないかもしれない。

 とはいえ、現在では各国の研究により[知恵]が高いほど記憶力や計算力などに優れることが判っているから。掃討者としてはともかく、『学生』の僕としては、こちらも間違いなく増えて嬉しい能力値だ。


 ――で。

 問題は新しく追加された衣装なわけだけれど……。


「……増えたのは《眠り姫の衣装》って言うらしいです」

「ほほう? 眠り姫と言えば、有名な童話を連想するねえ」


 『眠り姫』と聞いて連想するのは、なんと言っても『眠れる森の美女』。

 なんだろうけれど……あんまりどんな話だったか覚えてないなあ。


 記憶にあるのは、王子様のキスでお姫様が目覚めるとか、そのぐらい?

 眠りに落ちた経緯とか、何の童話集に収録されているものだったかとか、その辺のことは殆ど覚えていなかった。


「とりあえず着替えてみますね。――《眠り姫の衣装》!」


 宣言と同時に、僕が身につけている服が一瞬で全く別の衣装へ変化する。


 ピンク……よりはやや薄めの、薄ピンク色の衣服だ。

 キャミソールとスカートがひと繋ぎになったようなワンピースの衣服で、随分と滑らかで肌触りが良い生地でできている。


 薄手の生地で通気性も高そうなので、お風呂上がりとかに着るのに良さそう。

 あるいは、寝間着とかにも向いてそうな気がする。


「………………」

「……あ、あの、サツキ先生?」


 僕を見つめながら、顔を真っ赤にして、固まってしまったサツキお姉さん。

 何度か名前を呼んでみるけれど、どこかぼーっとしていて、反応してくれない。


《これは可愛い》

《あっ、あっ、あっ……》

《ありがとうございます! ありがとうございます!》

《これが『尊い』という感情か。完全に理解した》

《破壊力が、高い……!》

《えっちだ……》

《あまりの可愛さに、赤鬼が天に召されかけておられる》

《ユウキくんに誘惑されたら堕ちる自信がある》

《いや、この可愛さで甘えられたら誰でもイチコロだろ》

《正気度で抵抗してください》

《抵抗不可能なロールを振らせるのはやめたまえ!》


 なんだかよく判らないコメントも多いけれど、なんとなく配信を視聴してくれている人たちから、好評であることだけは伝わってきた。

 うーん、ダンジョンの中だと鏡がないから、いま自分がどういう恰好をしているのか、イマイチよく判らないんだよね……。

 またサツキお姉さんに、スマホで撮って貰おうかな。


「サツキせんせー‼」

「――うおっ⁉」


 ぼけっとしたサツキお姉さんの意識を、再び大声で呼び戻す。

 それから今回もサツキお姉さんのスマホで、僕の全身姿を撮ってもらった。


「お、思った以上に薄手の服ですね……」

「いわゆる『ネグリジェ』ってヤツだね」

「ああ、これがそうなんですね」


 ネグリジェって、名前はもちろん聞いたことがあるけれど。

 具体的にどういう服を指す言葉なのか、僕は知らなかったから。自分を撮影した画像を見ながら、なるほどと今更ながらに納得した。


「ネグリジェって英語ですか?」

「フランス語だね。『だらしない』を意味する『Négligent(ネグィリジェン)』が語源」

「だ、だらしない……」


 そこまでだらしない服装ではないと思うんだけど……。

 いやでも、この格好で街中を歩いたりするのは、流石に恥ずかしいかな?


「スマホありがとうございました。画像は消しちゃってください」

「いまクラウドサービスにバックアップも取ったよ」

「そ、そうですか……」


 男がネグリジェ着てる画像に、保管するほどの価値はないと思うんだけどなあ。

 あ、でもオモシロ画像の一種として、ネタにはなるのかな?


《ゆずってくれ、たのむ!》

《画像をください! なんでもしますから!》

《★『アルア・アルナ』公式:こんど会った時に撮らせてね!》

《☆貴沼シオリ:私も撮らせてください》

《うっ……。夢の中で写真は撮れない……!》

《せめて脳内に焼き付けるので、夢の中で着てください!》

《だからその『夢の中』ってのはなんなんだ?》

《↑配信を最後までちゃんと見ような!》


「あはは……。夢の中の僕へのお願いは、夢の中でしてくださいね」

「それで、ユー。その衣装では何ができるんだい?」

「あっ、そうでした。それを確認しないとですよね」


 前回と同じく、今回もサツキお姉さんの言葉にハッと気付かされて。

 僕は慌てて、ステータスカードに書かれた《眠り姫の衣装》という文字列を注視して、その詳細を知りたいと心の中で念じる。

 すると今回も、ちゃんと衣装の詳しい情報がカードに表示された。




+----+

《眠り姫の衣装》/異能


 【現在の衣装レベル:0】


  ・最大耐久度:100

  ・防御力  :0


  ・衣装異能 :《家屋召喚》《強制睡眠》


  ・召喚可能装備:安眠枕


 いつでも『眠り姫の衣装』を召喚して瞬時に装着できる。

 衣装レベルに応じて召喚できる家屋が立派になり、設備が充実する。


-

《家屋召喚》/衣装異能


 魔物が侵入できない家屋を召喚、または送還する。

 送還は他の衣装を着用している時でも行うことができる。


-

《強制睡眠》/衣装異能


 安眠枕をぶつけた相手を強制的に『睡眠』状態にする。

 この攻撃は『睡眠』の耐性を無視する。


+----+




 詳細を見た僕は、まず服の耐久度の低さが気になった。

 《眠り姫の衣装》の耐久度はたったの『100』しかない。

 他の衣装は初期状態でも『200』か『300』の耐久度があった筈なので、これはぶっちぎりで低い数値だ。

 まあ、ネグリジェはとても薄手の生地で出来ているから。耐久度が低くても仕方ないのかな、とも思ったりはするけれど。


 衣装の異能は《家屋召喚》と《強制睡眠》の2つ。

 《家屋召喚》は文字通り家屋(かおく)を召喚する異能らしい。

 《強制睡眠》はこの衣装を着ている時に召喚できる『安眠枕』という武器をぶつけることで、魔物を強制的に眠らせる効果がある異能のようだ。


「なんか『家屋』が召喚できるらしいんですけれど……」

「カオク? 『(いえ)』に屋根の『()』と書いて『家屋(かおく)』かい?」

「はい、それで合ってます」


《家を召喚するのか?》

《危険なダンジョンの中で?》

《魔物にすぐ壊されそうな気がする》


「一応、説明には『魔物が侵入できない家屋を召喚する』と書いてありますね」

「ふむ……? 魔物から身を守れる、安全な場所を作れるってことかね?」

「あ、もしそういうのだったら便利ですね」


 今は魔物を探知できるサツキお姉さんが居るから大丈夫だけど。

 単身(ソロ)でダンジョンに潜っている時には、なかなか気が休まらないものがあったから。もし安全な空間をいつでも用意できるなら、とても便利に活用できそうだ。


《見たい見たい》

《やってみて!》


「アタイも見てみたいねえ」

「判りました、やってみますね。あ――でもここは少し狭くないですか?」


 現在、僕たちが居るのはダンジョン内の大部分を占める、普通の通路だ。

 一応ここ日本銀行ダンジョンの通路は、他のダンジョンよりも通路幅が広めではあるんだけれど。とはいえ、流石に家屋を設置できるほどとも思えない。


「ちょっと前に小部屋があった筈だよね。そこまで戻ってみようか」

「あ、そうですね。そうしましょう」


 というわけで、徒歩で少し前に居た小部屋にまで戻る。

 幸い魔物と遭遇しなかったので、2分ぐらいで到着できた。


「それじゃ、やってみてくれるかい」

「判りました、ちょっと待って下さいね」


 頭の中で《家屋召喚》という単語を強く意識すると――。

 家屋の床面積に等しいものと思われる青色のシルエットが、ダンジョンの地面に投影された。

 シルエットの位置は自在に移動可能で、要はこれを見て空間内のどこに家屋を設置するかを決められるらしい。


 シルエットのサイズは……6畳間よりも一回り大きいぐらいかな?

 とりあえず邪魔にならないよう、小部屋の隅にシルエットの位置を移動する。


(――ここで設置します!)


 僕がそう意識すると同時に、シルエットがあった位置に建物が出現した。


 見た目は……完全に『プレハブの小屋』みたいな感じの家屋だ。

 家屋の高さが2.5メートルぐらい。意外と高めで、背の高いサツキお姉さんでも頭をぶつけずに中に入れそうに思える。


「なんだかすぐに、魔物に壊されそうな外見だねえ」

「確かに……」


 木目調の壁は、そんなに厚みが無さそうに思える。

 ウッドパペットの攻撃に、何度かは耐えられるかもしれないけれど。

 10発、あるいは20発と殴られ続けたなら、あっさり壊されそうだ。


 ……まあ、仮に壊されたとしても。

 今までの衣装で活用していた召喚武器と同じように、家屋も再召喚すれば元の状態に戻りそうな気はするけどね。


《こういうのでも、買ったら意外とするんだよな》

《中古でも50万ぐらいはするね》


「え、そんなにするんですか?」


 ドローンが読み上げるコメントを聞いて、僕は驚かされる。

 プレハブって安そうなイメージがあったけれど……中古でもそんなにするんだ。

 50万円と聞いちゃうと、なんだかとても価値がありそうな異能に思えてきた。





 

-

ローファンタジー日間9位、週間7位、月間15位に入っておりました。

日間総合の220位にも入ってました。


いつも応援くださり、ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
寝れなくて強制睡眠発動しながら普通に枕として使ったら永眠しそう
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ