45. (男が履いてるスカートが短くなっても、誰も喜ばないでしょ……)
それからウッドパペットを相手に、何戦か経験を積む。
ヘッドショットを狙って討伐したり、足を狙って転ばせてから討伐したり。
色々とパターンを試してみたんだけれど――。結局は胴撃ちを連射するほうが、手っ取り早く倒せる感じだった。
ヘッドショットを狙うとウッドパペットの上半身がふらついて、頭の位置がズレるから、連続では狙いにくいんだよね。
足を狙うと、両足に1発ずつ撃ち込んだ時点で転ばせることができるから、これは悪くはなかったんだけど……。
別にウッドパペットは、胴撃ちの連射でも転ばせることができるから、わざわざ足を狙う必要もないかなって。
カチカチカチって、8回も引き金を引くのがちょっと面倒ではあるんだけれど。
その程度の苦労で簡単に倒せるから、僕にとっては楽な相手だ。
倒した魔物がお札をドロップするたびテンションが上がることもあり、調子よく倒し続けていると。
不意に、僕が身につけている制服――《学士の衣装》が青い光を帯びて輝いた。
「――おっ。そいつはもしかして」
「あ、そうですね。衣装がレベルアップしたみたいです」
サツキお姉さんは先日、僕が両国国技館ダンジョンから行った配信を視聴してくれていたみたいなので、既に知っているんだろう。
なので僕は、サツキお姉さんに頷きながらそう答えた。
《おめでとう!》
《おめでた!》
《可愛さがアップ!》
《↑そのステータスは既にカンストしている!》
《(俺達の)愛がアップ!》
《↑カンストしてるつってんだろ!》
《↑それはそう》
《何か変化が出るのかな?》
《見た目は変わらないようだが》
「たぶん、召喚できる武器の種類が増えるんじゃないでしょうか。えっと……確認してみるので、ちょっと待ってくださいね」
とりあえず僕は拳銃を手放し、代わりにステータスカードを取り出す。
そして意志操作で《学士の衣装》についての詳細をカードに表示させた。
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《学士の衣装》/異能
【現在の衣装レベル:1】
・最大耐久度:400
・防御力 :5
・能力値補正:筋力+1、敏捷+1
・衣装異能 :《体験学習》《選別射撃》《丈削減》
・衣装スキル:〈銃撃術Ⅰ〉
・召喚可能武器:IP45、EW-Xpic
いつでも『学士の衣装』を召喚して瞬時に装着できる。
衣装レベルに応じて様々な銃器などを召喚して装備できる。
+----+
衣装の最大耐久度が『200』から倍の『400』に増え、防御力も『0』から『5』へと増えている。
今のところは銃で一方的に戦えているから、魔物から攻撃を受けたりはしていないんだけれど。安全に関わる部分なので、衣装の耐久性が上がるのは嬉しい。
また《学士の衣装》を着ている間だけ、[筋力]と[敏捷]が『1』ずつ増えるようになったようだ。
[筋力]が増せば銃の反動を制御しやすくなるだろうし、[敏捷]が増えればより精密な射撃をしやすくなりそうなので、こちらも有難い効果だ。
――で、問題は、なんか増えている《丈削減》という衣装異能。
ちょっと不安に思いながらも、僕は意志操作で情報をカードに表示させる。
+----+
《丈削減》/衣装異能
【スカートの丈を1cm削減中】
軽快に動けるようになり[敏捷]が『+1』される。
不思議と運気も上がって[幸運]が『+1』される。
+----+
「………………」
いや、意味が判らない。
能力値が増えるのは嬉しいけれど……。なんでスカートの丈?
丈が短くなることと、能力値が増えることに、一体どんな相関関係が?
(男が履いてるスカートが短くなっても、誰も喜ばないでしょ……)
複雑な心境になりながら、僕は重たい溜息をひとつ吐き出す。
もし僕が女性なら、あるいは視聴者の中に喜ぶ人も居たかもしれないけれどさ。
もしかしたら……同じくスカートである《神官の衣装》のほうも、衣装レベルがアップすると丈が短くなったりするんだろうか。
あっちはロングスカートだから、別に短くなっても何の問題も無いんだけどな。
「……あんまり、良い結果じゃなかったのかい?」
「あっ。い、いえ。そういうわけでは!」
僕の表情を見て、サツキお姉さんが心配そうに声を掛けてくる。
慌てて僕は、ぶんぶんと首を左右に振って否定した。
「えっと、新しく『EW-Xpic』っていう武器が召喚できるようになっている――みたいなんですが。一体どんな銃なんでしょうね」
《知らないなあ》
《聞いたことない名前だね》
《たぶん地球の銃とは関係がないんだろう》
「と、とりあえず召喚してみますね!」
頭の中で、右手に『EW-Xpic』を取り出すことを意識してみる。
すると――僕の右手に現れたのは、銃身が2つ並んだ形状のものだった。
《おお、ダブルバレルじゃん》
《しかも銃身短いやつ》
視聴者がコメントで言うように、これはダブルバレルと呼ばれるものだね。
銃身の筒が横に2本並んでいるから、区分としては『水平二連銃』になるかな。
そしてこれもコメントで言われている通り、2本並んだ銃身は短め。
いわゆる切り詰め銃だね。といっても、もともと長銃身だったのを改造して短くしたわけじゃなく、もともと短く作ってあるものだろうけど。
銃床も短めなので、体格の良い男性なら外套の中に隠し持てそうなサイズだ。
「ダブルバレルってことは、多分アレだよね?」
《まあ、そうやろね》
《確定と見てよろしいかと》
《ほぼ間違いないなあ》
僕が問いかけた言葉に、視聴者の何人かがそう答える。
一方でサツキお姉さんは何も判らないみたいで、首を傾げていた。
「んー……。多分このレバーかな?」
銃床より上部にあるレバーを動かすと、ロックが解除されて。
それにより、銃を『く』の字形にパカッと折ることができるようになり、内部に装填されているショットシェルが見えるようになった。
これは『中折れ式』と呼ばれるタイプの構造だ。
「ショットシェルなので、やっぱり間違いないですね」
「……何が間違いないんだい?」
「これ、散弾銃です」
ダブルバレルの時点で、まあ散弾銃だろうとは思っていたけれど。
銃身の太さに見合うショットシェルを確認すれば、その時点で確定する。
『EW-Xpic』は小型のソードオフ水平二連散弾銃のようだ。
銃身に1発ずつ弾が込められている状態で召喚されるので、装弾数は『2』。
本来なら2発撃つたびに、リロードのために銃を折り、排莢と装填をしなければならないものだけれど。
僕の場合は銃を再召喚するだけで良いから、かなり便利に使えそうだ。
《これでもうゾンビが来ても怖くないな》
《たぶんゾンビ犬でさえ余裕で対処できるぞ》
《ゾンビ犬……。うっ、頭が……》
「あはっ。ゾンビとかゾンビ犬が棲息しているダンジョンとかも、探せばどこかにあるのかな」
視聴者のコメントに、僕は笑いながらそう答える。
散弾銃といえば、とある有名なサバイバルホラーゲームに於いて、非常に頼りになる武器種のひとつだ。
ちなみに僕は4が好き。でも4から始まったQTEは許さない、絶対に。
とりあえず一度中を開けてしまったことだし、念のため銃は召喚し直しておく。
もし射撃に問題が生じたりしていたら、戦闘で困ることになるだろうからね。
「早速これを使って、戦ってみても良いですか?」
「もちろんだとも。近くにちょうど2体居るよ」
サツキお姉さんに魔物が居る位置まで案内して貰うと、そこにはウッドパペットが1体と――パペットドッグが1体居た。
合計2体だから、サツキお姉さんの〈魔物察知〉は正確なんだろうけれど……。
「パペットドッグって、第2階層でも出るんですか?」
「おっと、そう言えば説明してなかったかね。階層が繋がっているなら、先の階層に進んでも、今までの魔物とも基本的には遭遇することが多いね。まあ、必ずってわけでもないんだけどさ」
「へー」
「ちなみに、本来棲息している階層よりも遭遇率は少なくなる。第1階層の魔物であるパペットドッグは、ここまで全く遭わなかったことからも判る通り、第2階層で遭遇する可能性は低いと思って良いよ」
「なるほど」
つまり第2階層のメインとなる魔物は、あくまでウッドパペットなわけだ。
ウッドパペットが問題なく倒せている以上、パペットドッグはあんまり美味しくない魔物になってしまうから、そちらとの遭遇率は低いほうが有難いよね。
サツキお姉さんとそんな会話をしていると、パペットドッグが僕たちの存在に気づいて、まっしぐらに駆け寄ってくる。
それに少し遅れて、ウッドパペットもこちらへ向かって駆け出した。
僕は先行するパペットドッグに向けて、腰溜めに『EW-Xpic』を構える。
銃を構えた時点で、僕の視界にレティクルが投影された。
どうやら腰溜めでも問題なく、銃口を向けている先を確認できるらしい。
切り詰めサイズの小型散弾銃でも、9歳児程度のサイズしかない僕の身体からすれば大きく、重量もある。
しっかりとした姿勢で銃口を安定させ、僕は充分に魔物を引き付ける。
ついでにセーフティが解除されていることを、指先でもう一度確認した。
そして僕の手前――1メートルぐらいの距離にまで迫ってきたパペットドッグに対し、引き金を引く。
ボン! という、やや低めの発砲音が、ダンジョンの通路に大きく響いた。
予想はしていたけれど、拳銃の『IP45』と違い抑制器が付いていないので、『EW-Xpic』は発砲音がかなりうるさい。
とはいえ耳がキーンとするほど酷い轟音ではないので、我慢はできるかな。
ショットシェルから放射状に発射された筈の複数の小さな弾が、駆け寄ってきたパペットドッグの身体を――なんと10メートル以上も撥ね飛ばした。
ガンッ! と強烈な音を立てながら、パペットドッグの木製の身体がダンジョンの床を激しく転がっていき、ようやく止まったかと思えば。
……そのまま、魔物の身体が光の粒子へと変わった。
《強っ⁉》
《一撃ですと⁉》
《流石は散弾銃……》
《うわ、ようじょつよい》
まさか一撃で倒せるとは思ってもいなかったので、僕もびっくりしてしまう。
……あと、僕は幼児同然の身体ではあるけれど、幼女ではないです。
とりあえず、ゆっくりしている暇はない。
僕はすぐに、続いて迫りくるウッドパペットのほうへ銃口を向け直す。
そして再び――充分に引き付けてから、引き金を引いた。
先程のパペットドッグの再現のように、ウッドパペットの身体もまた大きく撥ね飛ばされて、音を上げながらダンジョンの床を転がっていく。
とはいえ流石にパペットドッグのように、10メートルも吹っ飛ぶことはなく、もちろん一撃で倒せるわけでもないみたいだけれど。
(……反動と威力が、明らかに釣り合ってない気がする)
ウッドパペットの大きな体を1発で吹っ飛ばす、その威力を目の当たりにして、僕は内心でそんなことを思う。
発砲時の反動は、拳銃の『IP45』よりは当然強いけれど。とはいえ、まだ射撃姿勢が崩れるほど耐えられないレベルではない。
反動を抑えられるのは、衣装レベルがアップしたことで[筋力]が増えたことも影響しているんだろうか。
だとするなら、今後も衣装レベルを上げることは重要になりそうだ。
(ただ、衣装レベルを上げても、維持ができないのがなあ……)
夏休みに入れば、暫くは大丈夫なんだろうけれど。
それも、まだ2週間ぐらいはあるしなあ……。
「ユー、ちゃんと魔物にトドメを刺してあげな」
「あ、ごめんなさい。ちょっと考え事をしてました」
慌てて僕は、弾切れになった『EW-Xpic』から手を離し、その場に落とす。
そして再び『EW-Xpic』を再召喚し、起き上がろうとしているウッドパペットに向けて、ゆっくりと2連射。
魔物の身体が光の粒子に変わったのを確認してから、ほっと安堵の息を吐いた。
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ローファンタジー日間7位、週間12位に入っておりました。
今回は日間総合の183位にも入ってました。
急にポイントが増えて、かなりびっくり。
いつも応援くださり、ありがとうございます!




