44. 《男の娘メスガキ! そういうのもあるのか!》
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それから《学士の衣装》で何戦か経験したけれど、特に問題はない感じ。
パペットドッグはかなり機敏に動く魔物ではあるけれど、人形だからなのか動きは単純で、回避行動も全く取らない。
お陰で射撃を命中させるのはかなり楽で、ヘッドショットを狙う余裕さえある。
パペットドッグを倒すにはヘッドショットで4発が必要。
胴体への射撃も一度やってみたんだけれど、こちらだと8発命中させないと倒せなかった。
《神官の衣装》の鎚矛だと、魔物のどこを殴っても2~3発で倒せるので、拳銃の威力が鎚矛に較べて、いかに低いかがよく判る結果だ。
ただ、射撃を命中させるたびにパペットドッグを1メートル近く弾き飛ばすことができるので、状況のコントロール能力は拳銃のほうが圧倒的に上。
何戦やっても、パペットドッグには接近さえ許さず、殆ど一方的に討伐することができた。
あと、拳銃『IP45』の装弾数が8発なので、パペットドッグ2体までなら銃弾を補充することなく倒し切れるのも地味に嬉しいところ。
まあ、弾切れしてしまった場合でも拳銃を再召喚すれば、フル装填された拳銃が手元に現れるので、リロードの手間は殆ど掛からないんだけどね。
「よし、そろそろ着くよ」
「……どこにですか?」
「そりゃあもちろん、第2階層さ!」
「へっ?」
ダンジョン内をどう移動するかは、〈魔物察知〉のスキルを持つサツキお姉さんに一任している。
なので僕は一応スマホに開いている、掃討者ギルド公式サイトに掲載されたダンジョンの地図上で、現在位置の確認ぐらいしかしていなかったんだけれど。
「わ……」
お姉さんの後を続いて、進んだ先の小部屋。
その部屋の奥に、ぽっかりと開いた階段があった。
どうやら、いつからかサツキお姉さんは魔物の探索よりも、この階段を目指した移動に切り替えていたようだ。
「……もしかして、先に進む感じですか?」
「そうだとも。もうユウキくんは、この階層だと余裕だろう?」
確かに、接近さえ許さず倒しきれているんだから、それは間違いない。
とはいえ僕としてはもう少し、余裕のあるこの状況下で、拳銃の使い勝手に慣れておきたいという気持ちもある。
そのことをサツキお姉さんに伝えると――。
「射撃の練習なら、次の階層でもできるじゃないか」
あっさり、そう言われてしまった。
「次の階層に棲息している魔物は憶えているかい?」
「あ、はい。確かウッドパペットですよね、レベルが『5』の」
「うん、よく覚えていたね。少し詳しく話そうか」
それからサツキお姉さんは、階段を先導して下りながら、魔物についての詳しい情報を説明してくれた。
ウッドパペットは、名前の通り木製で『人型』の人形。
似た魔物に『ウッドゴーレム』というのが居るらしいんだけれど、パペットはゴーレムほど大きくはない代わりに、機動力はゴーレムよりも高いらしい。
「身体の大きさは、アタイと同じぐらいかねえ」
「え、それは、かなり大きいのでは……?」
現在の僕の身長は129cmしかないわけだけれど。祝福のレベルアップを経験する前だって、154cmしかなかった。
そんな僕からすれば、175cmぐらい身長があると思われるシオリさんやアルナさんだって、充分に大きい人なんだけれど。
サツキお姉さんは、その2人よりも更に一回り背が高くて――180cmの高身長を持つダイキと同等か、それを僅かに超えるぐらいの上背がある。
今は階段を下りている最中だから、目線の高さがあまり変わらないけれど。
普段はサツキお姉さんと近い距離で並んでいると、かなり見上げるようにしないと、お姉さんの顔を見ることができないぐらいだ。
そのサツキお姉さんと同じぐらいのサイズの人型の魔物――。
うん、充分に脅威であることが、否応なしに理解できた。
「ウッドパペットは人型なだけあって攻撃が多彩で、正拳突き、裏拳、アッパー、回し蹴り、踵落としと、人間がやるような攻撃なら大体やってくると思って良い。近づかれるとなかなか面倒な魔物さ。だから――」
「近づかれる前に倒せるなら、それが一番ってことですね?」
「そういうことさ。もし接近させずに倒せるようなら、第2階層に単身で潜ることも問題なくできるだろうね。今日のところは、近づかれた場合でもアタイが対処するから、ユウキくんは気軽に練習を積んでみると良いよ」
「はい! 頑張ってみます!」
《頑張って!》
《応援してるで!》
《ぜひ無双してください》
《一方的になぶり殺しにして「ざーこざーこ」って馬鹿にしようぜ》
《メスガキユウキくんだと……⁉》
《む、むむむ……! くっ、わりとアリ!》
《アリ判定頂きました!》
《何が『むむむ』だ! アリに決まっとろう!》
《\アリだー!!/》
《男の娘メスガキ! そういうのもあるのか!》
《おいやめろ、興奮してしまうだろ!》
《まだ興奮してなかったのか? 俺はもう万端だぞ》
……配信を視聴してくれている人たちは、僕に一体どういうキャラを求めているんだろう。
知りたいような、知りたくないような……。
階段を下りきって、第2階層に侵入。
内部の様子は第1階層の時と同じで、床と天井がぼんやりと光っていて明るく、壁は直方体の石を積んで造ったような様式。
通路の幅が広く、数メートルおきに壁沿いに円柱があるところも同じだ。
……あ、でも唯一違う点として、天井が第1階層の時よりも少し高めかな?
床から天井まで、大体4メートルぐらいありそうな気がする。
この天井の高さを活かした攻撃を、ウッドパペットはしてくるんだろうか。
例えばパペットドッグがやっていたみたいに、跳躍して踏みつける攻撃とか。
身長180cm超えの木製人形が、踏みつけ攻撃をしてきたら……かなりの重量があるだろうから、大怪我をするのは間違いないだろう。
(今は、サツキお姉さんが居てくれるから良いけれど……)
第2階層に単身で潜れる日は遠そうだなあと、僕は内心で思う。
「――おっ、居るね。3体のようだ」
「いきなり3体ですか……」
2人パーティだと一度に遭遇する魔物の数は大抵、2体か3体のどちらか。
できれば初戦は2体相手が良かったんだけれど……。
こればかりは選べるものじゃないので、仕方ない。
「ま、気楽にね。仮に3体全部に接近されても対処できるから」
そう言って、ニカッと笑ってみせるサツキお姉さんの頼もしさと言ったら。
お陰で変に緊張せず、戦闘に臨めるのがとても有難い。
通路の先にある小部屋の中に、3体のウッドパペットを視認。
壁と天井の光源に照らされて、ぼんやりと視認できるウッドパペットのシルエットは、確かにサツキお姉さんの身体と同じぐらい大きい。
まだ距離は20メートルぐらい離れているけれど……。足が長いぶん、走るのが速そうなのが、ちょっと怖いところだ。
「撃っても良いですか?」
「もちろん、いつでも」
攻撃の選択肢は幾つかある。例えば、まず3体の足を狙うことで機動力を封じ、近づかれるのを防ぐというもの。
あるいはヘッドショットを狙って1体の早期討伐を狙い、まず数の不利を無くすというのも、悪い考え方じゃないと思う。
でも――敢えて僕は、一番左に居るウッドパペットの胴体に照準を向ける。
先手を打てるこの状況でなら、まず拳銃に装填されている8発の弾丸を、魔物に気づかれる前に撃ち尽くすことができるんじゃないかと思ったからだ。
しっかりした姿勢で銃を構えて、僕は連続で8発の銃弾を撃ち放つ。
セミオートの拳銃なので、引き金を8回連続で引く必要があって、ちょっと大変ではあったけれど。それなりの速さで連射することができた。
反動による照準のブレも、問題なく抑制できたと思う。
もっとも、これに関してはスミカさんが僕の[筋力]を投資で増やしてくれているからこそ、制御できたんだと思うけれど。
――放たれた8発の弾丸は、全て1体のウッドパペットの胴体に命中。
8発分の銃弾の衝撃力を受け止めたことで、相手の身体が小部屋の奥にまで大きく吹っ飛ばされ、勢いよく転倒した。
(やっぱり、これだけじゃ倒せないよね)
第1階層で戦っていたレベル『3』のパペットドッグでも、胴撃ちを8発命中させないと倒せなかったわけだから。
レベル『5』のウッドパペットが胴撃ち8発だけで倒せないことは、予想できていたことだ。
銃弾を全てを撃ち尽くした時点で、僕は拳銃から手を離している。
空いた手の中に、すぐに拳銃を再召喚。
――今度は先程の隣のウッドパペットに、同じく胴撃ちで8発全てを撃ち込む。
ウッドパペットは体格が大きいぶんだけ身体が重く、そして身長が高いぶん重心も高い位置にある。
つまり、四本足のパペットドッグよりも、姿勢を崩すだけなら簡単で。別に足を狙ったりしなくても、転倒させることができると僕は考えたのだ。
実際にその狙いは当たっていたみたいで――8連射を浴びせられたことで、2体目のウッドパペットも激しく転倒する。
即座に拳銃を再召喚して、今度は3体目に8連射。
相手の身体が大きいお陰で、胴撃ちなら殆ど狙いをつける必要さえない。
「まさか、ここまで圧勝しちゃうとはねえ」
くくっと愉快そうに笑いながら、サツキお姉さんがそう言葉を零す。
まだウッドパペットは1体も倒せていないんだけれど――。
……まあ、もう状況的に、勝利が疑いようもないことは事実だった。
3体目を転倒させた時点で、最初に転倒させた1体目が起き上がる。
だけどそれでは、脅威とはならない。その時点で再召喚された拳銃が僕の手にあり、銃口も既にそちらへ向けているんだから――。
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ローファンタジー日間10位、週間16位に入っておりました。
今回は日間総合の243位にも入ってました。大変嬉しいです。
いつも応援くださり、ありがとうございます!




