42. 新しい衣装はとても見慣れて。
*
「わっ」
それから更にパペットドッグを相手に、もう1戦したところで。
戦闘後に突然、僕の身体が強く光り輝いた。
――レベルアップの演出だ。
僕にとっては3度目の経験だけれど、何度でも相変わらず嬉しい。
「おめでとう、ユー!」
《おめ!》
《おめでとー‼》
《おめでた!》
「ありがとうございます!」
すぐに祝ってくれたサツキお姉さんと視聴者の人たちに、感謝から頭を下げる。
ドローンに向かってお辞儀するのは、まだちょっと慣れないけれどね。
「ちょっと確認しても良いですか?」
「もちろんだとも、アタイのことは気にしなくていいよ」
サツキお姉さんがそう言ってくれたので、その場で足を止めて、一旦ステータスカードを確認させて貰う。
すると今回も、しっかり新しい『衣装』が増えていた。
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タカヒラ・ユウキ
夢魔/17歳/男性
〈衣装師〉 - Lv.3 (1855/4120)
[筋力] 4+2
[強靱] 4+2
[敏捷] 11+2
[知恵] 8+2
[魅力] 13+2
[幸運] 9+2
精気:593
-
◆異能
[夢魔][夢渡り]
《衣装管理》《戦士の衣装》《神官の衣装》《学士の衣装》
◇スキル
〈剣術Ⅰ〉〈棍棒術Ⅰ〉〈盾術Ⅰ〉
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追加された衣装は《学士の衣装》というらしい。
あと能力値も……多分[敏捷]と[幸運]が1ポイントずつ増えたかな?
「新しく増えたのは《学士の衣装》というものみたいなんですけれど。学士って、大学を卒業したら貰えるやつですよね?」
「そうだね、大学卒業者に与えられる学位を指すことが多いかな。あるいは学者のことを指したり、単純に『学ぶ人』って意味でも使う言葉だけど」
「学ぶ人……。じゃあ僕みたいな高校生も学士ってことですか?」
「もちろん。高校生でも小学生でも、立派な学士だとも」
そうなると、意味の幅が結構広めの語句になりそうだけれど。
じゃあ《学士の衣装》って、一体どんな『衣装』なんだろう?
ちょっと予想がつかないけれど……。
まあでも、とりあえず実際に着てみれば判ることかな。
「――《学士の衣装》!」
試しに宣言してみると、僕の服が一瞬で別の衣装へと変わる。
それは『新しい衣装』である筈なのに――なぜか僕にとっては、生地の色合いとか質感とかが、非常に見慣れたものであるような気がした。
「んー……?」
見覚えは確かにあるのに、それが何なのか思い出せない。
鏡でもあれば、自分の姿をしっかり見確かめることができるから、思い出せそうなんだけれど……。着用中の服って、当事者視点だとちょっと確認しづらいよね。
とりあえず、下半身に履いているのはスカートみたいだ。
僕の膝よりは少し上ぐらいまで丈がある、気持ち短めのプリーツスカート。
これも区分としては一応ミニスカートになるのかな?
スカートより下側を見ると、黒のハイソックスも履いているようだ。
靴は普通に革靴。防御性能は無さそうだけど、履き心地は良い。
上半身に着用しているのは……なんだろう、これ。
結構しっかりとした縫製の服で、礼服っぽさもあるような気がする。
「可愛いすぎる。天使か」
「ふえっ?」
僕の姿をまじまじと見つめていた、サツキお姉さんが唐突に零した言葉に。
驚かされると同時に――言葉の意味を理解して、なんだか僕は、ちょっと恥ずかしくなってきてしまった。
ほのかに顔が熱くなってくる。
……可愛いって言われるの自体は、とても嬉しいんだけどね。
《いや、マジで可愛すぎる》
《そら赤鬼も呆然としますよ。だって天使が降臨してるんだもん》
《どっかの制服かな? 流石にデザインで判別はできないが》
《普通にお洒落な服だし、実際に使われてる制服じゃないのでは?》
《いや、最近はこれぐらい洒落てる制服も珍しくない》
《制服に詳しい有識者はいらっしゃいませんかー!》
《都内の学校には結構詳しいけど、これは見覚えないなあ》
《↑おまわりさん、このひとです》
《なんでや⁉ まだ何もしとらんやろ⁉》
《まだ、って言ってる時点でもうね……》
「サツキお姉さん」
「………………」
どこかぼんやりとした表情をするばかりで、サツキお姉さんの返事はない。
「サツキおねーさーん‼」
「――うおっ⁉ な、なんだい?」
僕が大きな声で呼びかけると、ようやくお姉さんから反応があった。
ダンジョンの中なので、集中を欠き過ぎるのは危ないと思うんだけどな。
「サツキお姉さんって、いまスマホ持ってます?」
「あ、ああ、もちろん持ってるけど……」
「ちょっと僕のこと、撮ってみて貰えませんか?」
「へっ⁉ い、いいのかい?」
「ぜひお願いします。自分の格好がどんなのか、見てみたいので」
というわけで、サツキお姉さんにスマホで写真を撮ってもらう。
カシャッと小気味良い電子音が、ダンジョンの中に響いた。
「どうですか?」
「最高に可愛いね」
「……あ、ありがとうございます。いえ、そうじゃなくて……撮った写真を見せて貰っても良いですか?」
「も、もちろんだとも」
サツキお姉さんから手渡されたスマホを確認してみると。
そこに映っている、僕が着ていた衣装は――。
「ああ――これって、僕が通っている学校の、女子の制服ですね」
「えっ、そうなのかい?」
「間違いないと思います。道理で見覚えがあったんだ……」
「ユー、あまり配信でそういうのは言わないほうが良いんじゃないかい?」
「あっ」
そういえばコレ、リアルタイムに配信されてるんだった。
確かに、個人情報に繋がるようなことは、あまり言わないほうが良かったかも。
「……すみません、軽率でした」
「思わず訊き返しちまった、アタイも悪かったよ……」
《大丈夫大丈夫、俺らゼッタイ悪用はしないから》
《ユウキくんが嫌だと思うなら、俺らは誰も調べたりしないよ》
《毎回楽しみにしてるのに、配信が減ったら嫌だしな》
《夢で逢えなくなったら人生の潤いが無くなるし……》
《もし悪さするヤツがいたら、特定するかんねー?》
《そうだな、間違いなく視聴者2000人を敵に回すことになるぞ》
《この配信見てるのは、ユウキくんの熱心なファンばかりだからね》
《ファン(信者)》
《何かあれば、マジで聖戦が始まることになるぞ……》
うっかりやってしまった僕のミスを、すぐに配信を視聴してくれている人たちがフォローしてくれる。そのことが、とても嬉しい。
まだ配信初めてそんなに日数も経ってないんだから、ファンなんている筈がないのにね。
本当にみんな優しくて、とても僕のことを気にかけてくれている。
「あっ、スマホありがとうございました。画像はもう消しちゃっていいので」
「有難く待ち受けにさせて貰うよ」
「そ、そうですか……?」
いや、サツキお姉さんが良いなら、別にいいんだけど……。
女装してる男の写真を待ち受けにして、何が楽しいんだろう。
「そういえば結局、その制服にはどんな効果があるんだい?」
「あっ――すっかり失念してました。確かにそれは重要ですよね」
改めて僕は、ステータスカードに書かれた《学士の衣装》という文字列に注目しながら、心の中で(詳細を知りたい)と意識してみる。
すると、いつも通り衣装の詳しい情報がカードに表示された。
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《学士の衣装》/異能
【現在の衣装レベル:0】
・最大耐久度:200
・防御力 :0
・衣装異能 :《体験学習》《選別射撃》
・衣装スキル:〈銃撃術Ⅰ〉
・召喚可能武器:IP45
いつでも『学士の衣装』を召喚して瞬時に装着できる。
衣装レベルに応じて様々な銃器などを召喚して装備できる。
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《体験学習》/衣装異能
見て学んだ様々なものを一時的に修得できることがある。
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《選別射撃》/衣装異能
味方と認識している対象には射撃が命中しなくなる。
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〈銃撃術Ⅰ〉/衣装スキル
銃器を用いた射撃の技術が向上する。
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「……へ?」
思わず、あまりの驚きが軽く声に出てしまった。
でも、それも仕方のないことだと思うんだ。
――様々な『銃器』を召喚して装備できる、って一体なに?
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ローファンタジー日間12位、週間26位に入っておりました。
日間総合でも300位ギリギリに入っててびっくり。
いつも応援くださり、ありがとうございます!




