26. 《おとなげねえ!》
《★『アルア・アルナ』公式さんから『¥50000』を受け取りました!
:ウチの服を着てくれてありがとう! 宣伝のお礼です!》
《☆貴沼シオリさんから『¥50000』を受け取りました!
:ユウキくんを男子だと思ってた人は――何をすればいいかわかりますよね?》
《ted_millさんからから『¥10000』を受け取りました!
:イエス・マム!》
《くまさんからから『¥2000』を受け取りました!
:こうですか⁉ わかりません!》
《ウカトさんから『¥3000』を受け取りました!
:こんな可愛い子が女の子のハズないんだよなあ!》
《メヴレンさんから『¥20000』を受け取りました!
:ありがとう、ありがとう……! 一生推します!》
《のりたまさんから『¥5000』を受け取りました!
:すごいや! 男の娘は本当にあったんだ!》
《村田さんから『¥3000』を受け取りました!
:同じ男だと知ったのに胸の中が熱くなる。教授、これは一体⁉》
《せんちゃんさんから『¥1000』を受け取りました!
:それが『愛』じゃよ……》
「……ち、ちょっ、待っ⁉」
機能をオンにすると同時に、怒涛のように流れてきた『投げ銭』。
ドローンが具体的な金額を読み上げるのを聞いて、今更ながら僕は『投げ銭』の機能が、視聴者が配信者にお金を送るものであることを理解した。
「や、やめて……‼ み、みんな、お金はもっと大事にしようよ⁉」
《投げ銭をやめるように促すとか、良い子過ぎる……》
《わかりました! もっと貢ぎますね!》
《☆貴沼シオリ:はい、みんなでもっと貢ぎましょうね》
《可愛いくて良い子でしかも男の娘とか、完璧過ぎる》
《カワイイ(四翻)+良い子(二翻)+男の娘(三十九翻)》
《男の娘の時点でトリプル役満じゃねーかww》
《それぐらい価値があるのは事実ではある》
《男の娘はステータスだ、希少価値だッ……!》
《おめでとう、視聴者数もう100人超えたゾ☆》
「は、はぅあぅ……⁉」
コメントから色々な情報が溢れすぎて、思わず頭がパンクしてしまう。
まだ一度も戦闘してないわりに、視聴者の人たちは随分楽しそうだけれど。こんな配信を見て、一体何が楽しいんだろう……。
それに――普通なら女の格好をした男なんて、嫌悪の対象になってもおかしくない筈なのに。なぜか視聴者の人たちは、むしろ喜んでくれているように思える。
僕にはそのことが、どうしても不思議でならなかった。
「……あ、あの。女装してる僕を見て、みんなは不快だと思わないんですか?」
なので僕は、そのことを率直に訊ねてみる。
すると――。
《は?》
《ご褒美ですが?》
《感謝しかない》
《不快とか、意味ワカランでござるよ》
《カワイイ上についてるなんて、お得!》
《ありがとう、ありがとう……!》
《★『アルア・アルナ』公式:生まれてきてくれてありがとう……!》
《もうチャンネル登録したゾ☆ 今後の配信全部視聴するゾ☆》
《一生推しますが?》
《ちょうど男の娘分が足りてなかったんだ。助かる》
なんだか、よく判らない言い回しも多いけれど――。視聴者の人たちが、こんな僕を歓迎してくれていることだけは、しっかりと伝わってきた。
(……どうしよう、結構嬉しい)
アルナさんのお店で色々な服を貰って以降、可愛い装いをすることに、ちょっと楽しみを見出しつつある僕だけれど。
でも――可愛い服を着る時にも、メイクをする時にも。それを楽んでいる自分が居るのと同時に……どこかそんな自分を、冷たい眼差しで見つめる僕もまた存在することには気づいていた。
結局のところ、自分の中にまだ女装を受け入れられていない心が、少なからずあるってことなんだろう。
それはそれで、仕方のないことかなって、諦めていたんだけれど――。
でも、配信を見てくれている人たちが、そんな僕を認めてくれて。
お陰で僕自身もまた、自分のことを認められるような――そんな気がした。
《ねえねえ、その可愛いツノはなんなの?》
《それは俺も気になってたッ!》
「角ですか? 他にも背中に羽と、あとは尻尾もありますけれど」
《えっ、見たい見たい》
《見せて!》
《★『アルア・アルナ』公式:私はもう大量に写真に撮ったぞ!》
《マウントやめてくださいちくしょう羨ましい……!》
「あ、はい。じゃあちょっと後ろを向きますね」
僕の身長が低すぎるせいか、ドローンは基本的に僕の目線よりも30cmぐらい高い位置から撮影している。
そのドローンに背を向けてみると、すぐにコメントで反応があった。
《わっ、可愛い羽!》
《スクショ撮った。これから毎日崇めるわ》
《ちっちゃくて可愛い……。角と一緒に触りたい……》
《スカートから出てる尻尾もええのう》
《尻尾も触りたい。ナデナデしたい》
「び、敏感な場所なので、触るのは勘弁してください……」
思わず変な声が出ちゃうぐらい敏感な場所なのは、既に体験済みだ。
なぜか、自分で触る分には何も感じないんだけどね……。
《☆貴沼シオリ:ふふ、触るとユウキくんから可愛い声が出るんですよ?》
《★『アルア・アルナ』公式:待って待ってそれ聞いてない。録音無いの?》
《☆貴沼シオリ:ありません。せいぜい羨ましがってください》
《★『アルア・アルナ』公式:ぐぎぎ……! こんど土下座でお願いするもん!》
《土下座ww》
《おとなげねえ!》
《初めて見る身体の特徴だけど、なんていう種族の亜人になったん?》
「えっと……まず僕は、亜人ではないです。魔物の一種らしいので」
《魔物⁉》
《えっ、魔物なの⁉》
《こんな可愛い子が人族のハズないんだよなあ……!》
《魔に魅入られるとはこのことか。大歓迎です》
《じゃあ異端職ってコト?》
「あ、はい。天職カードは間違いなく『異端職』ですね」
回答しながら、僕はステータスカードを取り出す。
それが何よりの証明になる筈だからだ。
《うおっ、金色のカード……!》
《ホンマもんやん!》
《これが伝説の金色カードか》
《確率的には1000万人に1人らしいぞ》
《すっご!》
《でも実際、1000万人に1人の可愛さではある》
《それは間違いないな》
《なんていう魔物になったん?》
《おっ、そこは気になるね》
「あー……。なんか、『夢魔』になったらしいです……」
《サキュバス⁉》
《サキュバス⁉》
《淫魔じゃん!》
《えっ、男ならインキュバスなんじゃないの?》
「それについては、僕が一番そう思ってますよ……」
ドローンが読み上げるコメントを聞いて、僕は思わず苦笑してしまう。
いやホント……なんで僕、『サキュバス』なんだろうね?
女装をしているとはいえ、性別は間違いなく男の筈なんだけれどな……。
《サキュバスってことは、他人にエッチな夢を見せたりできるん?》
「エッチではないですけれど、他の人の夢にお邪魔したりはできます」
《☆貴沼シオリ:毎晩ありがとうございます》
《★『アルア・アルナ』公式:お世話になってます!》
《えっ、えっ? どういうものなの?》
《お邪魔に? お世話に???》
アルナさんはそんな風に言っているけれど。もちろん実際には、僕の側がシオリさんにもアルナさんにも、一方的にお世話になっている。
お二人からも『精気』を頂き始めたお陰で、最近はだいぶ余裕があるしね。
近い内にちゃんと、何らかの形でお礼をしたいところだ。
――そんなことを僕が思っていると。
不意に、今まで僕ひとりだった『石碑の間』に、男の人たちが入ってきた。
全部で3人かな? どの男性もとても背が高く、着ている服もお洒落で。大学生ぐらいのように見えた。
彼らは全員がリュックサックを背負い、それとは別に武器が入ってそうなケースも持参している。
その様子から察するに、多分3人の男性は、普段から一緒にパーティを組んで掃討者として活動している人たちなんだろう。
「えっと……すみません。その辺の話は中で魔物を狩りながらでもいいですか? あんまりこの部屋で、お喋りばっかりしているわけにもいかないので」
とりあえず、僕は視聴者に向けてそう問いかける。
配信は掃討者の嗜み――とはいえ『石碑の間』は共有スペースのようなものだから。あまりこの空間を、自分勝手に占有するのも良くない気がするしね。
《もちろん、ええんやで》
《頑張って!》
《怪我しないように、気をつけてね》
《そういやココって、どこのダンジョンなんやろ?》
《初見さんだし、どこかのピティが出るダンジョンじゃない?》
「あっ、ここは両国国技館です。じゃあ早速中に入っちゃいますね」
《――両国ゥ⁉》
《ちょっ、待てよ‼》
《待って待って、そこはヤバいんよ⁉》
《考え直して! ヤケイは危険過ぎるって‼》
《そこは難易度が高いから、ほんとやめて……!》
「あはは、大丈夫ですってば」
予め、僕がどの程度戦えるのかは、熟練の掃討者であるシオリさんに見て貰っているし。その上で、この両国国技館ダンジョンへ単身で潜っても大丈夫だろう、という太鼓判も貰ってある。
なのでダンジョンの難易度について、僕は特に心配もしていないのだ。




