25. 《現実です……! ユウキくんは男の子……!》
今回は短めです。ゆるして。
《初見、頑張ってー》
《初見っす》
《こんな小さい子が掃討者になってるのか……》
《いま何歳からなれるんだっけ》
《一応12歳。でも女性でそこまで若い子は滅多に居ないけど》
《角が生えてるってことは、この子は亜人では?》
《あ、じゃあ結構若返ってるのかも》
「えっ、えっ……? な、なんで、最初からこんなに人が?」
思わず僕は、おろおろとその場で凄く戸惑ってしまう。
今『石碑の間』に誰も居なくて本当によかった。もし誰か居たなら……きっと、かなり恥ずかしくて、そして滑稽な姿を見せてしまっていたと思う。
コメントの量から察するに、もう視聴者が10人ぐらいは居そうだ。
僕も別に詳しいわけではないけれど――こういうライブ配信をすぐに見てくれるのは普通、予めチャンネル登録をしてくれてる人ぐらいのものだと思う。
僕みたいに登録者数が当然まだ『0』の人間の配信が、いきなりこんなに沢山の人の目に留まるというのは、ちょっと信じがたいものがあった。
《あー、それ新人さんはよく驚くんだよ》
《一種のお約束みたいなもんだよねー》
《ConTubeでは初めて配信を開始した人がいると、サイト利用者全員に通知が出るんよ》
《だから新人配信者さんを応援したい人は、一斉に集まるのさ》
《こんにちは! 僕たちは新人に集るアリです!》
《おめでとう、いま視聴者数50人超えてるゾ☆》
「――50⁉」
10人ぐらいだと思ってたら、現実はまさかの5倍。
脳が事実を受け入れられなくて、僕は軽くめまいがした。
『ConTube』は掃討者ギルドが運営している配信サイトなので、当然ライブ配信を行うのは全員が掃討者ということになる。
掃討者は社会に不可欠な職業のひとつであり、地域住民の治安を守る重要な役割を担うもの。なので新人が居れば応援したくなる人の気持ちも、それはそれで判らなくはなかった。
《そこ『石碑の間』だよね? いまから潜るとこ?》
「そのつもりです。あ、でも潜る前にお姉さんたちに連絡しないと……」
《お姉さんたち? ご家族?》
「えっと、家族ではないんですが、とてもお世話になってる方々です。初めて配信する時には連絡するって約束してるので、すみません、中に入るのはちょっとだけ待ってください」
《ええんやで》
《ゆっくりしいや~》
《約束は大事にせんとな》
《お世話になってる人なら尚更やね》
《おねロリの予感! ハァハァ》
《↑コイツさぁ……》
《お姉さんに挟まれるロリとか最高やない?》
《それはそう》
《イイハナシダッタノニナー》
せっかく視聴してくれている人たちを、あまり待たせるわけにもいかないから。アプリを立ち上げて、シオリさんとアルナさんに手早くメッセージを送信する。
土曜日とはいっても、まだお昼だから。お二人にも色々と予定があるだろうし、配信を見てもらえるとは思わないけれどね。
《ねえねえ。その服って『アルア・アルナ』の新作じゃない?》
「あっ、そうです。新作かどうかは判りませんが、アルナさんの服ですね」
《俺は知らないけど、その服すごい可愛いよね》
《服だけじゃなく中身もすごい可愛いけどな……》
《その『アルア・アルナ』ってのは有名なやつなのか?》
《↑超有名。男は知らなくても無理はないけれど》
《女の子向けのブランドだからね。しゃーない》
《男の読む雑誌とかには載ってないからねえ》
《そうなんか……。恥ずかしながら全然知らんかったわ》
「わかります。僕も男なので、ついこの間まで知りませんでしたし」
《は?》
《え?》
《はあッ⁉》
《男ォ⁉》
《嘘でしょ⁉》
《その見た目で⁉》
《えっ、嘘やん……。普通に『好き!』と思ってたわ》
《あっあっあっ、性癖が壊れる》
《新しい扉が開けちゃう……》
《いやいや、流石に冗談だと思うぞ》
《ここまで可愛い子で、男はちょっと無理があるやろ》
《そやね、みんなちょっと冷静になったがいいぞ》
《おお、なんだ、嘘か……。ガッツリ期待しちゃったわ》
《本当か? 女の子って信じてええんやな? トラップじゃないんやな?》
《大丈夫だ。もうガチ恋してしまった視聴者の魂を賭けよう》
《↑やめてさしあげろ》
なんだか『男』だって告げると、反応が凄かった。
コメントが一気に沢山押し寄せてきたせいで、ひとつひとつを読み上げてくれているドローンが、凄く早口になっているのがなんだか面白い。
うーん、本当に男なんだけどなあ。
流石にこんな可愛い服を着てちゃ、信じては貰えないか。
《★『アルア・アルナ』公式:ところがどっこい、嘘じゃありません…………! 現実です……! ユウキくんは男の子……!》
「――えっ⁉ アルナさん、ですか?」
《★『アルア・アルナ』公式:そうだよー。ユウキくん初配信おめでとー! 予め企業アカウントを申請しておいて良かったっ》
《うわ、ほんとや。これマジで『アルア・アルナ』の公式アカやん》
《えっ⁉ ま、まさか、赤羽アルナさんご本人ですの⁉》
《お店の服、毎日着てます!》
《★『アルア・アルナ』公式:もちろん本人ですの! 愛用ありがとー!》
《☆貴沼シオリ:私も見てますよ。頑張ってくださいね、ユウキくん》
「わ、シオリさんも見てくださってありがとうございます!」
どうやらアルナさんだけでなくシオリさんも、僕からのメッセージを見てすぐに視聴を開始してくれたらしい。
きっと忙しいと思うのに。わざわざ時間を割いてくれたことを、ちょっぴり申し訳なく思いつつも……やっぱり、とても嬉しくもあった。
《シオリお姉様だ!》
《トップランクのソロ掃討者やん……!》
《いつも配信見てます》
《俺も見てます! お陰で〈戦士〉に誇りを持ってます!》
《☆貴沼シオリ:ユウキくん。設定画面の『投げ銭』をオンにしてみてください》
「投げ銭、ですか?」
《☆貴沼シオリ:はい、お願いします》
「えっと、ちょっと待ってくださいね……」
シオリさんに促されるままに、僕はスマホで配信の設定画面を開いて操作する。
この時の僕は『投げ銭』というのがどんなシステムか、まだ知らなかったんだ。




