18. (……2人の性欲が、通常の3倍ぐらいあったとか?)
(ちょっと短め。すみません)
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翌日の日曜日。僕は目覚めと共に、今までになかった類の未知のエネルギーが、自分の身体のどこか深い部分に宿っていることに気づいた。
その感覚はまだ小さいけれど。新たに感じられたこのエネルギーが『夢魔』である僕にとって必要なものであることが、すぐに判った。
おそらくは――このエネルギーこそが『精気』なんだろう。
昨晩アリサさんとマナさんの夢にお邪魔して、2人から性欲を吸収させて貰えたお陰で、僕は初めて精気を自分の身体の中に蓄積することができたようだ。
もちろん今までも食事から摂取したカロリーを変換することで、精気を自分の身体に生成すること自体はできていたわけだけれど。
カロリーからの変換は効率が悪くて少量の精気しか得られないので、基本的には生成するそばから僕の生命維持に必要なエネルギーとして消費されてしまう。
なので食事から得る分だけだと、身体の中に精気が溜まる感覚みたいなものが、これまでは全く意識することができなかったのだ。
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タカヒラ・ユウキ
夢魔/17歳/男性
〈衣装師〉 - Lv.1 (181/606)
[筋力] 4
[強靱] 4
[敏捷] 10
[知恵] 8
[魅力] 12
[幸運] 7
精気:6
-
◆異能
[夢魔][夢渡り]
《衣装管理》《戦士の衣装》
◇スキル
(なし)
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ステータスカードを出して確認してみたところ、能力値欄に『精気』という項目がひっそりと増えていた。
夢魔は他人の夢にお邪魔すると、相手から回収した性欲を変換することで、概ね1人につき毎晩『1』程度の精気を生産できる。
その筈なんだけれど――。
(なんで一晩で『6』も生産できてるんだろう……?)
ステータスカードに書かれている数値を見て、僕は不思議に思う。
いま僕が夢に分体を派遣しているのは、アリサさんとマナさんの2人だけだ。
なので、一晩あたり『2』の生産量しか見込めない筈なんだけど……。
(……2人の性欲が、通常の3倍ぐらいあったとか?)
僕は一瞬だけそんなことを考えて――すぐに、その考えを振り払う。
女の人に対して、流石にそんなことを思うのは失礼だろう。
まあ、生産量が多い分にはいいよねと。僕はあまり深く考えないことにした。
とりあえず着替えて、朝食の準備をする。
今日は朝から出かける予定があるので、お手軽にピザトーストで。
まず食パンにケチャップを塗る。そして刻んだハムを散らし、その上に冷蔵庫から取り出したシュレッドチーズも散らす。
あとはオーブントースターに投入して完成を待つだけでいい。
ただ食パンをトーストするだけよりは、ひと手間増えてしまうけれど。それ以上に満足感が大きくアップするので、結構好きでよく作るメニューだ。
食後に洗い物をして、歯磨きもして。
あとはぼーっとしてると、程なく部屋のチャイムが鳴った。
「はーい!」
すぐに玄関に駆け寄って、ドアを開ける。
そこには、春らしい装いに身を包んだ、シオリさんの姿があった。
特に大人な印象を演出するロング丈のフレアスカートが、長身のシオリさんにはよく似合っている。
「こんにちは、ユウキくん。お出かけの準備は大丈夫ですか?」
「はい、すぐに出られます!」
今日はシオリさんと一緒に、お出かけの約束。
僕はシオリさんに大きな恩義がある。祝福のレベルアップを経験し、意識を失うところを助けてもらった――つまり彼女は僕にとって命の恩人だ。
恩義を何らかの形で少しでも返したいと、そう望んだ僕にシオリさんは当初「そんなことは気にしなくていいんですよ」とだけ答えていた。
シオリさんはとても優しいので、救助行為に見返りを求めるつもりなんて、最初から全く無かったんだろう。
ただ、僕がLINEで「どうしても何かお礼がしたいんです!」としつこく食い下がったところ、シオリさんがようやく折れてくれて。
僕にひとつだけ、求めてくれたこと。
それが「ユウキくんに女の子の服を着て欲しい」というものだった。
………………。
正直、なんで? とも思うけれど。
元よりどんな要求をされても応じるつもりではあったので、もちろん僕に否やがあろう筈もなかった。
――というわけで、今日僕はシオリさんの車に乗って服屋に行く予定だ。
なんでだろうね……車に乗せて貰う前から、なぜか頭の中でドナドナっぽい音楽が鳴り響いているような気がしないでもないけれど……。
ちなみに服の代金は全部シオリさんが持ってくれるらしい。
もちろん、僕が自分で払わないとお礼にならないと、何度も言ったんだけれど。これに関してはシオリさんは絶対に譲ってくれなかったのだ。
「……『しまむら』が近所にありますので、そこに行きませんか?」
せめてお安く済ませようと思って、僕はそう提案してみるけれど。
シオリさんは即座に首を左右に振って、それを否定してみせた。
「しまむらも良いお店ではありますが……。今日はもう、友人が経営するアパレルブランドに予約を入れてしまっていますので」
「そ、そうなんですか……」
「はい、楽しみにしておいてくださいね」
そう告げて、満面の笑みを浮かべてみせるシオリさん。
僕は(アパレルブランドに予約って……何?)と、戦々恐々の心地になった。




