14. 剣と盾を持つと、凄く〈戦士〉っぽい!
「わ、なにそれ! 変身能力?」
「変身……と言うよりは、単に防具へ一瞬で着替えただけ、みたいな感じですね。僕は〈衣装師〉という天職なんですが、その能力です。一種のコスプレみたいなものなのかな、と僕は思っています」
「コスプレ……。その衣装だと『戦士』のコスプレってこと?」
「はい。ただしコスプレとは言っても、僕の能力の場合は『一時的に着用している衣装に相応しい戦い方ができるようになる』という効果が付いていますが」
僕の天職である〈衣装師〉は、様々な衣装に着替えることで、その衣装に対応した役割を担うことができるようになる、というもの。
いま僕が装着した白銀の鎧なら《戦士の衣装》と言う衣装になる。これを着ている間だけは、一時的に〈戦士〉らしく戦うことができるようになるわけだ。
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《戦士の衣装》/異能
【現在の衣装レベル:0】
・最大耐久度:300
・防御力 :0
・衣装スキル:〈近接戦闘術Ⅰ〉〈盾術Ⅰ〉
・召喚可能装備:片手剣、小盾
いつでも『戦士の衣装』を召喚して瞬時に装着できる。
衣装レベルに応じて様々な武具を召喚して装備できる。
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〈近接戦闘術Ⅰ〉/衣装スキル
あらゆる近接武器を用いた攻撃の技術が向上する。
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〈盾術Ⅰ〉/衣装スキル
盾を用いた防御の技術が向上する。
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具体的には《戦士の衣装》はこんな感じの異能になる。
こうした情報――自分が持っている異能やスキルの情報は、ステータスカードを利用することで確認が可能だ。
《戦士の衣装》を着ている間は『片手剣』と『小盾』が召喚可能。
というわけで、僕は早速その両方を手元に呼び出してみる。
「おおー。剣と盾を持つと、凄く〈戦士〉っぽい!」
「少しは頼りになりそうに見えていると嬉しいんですが……」
「うーん……。ごめん、アタシには小さくて可愛らしい『女戦士』に見えるかも。どうしても、そのスカートっぽいパーツと、太腿が見えてるのがねえ……」
「……そう言いたくなる気持ちも、それはそれでよく判ります……」
アリサさんの言葉に、僕も苦笑しながら同意する。
僕が身につけた白銀の鎧には、なぜか腰回りにスカートに似た形状のパーツが付いている。
もちろんその部分も金属で出来ているわけだけれど……一体この部分がどんな風に防御面で役に立つのか、僕にはさっぱり判らない。
スカート部分の内側には下着――がある筈もなく。当然その部分も白銀製の鎧で保護されている。まあ、これは鎧として当然だよね。
なのにスカートのすぐ下側、僕の身体で言う太腿の部分は、なぜか肌が露出していたりする。……本当になんで?
膝から下は、白銀製のブーツと脛当てでちゃんと保護されているのに。スカートとニーソックスの間部分だけ肌が露出しているせいで、まるで『絶対領域』があるように見えるのだ。
僕自身の容姿が、ずいぶん幼女っぽくなってしまったこともあるから。
スカートと絶対領域があるこの鎧を着ている姿を『小さくて可愛らしい女戦士』とアリサさんが評するのも、仕方がない部分があった。
あと太腿以外に、肩と肘の部分も肌が露出している。
これに関しては多分、鎧で覆うより関節部の可動性を優先しているのかな。
「ねーねー、ユーくん。その鎧って、重くないの?」
「実はかなり重いです。多分20kgぐらいあります……」
「えっ。そんなに重いと、動きに支障が出るんじゃないの?」
「多少は出るかもしれませんが。でもこの鎧、結構便利なんですよね」
僕の天職である〈衣装師〉には、『自分が受けたダメージを全て衣装に肩代わりさせる』という、ちょっと変わった能力がある。
なので《戦士の衣装》を着用している間は、たとえ魔物から攻撃を受けたとしても僕は一切ダメージを追わず、衣装の耐久度が減るだけで済むのだ。
それに衣装を着ている間しか武器の召喚は行えないから。魔物と戦うなら、鎧が重いことぐらいは我慢しないといけない。
幸い、鎧の重量は全身で支えることができるから、20kgといってもそこまで大きな負担になる重さではない。
ステップを踏んだり、小走りするぐらいなら問題なくできるしね。
流石に軽快な動きはできないだろうけれど。鎧を着た状態での戦い方に慣れさえすれば、それほど支障はなくなりそうだ。
「とりあえず僕が前に出ますね。この《戦士の衣装》を着ている限り、僕は怪我をすることは絶対にありませんので」
僕が受けたダメージは全て衣装が肩代わりする、ということを伝えると。アリサさんはとても驚いた顔をしていた。
「ダメージ無効って……それ殆どチートみたいなものじゃないの?」
「いえ、流石にそこまで便利じゃないです。衣装は耐久度がゼロになると破壊されちゃいますし、そうなったらしばらく衣装を休ませて回復しないと、また着れるようにならないので」
「休ませたらまた使えるって時点で、充分ヤバいと思うんだけど……」
「んー、よくわかんないけど……とりあえず前衛を任せてもユーくんが怪我をすることは無いってことだよね? 凄いじゃん、頼りになる!」
「あ、ありがとうございます。頑張ります」
マナさんに敵が居る方向を教えてもらい、僕を先頭にそちらへ向かう。
通路の角を曲がった先には、果たしてマナさんが言っていた通り、全部で5体ものピティたちが群れていた。
「来い!」
僕がそう叫ぶと、反応した5体全てのピティが一斉に駆け寄ってくる。
ピティなので足は遅いんだけれど。とはいえ、大型犬ぐらいのサイズがある魔物が5体も一斉に迫ってくる光景というのは、結構な恐怖感がある。
普段の僕なら大いに気圧され、怯んでしまっていたかもしれない。
だけど――衣装に守られていれば、怪我をすることはおろか、痛みを感じることすら無いと。そう判っていれば、怯える理由もなくなるというものだ。
「――やああッ!」
真っ先に跳躍攻撃を仕掛けてきた、先頭のピティ。
僕はそのピティの顔面を、左手に持っていた小盾で思いっきりぶん殴る。
もちろん盾は防具であって武器じゃないんだけれど、それでも金属で殴られるんだから痛くない筈がない。
それに身体が子供サイズにまで小さくなってはいても、僕にはちゃんと17歳の男子相応の力があるんだ。
頭部が弱点なこともあってか、僕に殴られたピティはあっという間に光の粒子へと変わり、ダンジョンの中に溶け消えた。
「やっるぅ!」
「ありがとうございます!」
続けて跳躍攻撃を仕掛けてきた2体目以降のピティは、ステップで回避。
流石に全部は避けきれないかな、と思っていたんだけれど。動きが緩慢なピティの攻撃は、重い鎧を着ていても意外なほど簡単に避けられた。
「ギピェッ!」
攻撃を回避されたことで腹から地面に落下し、痛々しい声を上げるピティたち。
そのピティに向けて僕は剣で、アリサさんは刀で、そしてマナさんは楽器で追撃を加えることで、あっという間に5体全てのピティを討伐する。
判っていたことだけれど――武器があるというだけで、ピティとの戦闘は格段に楽になる。
やっぱり待ちの姿勢だけで戦うのは、ちょっとストレスも溜まるしね。




