13. 可愛い男の子に挟まれたいって、そう思わない女子なんていないわよ‼
「あの……。僕は確かにサキュバスですけど、エッチな夢を見せるとか、そういう能力は全く無いですから……」
「あれ、そうなの?」
「はい。相手の夢に出ること自体はできるんですけど、それだけです」
僕は種族『夢魔』に関連する異能を2つ持っている。
それは[夢魔]と[夢渡り]というもので、名前の通りどちらも夢に関するものではあるんだけれど。間違っても『エッチな夢を見せる』なんてものではない。
「あーしの夢に出るの? ユーくんが?」
「えっと……。まず、お邪魔できるのは『夢に訪問する許可』をくれた相手にだけです。なので仮にマナさんから許可を貰えた場合には、僕の分体がマナさんの夢にお邪魔したりできますね」
「……それで、夢の中であーしとエッチなことするの?」
「し、しませんよ⁉ 普通に朝までお話とかをするだけです!」
思わず、かあっと顔が熱くなる。
女性の口からそういうことを言われると、ちょっと想像してしまいそうだし。
「その『分体』っていうのは、どういうものなの?」
「うーん、どう言えばいいのかな……。僕の複製というか、分身というか、そんな感じで――僕自身とほぼ同じもの、ではあります」
アリサさんの問いに、僕はやや言葉に迷いながらもそう答える。
特に誰から教わったわけでもないんだけれど。いつの間にか僕は、自然と自分の能力で何かできるのか、感覚的に理解できるようになっていた。
「ただ分体は幾つでも作れますので、複数同時に存在することができます。例えばマナさんだけでなくアリサさんからも許可を貰えた場合には、お二人の夢に同時に僕が出たりできますね」
「へー、なんか面白そうね。でも、アタシはそもそも普段あんまり夢を見ないし、見たとしても翌朝にはもう何も覚えてないほうなんだけど?」
「あ、僕が訪問した場合は、夢の状態を『夢魔』としての力で安定させられます。なので睡眠時間のほぼ全てで夢を見ることができますし、翌朝の記憶にもちゃんと残るようにできます。ついでに睡眠状態が安定して睡眠中の回復効果が上がり、朝の目覚めもすっきりするようになりますよ」
「えーっ! なにそれ、超おトクじゃん!」
「そこだけ聞いたら、高額のお布団のセールスでもされてる気分になるわね」
マナさんが目をきらきらと輝かせ、アリサさんは軽く苦笑してみせる。
お二人が見せる反応の違いに、それぞれの性格がよく出ているように思えた。
「あとは――ちょっと面白いこととして、僕の種族能力を使うと『お二人の夢を繋ぐ』なんてこともできます」
「夢を、繋ぐ?」
「はい。簡単に言えば、お二人で一緒の夢を見ることができるんです」
「えー! なにそれ超やりたい! ユーくん早速今晩から来てよ!」
「……アタシも興味あるかも。ね、訪問の許可ってどうすればいいの?」
「お二人が僕に『来てもいいよ』って思ってくださっていれば、それだけで大丈夫です。受け入れてくれている相手には、勝手に僕の分体が訪問しますので。
逆に、相手から『もう来ないで』と思われれば、その時点から僕の分体は相手の夢を訪問できなくなる。
なので僕の分体が鬱陶しくなったらそう思ってください、と2人には伝えた。
「あ、ただいくつか注意点もありまして。まず『夢を繋ぐ』ことですが、お二人の睡眠時間が重なっている間しかできないです」
「なるほど、そりゃそうだよね」
「あと夢を繋いでいる間は、たぶん僕が2人いると思います……。夢を繋いで一緒の空間にするだけなので、マナさんの夢を訪問している僕と、アリサさんの夢を訪問している僕、その両方がいるわけですね」
「えっ。なにそれオモロ」
「んひひ。ユーくんが増えてるのとか、それはそれで見たいじゃん」
「うん、ちょっと見てみたい。なんなら挟まれたい」
「お、アリちゃの本性がちょっと出てきた」
そう告げて、とても楽しげにマナさんが笑ってみせる。
笑われたアリサさんは、少し恥ずかしそうに頬を赤らめていた。
「……本性?」
「実はアリちゃは、可愛いものに目がないんだよねー」
「それは女の子としては普通のことでは?」
「でも今のアリちゃは正面でユーくんをハグしながら、背中からもユーくんにハグされてサンドイッチになりたいって、そんなこと考えてるんだよー?」
「あはっ。流石にアリサさんも、そんなことは考えてないと思いますよ?」
マナさんにそう告げてから、ちらっとアリサさんのほうを見ると。
なぜか……やけにじめっとした、熱が籠められた視線を返されてしまった。
「……なによ、悪い?」
「えっ……⁉ わ、悪くはないですけど……」
「可愛い男の子に挟まれたいって、そう思わない女子なんていないわよ‼」
「そ、そうですか……」
豹変したかのような表情で力説され、僕は大きく気圧される。
うん……。あまり深く考えないことにしよう。
あとはアリサさんの夢に出る、分体の僕が頑張ってくれ。うん。
「……」
「…………」
「………………ゴメン、ちょっと頭が冷えた。謝るから、あまり距離を取らないで貰えると嬉しいんだけど。その、素でヘコむから……」
「あっ、はい」
言われて初めて、僕は自分がアリサさんから数メートルほど距離を離していることに気づく。
慌ててアリサさんとマナさんのすぐ近くにまで戻ると。もう一度アリサさんは、小さな声で「ゴメンね」と謝ってみせた。
「まー、アリちゃはこんな感じでたまにおかしくなるけど、許したげてね。可愛い男の子を愛でたいってだけで、流石に犯されたりはしないと思うからさー」
「犯っ……⁉ わ、わかりました。僕は気にしませんので」
「マジでごめん。ちゃんと理性は保つようにするから……」
「あ、漫才中ごめんね。近くに敵が5体きたかもー」
「漫才⁉」
「あはははは!」
声を上げた僕の反応を見て、楽しそうに笑うマナさん。
どうやらマナさんは、色々と3人で会話をやり取りしている間も楽器の演奏を続けることで、魔物が周囲に近寄ってこないか調べていてくれたらしい。
と、とりあえず――魔物が5体も来るなら、さっきみたいにお二人だけに任せるわけにはいかないから。ちゃんと僕も戦おうと思う。
「――《戦士の衣装》!」
僕がそう声を上げると、僕の身体が一瞬だけ強く光り輝く。
すぐに光が収まると――今まで着用していた衣服はどこへ消えたやら、僕が身につけているのは『白銀の鎧』へと変化していた。




