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第127話 心配で心配で ~アグリサイド~

「まぁ、あやつが知らないのであれば、仕方ないのぅ。

 アスビモとやらがやっている商会の使用人を捕まえるしかないのぅ。

 それも、祭りが終わったとにじゃ。

 早く知りたいのじゃが、仕方ないのぅ」


なんかゾルダの喋り方がぎこちないというかわざとらしいいうか……

これは何か企んでいる感じがする。


「早く知りたいなら、魔王に聞きにいけばいいじゃん。

 そうしなよ」


そうゾルダに嗾けてみたのだが……


「それは……その……

 この間の話でこれは解決済みじゃ。

 ゼドのやつには十分苦しんでもらわねばならぬしのぅ……」


しどろもどろになりながら答えるゾルダ。

あぁ、やっぱり何か良からぬことを考えているな。


「そんなことでごまかさなくてもいいじゃん。

 どうせ、祭りだろ?

 祭りに行きたくて仕方ないんだろ?」


「そ……そんなことはないのじゃ!

 ジェナの奴に言われたからのぅ。

 し……仕方なく待つのじゃ。

 ただ、時間が出来たから、暇つぶしに祭りに行くだけじゃ。

 こちらも仕方なくじゃ」


祭りに行きたくてうずうずしていただけじゃん。

祭りというか酒かな。

宿までの帰りもまだ祭りが始まっていないのに、あちこちでどんちゃん騒ぎになっていた。

ゾルダもそれを羨ましそうに見ていたし。


「はいはい。

 仕方なくね」


「そうじゃ、時間が出来たので仕方なくじゃ」


口ではそう言いつつも、ゾルダの顔は残念そうには見えなかった。


「あっ、でもアスビモの使用人たちを確認しておきたいし……

 そこは付き合ってもらわないとな」


「えーーーーっ。

 そんな確認いらんじゃろ」


口を膨らませて文句を言うゾルダ。

お前がアスビモを倒したいって言うから居場所を突き止めることになったんじゃん。

その張本人が嫌がるのか。


「でも逃げられたら、探すのに手間取りそうだけど……」


「まぁ、確かにそれはそうじゃが……

 じゃあ、おぬしとセバスチャンとシータで見張ってくるのじゃ」


しれっと、自分とマリーは外している。


「えっ?

 ゾルダもだろ?

 それに、封印のこともあるから、そんなに離れられないだろ?」


封印されていた武具からはそれほど離れられなかったはず。

それは以前のイハルでの出来事で確認済みだった。

なのに、ゾルダは得意気な顔をして、ニタニタと笑っている。


「それが、そうでもないんじゃな!

 この街の大きさぐらいなら、今は自由に動けるのじゃ!」


「えーーーーっ。

 そのこと初めて知ったけど」


俺の近くにしかいれないものだとばかり思っていたのだが……


「そうじゃ、初めて話すしのぅ……

 なぁ、マリー」


「そうですわ。

 何回か夜にどこまで離れられるかを確認していますわ。

 以前に比べるとだいぶ離れても、武具まで戻ることはなかったですわ」


俺が寝ている間にそんなことをしていたのか、この二人は。


「封印の仕組みはよくわからんのじゃが、ワシらの封印も解けかけているのかものぅ。

 それに対してセバスチャンとシータは最近出てこれるようになったからのぅ。

 以前のワシらのようにおぬしから離れることは出来んようじゃ」


「はい、そうでした。

 私もお嬢様に言われて試させていただいております」


セバスチャンもしれっとその実験に参加していたことを告げた。

まぁ、ゾルダが強引にやらせたのだろう。


「だから、おぬし、セバスチャン、シータで見張りじゃ」


そう言いながら順番に俺たちを指さすゾルダ。

その顔は満面の笑みだった。


「ちっ……仕方ないなぁ。

 ただゾルダも手伝えよな」


「時間があったらのぅ」


「時間なんてたっぷりあるだろう」


「あぁ、忙しい忙しい。

 ワシとマリーはいろいろあって忙しいのじゃ」


ワザと忙しそうなふりをするゾルダ。

その姿を見たマリーやセバスチャン、シータは苦笑いをしていた。


それからあっという間に時間が経ち、ラヒド祭当日を迎えた――


前日から浮かれているのがまるわかりのゾルダだったが……

今朝はさらに浮かれていた。


「遠足前の子供か!」


その姿を見て思わず突っ込んでしまう。


「べ……別に……

 いつもと変わらんのじゃ」


「そうでもないと思うけどな」


「そんなことないのじゃ!」


ごまかそうとしているゾルダだったが、全然隠しきれていない。


「まぁ、いいよ。

 とにかく、騒ぎを起こすなよ。

 それと、昼と夕方には連絡をよこせ。

 あと……」


いろいろと気になったことをゾルダに伝えていたのだが


「あのな、ワシは子供ではないのじゃ。

 あれしろ、これしろ、これするな……

 そんなこと言われなくても分かっておるのじゃ!」


正直一番やらかしそうな奴だから言っているのに。


「ゾルダ、お前がこの国の常識を知らないから言っているだけだ。

 セバスチャンがいれば、いろいろと自重させられたとは思うけど……」


若干じゃなくてだいぶその辺りが心配だ。

人の世の常識では計り知れない存在なだけに、いろいろとやらかしそうで。


「アグリ、マリーもいますから安心してくださいませ。

 お父さまにもきつく言われていますわ……」


どうやらマリーはセバスチャンから昨晩長い時間をかけて常識を叩き込まれていたようだ。

だいぶ疲れた感じを見せていた。


「頼んだよ、マリー」


「はい!

 アグリのために頑張りますわ」


俺がお願いをしたら、マリーは昨晩の疲れが吹き飛んだように、元気になっていた。


「じゃ、俺たちはアスビモの使用人たちを見張ってくるから。

 くれぐれも……」


注意するように言おうと思った矢先、ゾルダがかぶせる様にしゃべりはじめた。


「そんなに何度も何度も言わんでもいいのじゃ!

 わかっているのじゃ!

 もう行くぞ、マリー」


「はい、ねえさま」


膨れっ面をしたゾルダがぷいっと横を向くとマリーを連れて人ごみに消えていった。

俺は二人が見えなくなるまで見送っていた。

俺から離れることがなかったゾルダが、街に出て大丈夫だろうかと心配で心配で仕方なかった。

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